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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2010年2月号

列島縦断ネットワーキング【岩手】

地域の人たちの憩いの場を目指す
「エコレストランあいのの」

高橋千鶴子

エコレストランあいののオープンまで

エコレストランあいののは、社会福祉法人新生会多機能型施設ワークセンターむろおかの作業場の一つとして、岩手県紫波郡矢巾町間野々地区に昨年(平成21年)7月に開設されました。

新生会は昭和58年3月に設立され、身体障害者授産施設、知的障害者更生施設、重度心身障害児(者)施設、地域生活支援センター、就労継続B型施設、GH、CH等を開設しています。

ワークセンターむろおかは、平成19年6月に身体障害者通所授産施設から多機能型施設へと新体系に移行しました。当初は就労移行支援6人、就労継続支援B型20人定員でスタートし、作業内容は、主に部品組立作業の下請けやお中元・お歳暮用の化粧箱の折り作業、おしぼりのレンタル等でした。部品組立の作業は木枠にセラミックの石と金具を順序に並べていく単純作業で、ほぼ半数の利用者がこの作業を行っていました。しかし、不況によっていつまで下請け作業が継続していけるか不安との戦いでした。

そんな中、積極的に新しい作業を見つけようと必死で職員で企業訪問に奔走しました。そしてこれまでの出会いを活かし、利用者のために何かできないかと職員間で検討した結果「地元の食材を活かした弁当作り」というアイデアが生まれ、エコを重視したエコレストランあいののが誕生する第一歩となりました。

初めは1個の夕食弁当作りから

エコレストランあいののの前身は日替わり弁当の製造、惣菜販売です。これまで昼食提供はしていましたが、一人暮らしの利用者の方々が夕食に不自由しているとの相談を受ける中で、同じような環境の方がたくさんいることに気づきました。できることなら手作りで温かい作りたてのものを食べさせてあげたいとの思いから、食品加工部門の作業を実施することになりました。

1個の夕食弁当作りから始まったことが、今ではむろおかの利用者や法人内の職員や関係者の昼食用弁当として、1日50食前後まで売り上げを伸ばすようになりました。近隣の地域行事や学校行事にも特注弁当として注文を受け配達を行っています。当初、包丁で野菜を切ることや肉を触ることも普段の生活ではほとんど無関係だった利用者が、少しずつ調理の技術を学び、時間はかかっても丁寧に盛り付けや調理補助ができるまでに成長しています。お客さんの美味しかったという声に励まされ、水が冷たくても野菜を冷水で洗い、米を優しく研ぎ、食器も一つ一つきれいに洗いあげています。さらにもう一つ大きな目標に、自分たちが作ったものをレストランで食べてもらいたい、という強い希望と作業に対する意欲がありました。

何をレストランの目玉商品とするか

矢巾町には大きな24時間のスーパーやコンビニ、回転寿司や焼き肉店、ファミリーレストラン等が立ち並んでおり、いつでも外食しようと思えば気軽に食事ができる地域です。そこで、何をレストランの看板メニューにするか検討していた頃、宮城県仙台市の虹の園で作っている石窯ピザの存在を知り、早速見学させて頂くことになりました。虹の園の石窯ピザのおいしさと利用者の生き生きと仕事をしている姿に私たちは衝撃を受けました。ピザを作っている方々の充実感と自信と笑顔にあふれた表情、素材の良さも当然ありましたが、おいしさの秘訣は、働く人によって生み出された付加価値が加わったものであると感じました。

こだわりを持ったチーズを使用し生地も手作り、焼き上げのタイミングや火の調節、ピザのトッピングの相性などを丁寧に教えて頂き、さらにレストランで出すメニュー作りにもたくさんの知恵を頂いたのです。子どもからお年寄りまで幅広く食べてもらえる矢巾町ならではのピザができないだろうかと思案をめぐらす中で、地元特産のしいたけと手造り味噌を組み合わせた「みそきのこピザ」を開発、試行錯誤の結果、納得できる味となり、今では一番のおすすめメニューとなっています。

