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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2010年7月号

アートを切り口に企業と共同で新しい文化の創造

エイブル・アート・ジャパン

エイブル・アートが目指すこと

エイブル・アート・ジャパン(以下、エイブル・アート)は、障害とアートを切り口にして社会に新しい芸術観や価値観を提案することを目指して活動しています。日本の社会は、基準や価値観が単一的でそこに合わない人たちは社会から排除されやすい傾向にあります。障害のある人たちも、個人の問題ではなく、社会との関係(違い)において障害者という枠に入れられているとも言えます。

しかし、アートは他と違わなければ価値が認められません。私たちはそこに着目しました。他人と同じでなければならないということをアートの特性を活用して価値転換を図り、それによって、さまざまなマイノリティーの人も生きやすい社会が実現することを目指しています。

93年、アジア太平洋障害者の十年が始まった年に、障害者芸術文化ネットワーク準備委員会は「障害のある人たちの芸術文化活動に関する実態調査」を行いました。その調査で明らかになったのは、障害のある人のアートや芸術活動が評価されていない、活動をつなぐネットワークがないなどでした。また、障害のある人のアートの可能性を引き出せる人もほとんどいませんでした。

そこで、アートとは何か、福祉の現場になぜアートが必要なのか、人材育成、ネットワークづくりなどを進めるために、94年に、エイブル・アートの前身である日本障害者芸術文化協会が生まれました。その後、2000年に「エイブル・アート・ジャパン」に名称を変更し、現在に至っています。

以下に、企業とのコラボレーションで生まれた事業をいくつかご紹介します。

企業とのコラボで新しい文化の創造

「トヨタ・エイブルアート・フォーラム」は、96年から03年までの7年間実施しました。この事業はトヨタ自動車のメセナ活動として行ったものです。社会貢献活動としてではなく、メセナ活動として行ったことは非常に画期的なことだったと思います。

事業の内容は、全国32都市で64回のシンポジウムやワークショップを実施し、さらに地元独自のプログラムを支援しました。そこでは、アーティストや福祉現場の人たちに、障害のある人にとってのアートの意味やその必要性などを伝えました。

事業が終了して8年経ち、その間にさまざまなNPOが誕生したり、新しい施設ができて各地で活動が行われています。その活動をしている人たちの多くは、本フォーラムの参加者や地元の実行委員だったりします。7年間の取り組みが着実に実を結んだことを感じています。本フォーラムはとても大きなインパクトがあり、今の活動のベースになっています。

「エイブルアート・ワークショップ」は、企業内の社員による社会貢献グループとのコラボレーションです。富士ゼロックス端数倶楽部との活動で、97年から10年以上行っている2泊3日の合宿型ワークショップです。事業費の支援のほかに、研修施設の提供やワークショップの運営スタッフにボランティアとして関わっていただくなど多方面で支えていただいています。

「エイブルアート・オンステージ」は、04年から今年の3月まで行っていた事業です。表現活動は、音楽、演劇、ダンスや詩など多様ですが、エイブル・アートが最初に取り組んだのは美術でした。それは取り組みやすさと、多くの施設で行っていた表現活動は絵画の取り組みが多かったためです。また、この10年ほどで障害のある人の美術作品に関する関心は大きな進展がありました。その反面、舞台芸術はお金も人出もかかるため、まだまだこれからの領域です。

そこで、これまで目が向けられてこなかったダンスや演劇、音楽に対して支援するという事業を立ち上げました。1.活動支援プログラム、2.コラボ・シアター・フェスティバル、3.飛び石プロジェクトという3事業から成り立っています。事業のきっかけは、明治安田生命が合併を機に新しい社会貢献プログラムを立ち上げることになり、パートナーを探していました。エイブル・アートでは、その前年から舞台芸術に関する事業を行っていて、それを発展させるプログラムを共同で立ち上げることになりました。

この事業は、5年間の支援が約束されていたので、計画段階で5年後を見据えたプログラムを組むことができました。活動支援プログラムでは、応募団体と選考委員がグループ面接を通して意見交換をして、時に大幅に内容を変えるなど、一緒に創りあげました。時間的にも大変でしたが、新しい文化を一緒に創り上げていく大事なプロセスだったと思います。

事業を行って新しい展開がありました。それは、障害者だけでなく、高齢者や生きにくさを抱えている人たちが参加したプロジェクトへと広がったことです。今後は、障害のある人だけでなく、社会の生きにくさに向き合う舞台表現のプロジェクトに広げることができないかと考えています。

最後に

今回ご紹介した事業が企業の支援につながったのは、「障害者のため」のプログラムではなく、新しい文化の創出であり、社会全体の問題としてとらえ直しをしているところにあるのではないかと考えています。また、障害とアートを切り口に、常に新しい価値観を提示し続けてきたこともその理由だと思います。

今後も従来の枠に収まらない作品を紹介し、障害とは何か、表現とは何か、を常に問い直すきっかけをつくっていきたいと思います。

(本稿は、エイブル・アート・ジャパンにインタビューを行って編集部がまとめたものです。)