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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2010年5月号

City Lightsの活動紹介

平塚千穂子

きっかけは「街の灯」

City Lights(シティ・ライツ)は目の不自由な方々とともに映画鑑賞を楽しむことのできる環境づくりに取り組んでいるボランティア団体です。

映画好きの晴眼者と視覚障がい者が、共に映画鑑賞を楽しむためにはどうしたらよいか?と試行錯誤しながら、一緒に活動を続けてきました。現在、会員数は約220人。立ち上げ当初から続けているメーリングリストの参加者は約600人。半数以上が視覚障がい者の方々です。

活動のメインは、映画館にご協力いただき、映写室でボランティアスタッフが行うライブ音声ガイドを、FMラジオで聴きながら鑑賞できる「シアター同行鑑賞会」の開催や、音声ガイド勉強会の開催のほか、映画情報のサポート活動として、音声ガイドだけでは説明しきれない映画の詳しい解説や、各地のバリアフリー上映情報等をお伝えするメーリングリストの運営を行っています。

また、行政や福祉施設・団体から、どうしたらバリアフリー上映会ができるのかといった相談や、音声ガイド制作依頼も増えてきたため、2年前に、バリアフリー上映のさまざまなノウハウや取り組みを紹介する、全国バリアフリー上映ネットワーク(ABCネット)も作りました。当面、全国から10団体が加盟。シティ・ライツが事務局を担当し、上映会や新作映画の音声ガイド作りに協力しています。

シティ・ライツという団体名は、チャップリンの映画「街の灯」の原題からとりました。私が視覚障がい者と知り合い、この団体を立ち上げるきっかけとなった映画だからです。団体を立ち上げる前、映画館で働いていた私は、「いつか自分で映画館をつくりたい」という夢を持ち、インターネットで映画好きの仲間が集うコミュニティーに参加していました。そして、その仲間と上映会の企画を立てていて、サイレント映画の「街の灯」を、聴覚障がい者だけでなく、視覚障がい者にも鑑賞できるバリアフリースタイルで上映しよう、という案があがったのです。

しかし、そもそも目の見えない人が映画をみるのだろうか?どうやって見るのだろうか?と、壁にぶち当たりました。「街の灯」は、チャップリンが盲目の花売り娘に恋をして、目の手術費用を稼ぐため奮闘するという感動作。この感動をどうにかして伝えたいと、いろいろなリサーチを始め、実際に視覚障がい者の方々に会いに行くことにしました。

なかでも衝撃的な出会いだったのは、トークパフォーマンス劇団「こうばこの会」との出会いでした。視覚障がい者自らが脚本を書き、演出も行い、舞台に立って芝居をする、非常に変わった劇団でした。その劇団の視覚障がい者の方々が「映画はあきらめていたけど、本当は観たい」「副音声が付いていれば、映画だって想像して楽しめるのに…」という意見をくれました。さらにリサーチを続けると、欧米ではバリアフリー映画館が存在し、目の不自由な人も公開と同時に“副音声”付きで話題の映画を鑑賞しているということが分かりました。これも驚きでした。

「目が見えないというだけで、映画との出会いが遮断されてしまう」。普段、当たり前に映画を楽しんでいた自分のことを思うと、とてもいたたまれない想いがしました。そして、シティ・ライツ設立に踏み切ったのです。今から9年前のことでした。

映画のバリアフリー

映画は視覚によるところの大きい芸術です。ですから「見る」ことにバリアがあるのは言うまでもありませんが、映画の面白さは、「見る」ことだけがすべてではありません。ストーリー、音楽、音響、役者の演技など、作品の一部をじかに感じながら、見えないことでリンクしない視覚的な情報を言葉で補うナレーションがあれば、作品の伝える情報の100%といわずとも、50%でも60%でも受け取ってもらえるのではないかと思います。

