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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2010年7月号

企業との協働に求められるNGO、NPOのあり方

高橋陽子

はじめに

公益社団法人日本フィランソロピー協会は、1991年より企業の社会貢献を核にした社会責任に関する事業を推進してきました。フィランソロピーという言葉は、社会貢献と訳されていますが、むしろ社会参加だと思っています。フィランソロピーとは、一人ひとりが社会参加して、社会を作る主体として、お互いが助け合いながらいきいきと役割を果たすことである、と定義して、今日までその推進に尽力してまいりました。

日本の大きな問題の一つは、日本社会が同質の人たちだけが集まりやすい蛸壺(たこつぼ)社会だということです。その結果、蛸壺の中で閉塞感に苛まれている人が多くなっています。うつ病の人たちは100万人を超え、社会問題に発展しています。自殺者も年間3万人を超え、貴重な人材が失われています。原因は複合的で特定は難しいですが、経済・効率優先の行き過ぎた社会の弊害もあるのではないでしょうか。

そこで、当協会では、特に企業人が、自分の所属する狭い蛸壺社会から出て、広い社会の中で多様な人に出会い、いろいろな考えや感じ方があることを学ぶことで、その中での自分の役割や位置付けが見えてきて、一人の人間として元気になるきっかけをつくってほしいと考え、企業とNPOの橋渡しをしたり、さまざまな社会貢献の企画を開発して、コーディネーターとしての役割を果たしています。

企業の障害者支援の概観

2003年はCSR元年と言われていますが、それ以降、社会貢献も社会的責任(CSR)の中に位置付けられるようになり、余裕があったらするという利益還元型から、社会の中で企業経営をする上での当然の責任である、と変化してきたことは喜ばしいことです。

ただし、なぜ、その企業がそのジャンルの支援をするのか、なぜその団体を支援するのか、の説明責任も問われるようになり、どうしても本業と関わりのあるものや、自然環境など、どの業種であろうが必ず果たさなければいけないものに関心が集まるようになっている、という現実もあります。そうした中で、障害者支援は、ジャンルとしてはどうしても関心が低くなってしまいます。従って、企業からの支援や協働を考える場合は、そうした企業側の事情も考慮し、提案をする必要があります。

企業へのアプローチにおけるポイント

1.企業としては、本業に関連付けられるプログラムや団体への支援であることが望ましいので、アプローチをする企業を選ぶ時は、そうした観点から考えることがポイントとなります。

2.昨今、ユニバーサルデザインやバリアフリーは、企業にとって重要な要素ですが、モニタリングは、従来は、障害者団体にお願いしているケースが多いのだそうですが、どうしても縦割り、すなわち蛸壺になって、同じ障害の人ばかりに偏ってしまい、商品開発にとってあまり有効ではない場合が多いようです。従って、NPOなどで、さまざまな障害者団体とネットワークして、多様なモニタリング事業をするということも、企業にとっても当事者の方々にとっても意味があるのではないでしょうか。

商品の協働開発という例では、トステム株式会社がNPO法人ユニバーサルデザイン生活者ネットワークと協働で、UD住設機器の製品を開発するなどが好例としてあげられます。

3.昨今、「顧客は個客」というぐらい多様になってきました。従って、直接消費者に接する業種では、その対応は重要な課題になっています。そこで、NPOの事業として、従業員研修などもニーズは多いと思います。実際、携帯電話の販売店を作る時に、車いすの方にコーディネーターと講師を依頼して、店づくりにご協力したことがありますが、勝手に思い込んでいたことが多く、目からウロコ、ということはよくあるものです。

4.企業におけるCSRの中で、従業員のメンタルヘルスに関する問題は年々深刻になっていることは前述したとおりです。従業員は、CSR推進の要ですから、彼らの、仕事や会社に対する誇りや愛情、モチベーション向上は、会社の発展にとっては不可欠です。そのために、社会貢献は特効薬にはなりませんが、漢方薬としての効果はありそうです。ボランティア等を通じ、会社の外の世界を知るきっかけになり、また、社内の活性化にとっても、結構いい効果を上げているようです。

