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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2010年7月号

インクルージョン
―国際NGO「ワールド・ビジョン」の取り組み―

本田ひとみ

ワールド・ビジョンの成り立ち

ワールド・ビジョンは、キリスト教に基づく団体理念に立って、開発途上国での貧困、抑圧に直面する子どもの心身の成長を目指して、地域社会や家族、政府、その国の団体や国際組織などと協力して活動するNGO(非政府系団体)です。1950年代に、朝鮮戦争による孤児救済をきっかけとして始まった草の根活動が、現在では代表的な国際NGOの一つとして、約100か国にて、地域開発や人的・自然災害に対する緊急支援、権利擁護政策などの分野で活躍しています。

私はワールド・ビジョン・インターナショナル(本部)所属のため、日本での活動には直接関わっていませんが、ワールド・ビジョン・ジャパンは1980年代に設立され、途上国での働きと日本の支援者の方々の架け橋となり、また阪神・淡路大震災のような大きな災害の際は、日本国内でも活躍しています。

日本など先進国のワールド・ビジョンの大きな役割の一つは、支援を募り、途上国での働きにつなげること、そしてまた自国の支援者の方々を対象に、途上国での複雑な問題に対する理解をより深めることです。個人や企業、学校、教会などからのチャイルド・スポンサーシップや募金、献金、各国政府や助成団体からの助成金、指定献金などを取り付け、教育、健康、栄養、水と衛生、子どもの権利をはじめとする人権、HIV/エイズ、ピース・ビルディング、スモールビジネスなどを通した経済向上活動、農業、地域環境、等々の支援に向けた活動を、地域のパートナーとともに行っています。

チャリティーから住民参加型途上国支援へ

初期には、個々人へのチャリティーを手段、目的とした活動を行っていた私たちの団体も、時代の変化とともに、住民の参加型途上国の地域開発に焦点を当てるようになりました。つまり、住民や地域組織の意向や状況を十分聞き取り、共に活動の計画立案、実行、評価を行うように、活動の手法を意識的に変えていきました。これにより、活動は住民のニーズや意向により沿ったものとなります。

またワールド・ビジョンは、地域開発活動では15~20年の長い年月を費やしますが、住民や地域社会の主体性を生かした活動は、ワールド・ビジョン支援後も持続性が期待されます。

しかし、課題はまだまだたくさん残されています。その中の大きな一つとして、途上国の貧困に置かれた人たちのなかでも、特に困難な状況に置かれた人たちの声、経済的、社会的に貧しく虐げられる人々、虐待を受ける女性や子ども、地域のなかでも民族や言語、宗教的に少数グループに属する人々の声をどのように私たちは気づき、活動に取り込んでいくことができるのかということです。

最初はリハ中心の支援

従来、障害に直面する人たちの支援については、これらのグループの人たちと関連をもって考えられていませんでした。これは、障害とは健康や身体機能を指し、障害と人権に関する障害問題の専門家はおろか、一般社会の意識も極端に欠けていたからだと思います。

ワールド・ビジョンも例外ではなく、障害関係の支援プロジェクトといえば、手術やリハビリテーションなどのサービスを提供する医療関係やチャリティーを主としたものでした。障害児はあくまで健康や身体機能にのみ焦点が当てられ、他の緊迫する問題、つまり貧困や人権侵害等には目が向けられていませんでした。もちろん、支援や寄付をくださる方々にとっても、人権問題よりも手術や車いす供与などの支援の方が理解しやすく、目に見えて分かりやすいので、支援しやすい面があったでしょう。多くのNGOにとっても支援の必要性をアピールしやすかったと思います。

障害問題を社会問題ととらえる

しかし20年以上前から、障害者の直面する問題は、むしろ社会問題としてとらえる考えや活動がイギリスから始まり、また、障害者の人権問題もベトナム戦争をきっかけにアメリカで大きく見直されていきました。ワールド・ビジョンを含め、多くの国際NGO、特に障害に焦点を当てていないNGOも近年、人権、社会問題の観点から障害をとらえ始めるようになりました。