私たちは「見えること」を言葉で補いながら、一緒に映画を楽しむ方法を考えてきました。これが「映画音声ガイド」です。まず、字幕スーパーでしか上映されない外国映画については、字幕を読み、重要なセリフの情報を伝えます。それから日本映画と外国映画、両方に必要なのは場面状況の説明ですが、これはテレビドラマに付いている副音声と同じように、セリフの合間や場面転換などでナレーションを挿入します。ただ時間や場所、動作を説明するだけではなく、映画的なカメラワークや演出なども分析し、作風を崩さないように表現します。これはより映画を、映画として楽しんでいただく工夫の一つです。言葉の選び方にもとても気を使います。

音声ガイドのFM送信

劇場で一緒に映画鑑賞を楽しむため、最初に試みたのはボランティアが隣に座って耳元で小声で解説を行い、一緒に鑑賞する方法でした。しかし、これでは映画を静かに鑑賞したい一般のお客さまに迷惑となってしまいます。そこで導入したのがFM送信システムです。音声ガイドをFMの微弱電波で客席に飛ばすので、視覚障がい者の観客は、持参したFMラジオの周波数を合わせれば、イヤフォンでこの音声ガイドを聴くことができます。

アメリカではすでに10年以上前から、このようなシステムを搭載した劇場が100館以上あり、「スター・ウォーズ」や「ハリー・ポッター」などの超話題作が当たり前のようにバリアフリー上映されていましたが、日本では、このような常設映画館はありません。作品によっては、配給会社が音声ガイドや字幕を制作し、劇場公開時にも期間・場所限定でバリアフリー上映が行われることがありますが、このようにバリアフリー化される作品は、盲人が主人公であったり、盲導犬が出ているなど関係性のある邦画が多く(最近になって、ようやく一般的な娯楽作品もバリアフリー化されるようになりましたが)、年に5本あるかないかといった状況です。

映画会社が音声ガイドを付けなかった作品でも、横浜のシネマ・ジャック&ベティや、川崎アートセンター等のコミュニティーシネマと呼ばれる劇場では、地元のボランティアグループが音声ガイドを付けて、月1回の定期バリアフリー上映会を継続的に実施していますが、まだまだ視覚障がい者にとって映画鑑賞の機会は少ない現状です。

そこで、シティ・ライツは既存の映画館にご協力いただき、団体鑑賞会を企画しています。音声ガイドのスタッフを映写室に入れていただき、上映中のスクリーンを観ながらその場でライブ実況の音声ガイドを付ける。その声がFMラジオで聴くことのできる「シアター同行鑑賞会」をあちこちの劇場で開催しています。初めは月1回程度でしたが、今ではほぼ毎週末開催している人気のイベントとなっています。

これからの課題

音声ガイドの普及のためには、二つの方法があると思います。まずは、映画会社のような映画の著作権を有する組織が音声ガイドを付けて劇場公開し、ゆくゆくはDVDにも収録することですが、それには莫大な制作コストがかかるため、なかなか進展しません。これらの費用をアメリカのように国が補助する仕組みができれば、映画会社主導で公式にバリアフリー化される作品の数が増えるのではないかと思います。

またもう一つは、音声ガイドの制作に取り組むボランティアやNPOの活動を促進し、市民の手で音声ガイドの提供機会を増やすことができるよう、ある程度著作権の縛りを解放していただくことです。現状では、日本点字図書館が著作物を録音化できる権利を有し、市販・レンタルDVDに連動する音声解説データをライブラリー化し、利用者に貸し出していますが、これは、パソコンユーザーにしか利用できないサービスですし、全国的にはまだ普及していません。パソコンを使うことのできない方や、地方の視覚障がい者から、音声ガイド入りの録音テープを貸し出してほしいといった要望をいただいても著作権法上の問題があり、応えることができません。

また最近では、ボランティアが制作・提供している音声ガイドそのものに対しても、映画著作者の意図が反映された正しい音声ガイドなのか?といった不審感を向けられることがあり、映画製作者サイドとの連携も課題となっています。

私たちは今まで映画鑑賞のままならなかった視覚障がい者の方々の要望を伝え、もっとたくさんの、素晴らしい映画との出会いを提供していきたいと思います。映画が全国どこにいても、手軽に楽しむことのできる文化の一つとなることを願い、これらも課題解決に取り組んでいきたいと思います。

(ひらつかちほこ バリアフリー映画鑑賞推進団体シティ・ライツ代表)