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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2010年5月号

ほんの森

こころの医療 宅配便
―精神科在宅ケア事始―

高木俊介著

評者 倉知延章

文藝春秋
〒102―8008
千代田区紀尾井町3―23
定価(本体1667円+税)
TEL 03―3265―1211

世界の先進国における重度精神障がい者支援はACT(Assertive Community Treatment)である。これは、入院中心の医療ではなく、医療と生活支援・就労支援を、彼らが住み慣れた地域において提供する支援である。したがって、医療、生活支援、就労支援のスタッフがチームを組み、彼らの自宅を訪問して支援を行う。

残念ながら、わが国ではACTの仕組みは取り入れられていない。高木俊介はACTの支援方法を真っ先に取り入れ、京都で実践してきた医師である。本書は、ACT開始に至った経緯と、開始後の6年間の最前線での奮闘ぶりを、分かりやすく、そして熱く綴っている。

本書に書かれていることの一部を抜粋してみる。高木は、統合失調症という重度の精神障がいがある人の支援には、「同じ人間として理解し、そばにいてあげる」「彼ら彼女らの現実生活の現場の中で、問題となっていることをひとつひとつ解決して行かなくてはならない」「病院やお役所にいて待っているだけの医療や福祉ではダメだ」「いつでも生活の現場に出向いて、そこで起こるさまざまな困難に対して一緒に考え解決していけるような、訪問による援助を行える体制が必要」と強く訴えている。

そして、ACTの実践が理想の精神医療、福祉のあり方であり、これこそが精神科の「先端医療」であると言い切る。実際に、第一章「訪問支援・春夏秋冬」および第六章「訪問支援・東奔西走」を読むと、ACTチームによる24時間対応の訪問支援、医療と生活の支援の様子がありのままに記されており、その様子が手に取るように分かる。

高木の言葉は真実だ。しかも、身も心も削るような支援もあったのであろうが、ここでは温かく、ほのぼのとした様子が書かれている。それだけで「良い支援だな」と感じさせてしまう。

第七章で高木は、ACTが開く未来について語っている。「病院は病気をうまく管理することだけに気をとられてきた」「福祉は能力のない者に恩恵を与える姿勢を捨てきれずにきた」と、精神医療と福祉の問題の核心を突き、ACTはそれを変えられると言い切る。

最後に高木は、ACTをネットワーク化し、精神医療・福祉の第三の道を探ることを今後のミッションとすること、そして、そのうねりが始まっていることを指摘している。今後のわが国におけるACTの動きに目が離せなくなった。

(くらちのぶあき 九州産業大学教授)