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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2010年6月号

列島縦断ネットワーキング【滋賀】

社会就労センターこだま
~地域のお助けマン「便利屋さん」

長谷暁

はじめに

「社会就労センターこだま」は、滋賀県大津市にある知的障害者の通所施設です。現在55人の方が利用され、パン製造・販売、手織り、ビルメンテナンスなどの作業に従事しています。今回は「こだま」が4年前から取り組んでいる「便利屋さん」についてご紹介します。

便利屋さんを始めたきっかけ

「便利屋さん」のルーツは、15年ほど前に大津市社会福祉協議会とともに始めた「介護用ベッドリサイクル事業」です。

当時、大津市社会福祉協議会では「介護用ベッドを必要な市民の方に貸し出したいが、搬入・搬出をする人がいない」という悩みを抱えておられました。この依頼を受けて、障害のあるメンバーがお年寄りや病気の人がいるご家庭に伺ってベッドを組み立て・分解して運ぶ、という仕事が生まれました。ベッドを利用される方にとても喜んでいただける仕事として、現在は、年間100件以上の依頼を受ける事業になりました。

この事業を通して、高齢の方のお宅にお邪魔することが増えて、高齢者福祉とつながりができていくことになりました。高齢者福祉のケアマネジャーの方から介護保険制度(ホームヘルパー)の仕事の中で、グレーゾーンやブラックゾーンと言われる仕事の相談がありました。たとえば夏・冬の衣替え、庭木の剪定や草刈りなどの「ヘルパーではできないちょっとした困り事」です。「この仕事であれば、こだまのメンバーが役立つことができるのではないか」、また「障害をもつ彼らの実践につながるのではないか」と思い「便利屋さん」がスタートしました。

ニーズに比例した仕事内容

1.高齢者宅の作業(遺品整理・大型ゴミの運搬・処分・引っ越しなど)

依頼は社会福祉協議会やケアマネジャー、地域の民生委員の方からで、「身寄りのない方の遺品の整理をしてほしい」、または「家族だけでは遺品の整理が大変だから手伝ってほしい」といった用件です。ゴミ回収車が引き取りに来るまでの整理作業を行います。「便利屋」のメンバーにはこまごまとしたものをゴミ袋にまとめる作業やタンスや棚を外に運び出す作業などを担当してもらいます。作業中に、硬貨や紙幣が次々に出てきて驚かされることもありました。

また、合計11トンの遺品を処分する作業があり、ゴミ回収車に4回も取りに来てもらった大がかりな作業もありました。力仕事が得意なメンバーは、声を掛け合って協力して作業を進めています。根気強く床を磨いたりキッチンの油汚れを取ったり、力仕事が苦手なメンバーが力を発揮する場面もあります。それぞれの個性に合わせた仕事作りができるのもこの仕事の魅力です。

2.アパート・マンションの清掃業務

2009年より企業と業務提携することになり、アパートやマンションの共用部分の定期清掃を任されるようになりました。メンバーはクモの巣取りや廊下・階段をほうきで掃いてモップがけをしたり、手すりやドアをふいたり、ゴミステーションの分別確認や清掃をしたり、周辺の草刈りなどを行います。

今後は、企業と連携して共用部分の清掃だけでなく、マンションにお住まいの方用の「便利屋事業」を持ち込みたいと考えています。

3.草刈り・庭木の剪定・木の伐採作業

依頼された庭をお客様の仕上がりのイメージに近づけられるよう、丁寧にコミュニケーションを取りながら作業を行います。なかには作業中にメンバーに話しかけてくれるお客様もおられて、「ちょっとした困り事」を聞き出すチャンスでもあります。

4.社会的弱者から人権を守る仕事

家族の虐待から避難を余儀なくされた方のお手伝いに行ったこともあります。相談員の立会いのもとに作業に取り組みます。こういった仕事は、メンバーに守秘義務や人の気持ちに寄り添うことが要求されます。このような仕事で、生活面の困難さや市民の人権を守る仕事に関わる大切さを学ぶことができますが、現代社会の矛盾を垣間見ることになり、メンバーと共に深く考えさせられる瞬間でもあります。

「ありがとう」の一言

便利屋さんの仕事は根気も体力も必要で、メンバーもへとへとになる作業ですが、「やっと終わった!」と達成感を感じる作業でもあります。遺品整理で見つかった写真や手紙などご本人を偲ぶものは、ご家族にお送りしています。ご家族の感謝の言葉で、メンバーも職員も一緒に笑顔になって「大変だったけどやってよかった!」と満足感で満たされます。

お客様からの声

  • 4月に行った草取りで「これからバジルを植えたら夏にはバジルソースが作れるので便利屋のメンバーに食べてもらいたい」とうれしい言葉をいただけることがありました。
  • マンションの定期清掃では、住民の方から「丁寧な作業をしてもらってごくろうさま」とその場で感謝の言葉をいただいたりします。
  • 足の悪い高齢の方からお墓の掃除を依頼されたことがあります「掃除のついでに花を添えて来てほしい」とおっしゃられました。「このおばあちゃんにも一緒にお墓の前で手を合わせてほしい」と思い、ホームヘルパーと協力して、ご本人に花を添えてもらうことができました。「もう一度生きている間に来れた」と涙ながらに言われた時には、この仕事のやりがいを感じずにはいられませんでした。
  • 冬にベッドを運びに行った先で、お客様が水風呂に入ったまま意識が無かったこともありました。メンバーと協力してその方を抱きかかえ、水の中から救出しました。もし便利屋が行っていなかったら、あのお客様は亡くなっていたかもしれません。

このように、お客様からの感謝の声を生で受け取ることができること。これが便利屋メンバーのモチベーションにもつながっていると思います。

便利屋さんはメンバーが社会とつながるツールとしてだけでなく、利用されるお客様の生活を守り、お客様もまた社会とつながるツールとしての存在意義があるのではないかと思います。

地域と共に成長

社会の中でも身体的・社会的・経済的に困っておられる方、いわゆる社会的弱者と言われる方の生活を支えることを事業のコンセプトとしている「便利屋さん」は、料金に関してもお客様と相談して決定しています。

収益を考えることもありますが、お客様の困り事を解決しお客様の生活が向上することや、問題解決のプロセスにメンバーが関わることで、自信を獲得していることなどを大切にしているため、場合によっては利益を度外視するなど柔軟に対応しています。

地域の中で「便利屋さん」が民生委員の方やケアマネジャーの方、また福祉相談所の間で評判になり徐々にではありますが、「便利屋さん」の存在が確実に広がってきています。こだまのメンバーがきっちりと依頼に応えてきたことで、地域の信頼を得て依頼数が増加し、地域とのネットワークが広がってきているのだと確信しています。

今後は、より一層、作業に関する専門的な技術や知識が必要となってきています。「便利屋さん」は技術や知識はプロではありませんが、より多くの地域のニーズに応えるために、専門的な技術や知識を取り入れるなどして、今後の活動に「付加価値」を付けていくことが必要です。

「便利屋さん」は地域の「ちょっとしたお困り事」に目を向け、地域の方と共に活動を組み立ててきました。これからもっと「便利屋さん」が発展し、より広く、より高度なニーズに応えていけることこそが地域の「望み」であることを支えにして、メンバーとこれからも頑張っていきたいと思っています。

(ながたにさとる 社会就労センターこだま)