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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2010年4月号

列島縦断ネットワーキング【岩手】

盛岡市における工賃アップの取り組み
~障がい者就業支援・工賃アップ総合支援事業~

菅原由紀

はじめに

岩手県では「岩手県障がい者工賃倍増5か年計画」(平成19年度~23年度)を策定し、福祉的就労の場で働く障がい者の工賃水準の引き上げに向けた取り組みを進めています。岩手県の平均目標工賃は、平成23年度1か月一人当たり27,700円(岩手県は地域活動支援センターと小規模作業所を含む)ですが、現状の盛岡広域の平均賃金は、平成20年度実績で13,052円、同じく岩手県平均は15,109円であり、積極的な取り組みが必要とされていました。

工賃アップに向けて始動

盛岡市は、平成20年度から、障がい者就労支援事業所の販売場所の拡大と販売訓練の場として、市役所の庁舎玄関ホールに月3回、臨時特設販売所を設け「ふれあい広場販売訓練体験事業」を企画してきました。参加者からは、評価される半面、参加希望が多いのでもっと場所や機会を拡大してほしいとの要望が寄せられ、積極的な展開が期待されていました。

育てていく事業

“障がい者就業支援・工賃アップ総合支援事業”は、ふるさと雇用再生特別基金事業を活用した次の三つの事業から構成されています(図1)。三事業の委託先担当者が中心となり、総合コーディネーターの指揮の下で、関係者が集まって協議をしながら進める形態を取り、みんなで育てていく事業として取り組んでいます。

図1 障がい者就業支援・工賃アップ総合支援事業【ふるさと雇用再生特別基金事業】【事業年度:H21~23】
図1 障がい者就業支援・工賃アップ総合支援事業【ふるさと雇用再生特別基金事業】拡大図・テキスト

一つ目の事業は「福祉事業所の商品開発と販路拡大支援事業」です。委託先は、社会福祉法人盛岡市社会福祉事業団。目的は、障がい者の就労支援を行っている事業所に対し、代理営業やコーディネート等販路拡大のための支援を行い、障がい者の工賃アップを図ります。また、商品開発のための研修会などを企画運営します。共同販売会の企画の中心となります。

二つ目の事業は「福祉事業所生産性向上支援事業」です。委託先は、4つの社会福祉法人の6事業所。目的は、生産現場の指導を行う担当者を雇用し、雇用先のみならず他の事業所にも作業過程の効率化やコスト削減、売れる商品の製作や製造方法の検討、経営指導や提案などを行うことにより、工賃アップや安定化を図ります。販売方法や商品の魅力のアピール、販売員の接客マナー等についても向上を図ります。

三つ目の事業は「チャレンジド人材活用事業」です。委託先は、社団法人盛岡市身体障害者協議会。目的は、障がい者(個人や福祉事業所)に仕事情報を提供するための営業を行い、登録した利用者や福祉事業所とのマッチングを行っています。福祉事業所の受託作業が激減したため、新たなジャンルの開拓を手掛けています。障がい者の働く場を探すとともに、ハローワークや盛岡広域障害者就労・生活支援センターなどとも連携をとり、障がい者に寄り添って手続き等の支援も行っています。また、ホームページを開設し、障がい者サイドの視点でわかりやすく便利な情報提供を試みています。

総合支援事業は協働で推進

「福祉事業所の商品開発と販路拡大事業」は平成21年8月からスタートしました。市民が通っている事業所(隣接町村を含む)へこの事業への参加呼びかけを行い、連絡会を結成しました。当初の説明会では、「以前にもこのような取り組みをしたことがあるが、成果は上がらなかったので無駄ではないか」などの意見がだされましたが「全体の底上げを図るチャンスとして、連携やコーディネートをする仕組みを作ろう」とやってみることになりました。現在は、31事業所のほか岩手県社会福祉協議会などが構成メンバーです。

続いて10月から「福祉事業所生産性向上支援事業」と「チャレンジド人材活用事業」をスタートしました。連絡会は、月1回関係者が集まり、三つの事業の報告や協議を行うほか、市や岩手県社会福祉協議会からの情報提供の場ともなっています。21年度は連絡会と同日開催で、岩手県立大学准教授による販路拡大をテーマとした5回シリーズの研修会を行いました。

そのほか「生産性向上支援事業」担当者主催の専門研修会も6回開催されました。お祭りやイベントへの参加のとりまとめや商店街とのコラボレーション企画、無人販売所の設置などを行い、なかでも最大の取り組みはデパートでの共同販売会でした。さまざまな経歴を持つ担当者のほか、大学や行政も交えて、広い視点で販路拡大と就業支援に奮闘中です。

デパートにて「第1回もりおか福祉ブランドフェア」開催

2月にデパート(中三盛岡店)の協力を得て、催事として6日間、販売会を行いました。この催事に当たり、福祉事業所の商品を表わす名前をつけました。協議の結果、名前は「福祉ブランド」、販売会は「福祉ブランドフェア」と名づけました。共同で取り組むこともデパートでの販売も初めての試みであり、売上目標もどのように立てたらよいかもわからないまま、デパートの担当者に教えてもらいながら準備をしました。

今回の目的は、デパートとの契約、値札の表示から商品の搬入、売り場の作り方やディスプレイの仕方、販売員の配置や試食の出し方、商品の管理や棚卸し等販売をする上でのさまざまな知識を学ぶことであり、売上は多ければうれしいということにしました。

販売会にあたっては事前の準備が追いつかず、広報が十分にできなかったことが残念でしたが、結果は予想以上の売上となりました。初日の夕方には商品が売り切れ、翌日の開店に追加補充が間に合わないなど、納品や管理面で問題点が多くでましたが、次回に向けて良い経験になりました。うれしい驚きは、イベントの屋台販売ではめったに売れない皮細工を手に取るお客様が多く、売り方を工夫すれば商品の魅力を伝えられると確信できたことでした。

おわりに

「福祉ブランドフェア」を行うことにより、福祉ブランドが認知され、障がい者の社会参加の機会を増やしていくきっかけとなり、さらに、盛岡の街角に福祉ブランドが普通にあるような街づくりへと広がっていくことを期待します。

この事業は、平成23年度末までの期限付きの事業です。それまでにネットワークをつくり、共同販売会に関するノウハウを共有し、蓄積された知識や連携の仕組みを使って継続していける体制を目指していきます。

(すがわらゆき 盛岡市保健福祉部障がい福祉課)