IT化が進み、どうしても生のコミュニケーションが不足しがちですが、ボランティアなどで新たな出会いができたり、仕事で接する同僚や上司の意外な別の面を見ることもあり、その後のコミュニケーションにも役立っているということはよく聞きます。

また、チームワーク力の向上や、風通しのいい社内風土の醸成にも一役買っているようです。企業社会は縦のヒエラルキー社会ですが、ボランティアの世界はフラットな釣りバカ日誌の世界ですから、“ハマちゃん”“スーさん”を演じることが、むしろ人間同士の共感が持てて新鮮なようです。そうした中に、障害のある方たちが交ざれば、なお面白くなるというものです。NPO側で、社員研修を兼ねたボランティアプランを提案してみたらいかがでしょう?このように、企業の関心に沿ったプランを提案することで、さまざまな接点が見つかると思います。NPOにもサービス精神が必要なのではないでしょうか。

ファンケルの障害者支援

横浜市に本社のあるファンケル株式会社は、化粧品を中心にした通信販売をしていますが、以前から近隣にある重度心身障害者の通所施設・社会福祉法人訪問の家「朋」と付き合いをしています。従業員がボランティアに行ったり、クリスマス時期には、同施設の職員を招いてクリスマスパーティを開催したり、日ごろから顔の見える支援をしていました。

さらに、同社の顧客は全国にいるので、顧客にも理解・参加してもらえる仕組みを考えたい、ということで当協会にご相談がありました。そして、顧客のポイントの一部を寄付に変える仕組みを作ることにしました。寄付先は、当協会が全国から選んだ10か所の重度心身障害者施設やNPOです。寄付が縁で、ボランティアとして出向いたり、雇用につながることを期待しています。

冒頭に述べましたように、障害者支援はなかなか日の当たらない分野なので、これは、非常に貴重な支援であると思います。ファンケルにとっては、障害のある人たちと接することで、従業員の感性や思いやりの心が生まれ、また、地域の課題も見えてきて、顧客の視点に立った仕事づくりにも反映すると考えているそうです。こうした例が全国に広がってほしいものです。

障害者支援における企業とNPOの協働の意義

資生堂では、高齢者施設や障害者施設に出向いて、お化粧教室を開催しています。それまで車いすで移動していた人が歩けるようになったとか、おむつが取れた、という話をよく聞きます。これは人間の心理を考えると納得できるようにも思います。ご本人の意欲がないと、リハビリもなかなかうまくいかないものでしょう。目的ができたり、欲求が芽生えれば、いい効果を生むことは往々にしてあるものです。

障害のある人と毎日接する方々は、専門家としての接し方や訓練の仕方があると思いますが、企業の方々や、ボランティアの方々には、むしろプラスαでお楽しみの部分で関わったり支援をしていただくことで、本来の活動やリハビリに有効に作用することもあるようです。企業の人たちの気まぐれなボランティアに付き合っている余裕はない、ということもよく聞きますが、その遊び心や笑いが、案外、どんな人の暮らしにも、とても大事なのではないでしょうか。

NPOの役割は、障害者、高齢者という属性で見ていた人を「~さん」「~くん」という血の通った人間として、一人の仲間として見ることに変換させることです。企業の中にだけいると、企業も社会の中の一員、ということを忘れてしまいがちです。そのことに気づくきっかけを作る橋渡しの役割がNPOにはあると思います。

ただし、NPOの人たちも、自分たちの活動だけにとらわれていると、同じように、社会の中の一員ということを忘れてしまいがちです。もちろん、当事者である障害のある人も同じです。それぞれの蛸壺から出て、同じ社会の仲間として、助けあったり譲りあったりでお互い力を出し合い、少しでも笑顔のある温かいつながりを作りたいものです。

(たかはしようこ 公益社団法人日本フィランソロピー協会理事長)