あいののでの「エコ」作戦

エコレストランあいののではその名の通り、エコに対して次のような取り組みを行っています。

1.太陽光発電:発電能力最大8kW、太陽光発電の普及を目指しモニターに子どもたちにも分かりやすく表示。

2.廃油処理(リサイクル):天ぷら等を揚げた廃油を購入時の缶に戻し、友好施設に提供。それを加工し、石鹸にしてレストランで使用。

3.おしぼり・はし・コースター(リユース・リサイクル):紙おしぼりや割り箸は使用せず、布おしぼりと六角箸を使用。コースターは法人内施設で古着をリサイクルした裂き織製品を使用。

4.家具・食器のリユース:調理器具はリサイクル、いす等は中古品をマジックインク等で一部手を加え、新品同様にして使用。

5.調理材料のリデュース:地産地消を推進し、近隣農家が生産した市場出荷できない新鮮な野菜を調達。それにより、日替わり弁当500円や石窯ピザ650円など低価格な料金で提供。

6.残飯なしのリデュース:美味しい料理の提供を第一に料理の味や彩り、盛り付け等に配慮し残飯を極力減少、たくさん食べられる方には大盛りを設定。

7.調理時の皮等のリデュース:調理の際に出る野菜の皮や端の部分等を天然の肥料に還元し、土作り。

8.ランチョンマットのリサイクル:実習生を受け入れている岩手大学附属特別支援学校と施設のコラボで牛乳パックのリサイクル作業を開始。牛乳パックの紙すきでレストランで使用するランチョンマット作りを本格的に開始予定。牛乳パックの回収は、地域に呼びかけて回収ボックスを設置。

9.灰の処理のリサイクル:石焼窯から出る灰は土壌の中和に役立ち、畑に活用。

10.雑草駆除:除草剤は使わず、刈り取った雑草で堆肥作り。

11.ピザ釜の木材・点火材のリデュース:間伐材や庭木の伐採木などを使用し、点火材は地域貢献の一環と神社の清掃を兼ねて杉の葉を拾って利用。

12.ごみの分別省力化のリデュース:農家からの仕入れ食材にかかる容器はレストラン専用の輸送用バスケットを使用し、無駄な包装を省略。

どなたにでも利用してもらいたい

毎週火曜日の定休日は、レストランを開放し、実費500円で蕎麦打ち体験の日としています。地域の方々だけでなく、オストメイト対応のトイレと動きやすい広い店内のため、重い障害の方でも蕎麦打ち体験を存分に満喫できるのではないかと感じています。

また、現在レストランにはお子様ランチのメニューがなく開発を目指しています。地元の紫波総合高等学校3年生と長岡保育園の協力を得て「高校生が考えるお子様ランチ」のコラボ作業の企画があり約1か月半、高校生5人と利用者2人が一緒に共同開発に携わりました。メニューの立案から食材仕入れ、実際に試作品を作り保育園児に食べてもらうまでを繰り返し、地元食材100%で見事なお子様ランチを完成することができました。この企画によって高校生と一緒に話し合って作り上げていくプロセスを学び、利用者が一段と自信を持つことができました。

エコレストランの目指すもの

エコレストランあいののは、使われていなかった空き店舗を改築し、障害者の方でも安心して気軽に食事のできる場所として、日本財団からの助成金によって改築オープンすることができました。今、こうして利用者が生き生きと毎日レストランで働いている姿を見ると熱いものが込み上げてきます。互いに励まし合い苦戦しながらも熱い石窯の前で何枚もピザを焼いています。地域のお客様から「美味しかったよ」の言葉に、また頑張って作りますと笑顔で接客します。そんな利用者の姿から、レストランのオープンによって利用者の働く場、生きがいを提供できたのではないかと感じています。

何よりもワークセンターむろおかの仲間である利用者と家族と職員が一丸となり、これからも地域に根付き、愛されるエコレストランあいののとなるよう努力の日々です。おかげ様でボランティアさんも増えてまいりました。地域の温かさを実感しています。

(たかはしちづこ 社会福祉法人新生会ワークセンターむろおか)