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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2010年3月号

就労関係の予算を見て思うこと

酒井京子

1 はじめに

一昨年の社会保障審議会障害者部会報告において、就労支援については、1.一般就労への移行支援の強化、2.就労継続支援の在り方、3.障害者雇用施策等との連携強化等、という観点から就労支援の充実を図るべきとされた。それを踏まえ、平成22年度障害保健福祉関係予算案について、就労支援の観点から概観をする。

一般就労への移行支援の強化は労働施策との連携のもとに強力に推し進められるものであるが、連携の度合いがなかなか見えてこない。職業安定局の平成22年度障害者雇用施策関係予算において、「雇用、福祉、教育等の連携による地域の就労支援力の強化」が主要な柱に掲げられており、たとえば、新たな予算として、知的障害者等を都道府県労働局やハローワークにおける非常勤職員として雇用する「チャレンジ雇用の推進」のための予算が確保されている。このような取り組みは局の垣根を越えて推進されることが期待されるところであるが、福祉部局において同様の視点があるかは見えてこない。

また、たとえば発達障害者の支援については、障害保健福祉部、職業安定局、能力開発局のいずれも支援策の強化と推進を掲げているが、これらの支援策がひとつのスキームのもとで有機的に一体となった施策の展開が求められる。

他方、労働関係部局ではなく福祉関係部局が就労支援に取り組む意味について勘案しながら、就労支援関係予算を見ていきたい。障害保健福祉関係予算における就労支援の内容は大きく2点あり、工賃倍増事業と障害者就業・生活支援センター事業における地域生活支援事業の推進である。

2 工賃倍増に向けた取り組み

平成23年度までの5年間で平均工賃の倍増を目指すため、各都道府県で具体的な方策等を定めた「工賃倍増5か年計画」を策定し、実施する事業に対して国が2分の1の補助を行ってきたが、平成21年度予算に比べ、半減している。行政刷新会議の「事業仕分け」において、事業手法の効率性や低い執行率等の指摘を受け、新規事業の見直しを行うとともに複数の事業所が協同して受注、品質管理を行う「共同受注窓口組織」の整備や好事例等の紹介をする新規事業が追加された。

これまで工賃倍増事業により進められてきたのは経営基盤の強化であるが、利用者の工賃アップに必要な要素としては設備投資等のハード面の整備ではなく、人材育成や新しい受注の仕組みなどソフト面の充実が重要である。共同受注窓口組織を整備することにより、受注量や販路の拡張、受注内容の拡大など新しい可能性が生まれる仕組みとして、その実効性を期待したい。

また、単純に工賃のアップのみを目指すのではなく、地域の課題を解決していくコミュニティ・ビジネスの主体者となり、働く場をつくっていくなかに福祉サイドが就労支援に取り組む意味を見いだすことができるのではないだろうか。

3 障害者就業・生活支援センター事業の推進

障害者就業・生活支援センター事業は、地域における就労支援の核として重要な役割を担い、平成23年度までに全福祉圏域の367か所の設置が目標とされているが、予算的な措置の厳しさや担い手の不足から遅々として設置が進まない状況がある。

昨年度より、障害者就業・生活支援センター事業の生活支援に関する事業は、各都道府県の地域生活支援事業から独立した予算として確保されたことは生活支援の観点からは進展である。就業生活を継続していく上で生活支援の必要性は言うまでもないことであるが、障害者就業・生活支援センター事業において長きにわたり、就業支援ワーカーは複数名の配置であるのに対し、生活支援ワーカーは1名のみであった。平成22年度予算において、非常勤といえどもさらに1名分の人件費分が追加されたことは大きな前進といえる。しかしながら、都道府県が2分の1を負担するという補助形態は変わらず、都道府県の判断に委ねられていることから未設置圏域がまだ多く存在する原因となっている。今回、予算上、非常勤職員が新規配置になったものの、生活支援の充実に直結するとはいえないところに、障害者就業・生活支援センター事業の課題が残されている。

今後ますます障害者就業・生活支援センターは、労働と福祉の連携のもとで地域の相談支援事業所や就労移行支援事業所等と連携を図りながら、ケアマネジメントを進めていく存在として担う役割は大きく、事業のあり方そのものの改善が望まれる。

4 おわりに

障害者自立支援法の廃止が決まり、障害のある人の支援について新しい枠組みでの議論が進められている。国際障害者年の行動計画において「障害者を排除する社会は弱くて脆い社会」という理念が提示された。一般就労に限らず、働くということは社会の一員となり社会経済活動に参加することであり、排除の対極にあるインクルージョン実現のための最大の方法であると考える。

新しい政権では「コンクリートから人へ」という財政に関する方針が打ち出された。障害の有無にかかわらず、働くことを通じて人の可能性が発揮できる社会の実現を望みたい。

(さかいきょうこ 特定非営利活動法人全国就業支援ネットワーク)