2006年に国連で障害者の権利条約が採択されましたが、権利条約は障害問題は人権、社会問題であるという考えに基づいた条約です。

プログラムの見直しに取り組む

ワールド・ビジョンでは、特に障害に直面する人たちの完全参加と平等、そして意義ある社会参加をテーマに、プログラミングの見直しに取り組もうとしています。

つまり、障害に直面する人たちの完全参加と平等が果たされないのは、個々人の身体の状況や障害によるものではなく、意識的にも無意識的にも、一般社会だけではなく、支援プロジェクトの計画や実行、モニタリング、評価等に障害者の参加がない、もしくは参加が低いため、彼らの声が十分に反映されていないことからきていることが分かり始めました。

では、どのように障害者の参加を促進させればよいのでしょうか?

ワールド・ビジョンは、国連の障害者権利条約の原則である「私たち抜きに私たちのことを決めてはならない」を重視し、障害者団体と連携をとって、社会参加活動を進めたいと考えています。そして、このスローガンは、障害問題は社会問題であることととらえ、差別、偏見などについては先進国の専門家よりもむしろ、開発途上国、特にその地域の障害に直面する人たちが一番理解しているという観点に立っています。

西アフリカ・シエラレオネの活動

具体的な例をあげると、西アフリカのシエラレオネでの活動では、DPI(障害者インターナショナル)と協力して、ウガンダ、そして当シエラレオネから、障害当事者の活動家たちに協力してもらい、私たちの活動する村の一つで、現地のDPOや村の主だったリーダーたち、そして村で活動するワールド・ビジョンのスタッフに対して、障害についての正しい理解の話をしてもらいました。私たち支援する側も社会環境の変化の必要性を認識して、現地での地域開発活動に対して、障害者の完全参加と平等、意義ある社会参加を促しています。

初めは、障害のため他の村人から差別され、障害者自身も他の村人と同じ人間であるという認識に欠けていましたが、ワークショップを二度行っただけで、DPOのメンバーたちはエンパワーされ、彼ら自身で平等な社会参加・権利について啓発活動を行うようになったのです。彼らの活躍ぶりは目覚ましく、1年もしないうちに、公共の場にスロープの設置を求めたりするなど、役場に自分たちで掛け合うようになりました。これが、人目を避けて自分たちは他の村人と平等な人間ではないと信じていた人たちです。

このように、彼らが自分たちの権利を正しく主張し、村で行われる地域開発事業に参加することは、大きな意義があります。障害のない人たちは、障害に直面する人たちの困難さ(差別、蔑視、アクセシビリティーなど環境整備がなされていないなど)を十分に理解することができないのです。エンパワーされたDPOのメンバーたちが村の公共の場に出かけるようになり、活発に活動することで、障害のない人たちも自然と障害に直面する村人たちを受け入れるようになりました。

ウズベキスタンの活動

またウズベキスタンでは、JICAからの支援を受けCBR活動を行い、障害に直面する子どもたちや親を、コミュニティー活動を通してサポートしたり、差別偏見のため、それまであまり外出せずにいた若者たちを、日本やパキスタンの障害当事者の活動家が訪問してエンパワメントし、グループとして、また個人として力をつけ、公共の場に積極的に出かけるようになり、一般社会の意識を少しずつではありますが確実に変えつつあります。これもDPOの重要な役割です。

ワールド・ビジョンはこのような人権・障害者の権利を理解し、提言する現地のDPOと手を組んで、地域開発、社会変革に取り組みたいと考えています。

これが障害についての理解を深め、他の村人が受けている社会サービスや地域開発支援などにも障害に直面する人たちが平等に社会参加できることを目指している、「私たち抜きに私たちのことを決めてはならない」を基盤にした活動です。まだ始まって間もない、住民、特に虐げられた人たちの声を尊重した住民参加型地域開発ですが、少しずつその重要性と効果が認識されています。

(ほんだひとみ ワールド・ビジョン・インターナショナル ディスアビリティー・アドバイザー)