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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2010年7月号

知り隊おしえ隊

上海万博の輝きパビリオン「生命陽光館」

田中理

万博初の障がい者パビリオン

上海万博が開幕して1か月が経ちました。驚異的な経済発展を続ける中国の最もシンボル的な都市である上海で開催された今回の万博を、みなさまはどのようにとらえられていますか。ここでは上海万博の楽しみ方のオプションを一つ増やしていただくために、日本ではあまり報道されていない「生命陽光館」を紹介させていただきます。

生命陽光館は万博テーマ館の中にある一つのパビリオンです。万博史上160年で初めて開設された「障がい者パビリオン」として、中国内外の注目を浴びています。生命陽光館は、胡錦涛中国国家主席が提言する“愛の陽光はすべての人の心を照らす”という理念を反映し、“偏見の撲滅、貧困からの脱出、生命に愛を、太陽の光を共受”をテーマにして、人類の平等、豊かな生活、調和と融合、美しい未来を共に追及、創造しようという願いを込めて造られました。

このパビリオン建設は中国人民政府と中国障がい者連合会のバックアップを受けて、上海市障がい者連合会が担当しました。昨年の5月に上海市障がい者連合会に設けられた生命陽光館準備室から私に要請があり、無謀にも高級顧問として、パビリオンのコンセプトの実現に向けたプロデュースへの協力と日本企業の出展誘致に奔走する役目を引き受けてしまいました。障がい者の共存・共生への彼らの決意と思いに共感したことが協力に駆り立てられた最大の理由ですが、パビリオン建設の準備作業はそんなに甘いものではなく、彼らとの議論でときに机をひっくり返したくなるような気分になったこともままありました。しかし、最終的には素晴らしいパビリオンが完成して、互いに肩を抱き合ってねぎらい合うことができました。信頼の絆が結ばれた瞬間でした。

魅力的な生命陽光館

生命陽光館をご案内しましょう。

入口に入ると胡錦涛国家主席のメッセージを傍らに、障がい者の生き生きとした活動を映し出す巨大な水膜スクリーンが迎えてくれます。館内に目をやると、まず飛び込んでくるのが、天井から吊り下げられた幾重もの花房群。日本の花鳥園(http://www.kamoltd.co.jp/)さんの提供によるもので、万博期間中、生命陽光館の全天井を生花で覆いつくす演出です。心地よい安らぎを感じさせるこの空間は、万博広しと言えどもこのパビリオンだけです。

ほのかな花の香りとともに、美しいピアノ曲が流れてきます。演奏しているのは国際コンクールで金賞に輝いた盲目のピアニスト。来場者が日本人だと分かると、「さくらさくら」の曲のもてなし。ハッピーな気持ちになったところで、天目公寓、天聴公寓、天楽公寓からなる生命陽光館広場に移ります。天を支える光の柱を中心に広場が設けられ、いろいろなイベントが開催されます。周囲には最新鋭の補聴器、拡大読書器などが体験できるように並べられています。

広場の次は、生命影院というシアターに入ります。180度大型スクリーンに映し出されるのは、障がいをもった、歴史的、世界的に著名な人々。孫臏、鑑真、ベートーベン、ゴッホ、ヘレンケラー、ブレイル、ルーズベルト、エジソン、ホーキングらの偉業が紹介され、障がい者が社会に多大な貢献をしてきたことを気付かせてくれます。映画のタイトルは「生命の奇跡」。人間の持つ底知れない可能性と彼らの不屈な精神と強靭な意志が伝わってきて、神聖な感動さえ覚えます。

次は天籟光韻。ここは音の響きや音色の楽しさを体験する空間です。天体をイメージさせる星座を散りばめた半球体のドーム状の舞台の真ん中に立って発声すると、音響効果により自分の声がレンズの焦点に集約されたように跳ね返ってきます。側面に流れる無数のレーザー光線を指で遮ると、光線ごとに仕込まれた音が出る仕掛けがあり、メロディを奏でることができます。

その隣は天視奇観。暗闇と薄闇を体験する空間です。真っ暗な通路で街の騒音や波止場の霧笛、鳥のさえずりなどを楽しんだ後、かすかな光の中で盲人サッカーを見て、目が見えない、あるいは見えにくくても、周りの気配を感じとりながら行動できることを実感できます。

天視奇観を出て、天行律動という義肢展示回廊を回ると、最後のゾーンである知能居室があります。電動ベッド、環境制御装置、意思伝達装置、ページめくり器などを統合し、知能居室を演出しています。四肢マヒをもつ重度の障がい者も自立してQOLの高い生活ができますよ、というメッセージが伝わってきます。このゾーンの大半は、日本企業の協力でできました。メイド・イン・ジャパンは中国で想像以上の高い評価がされています。日本製の自走式階段昇降機を横目で見ながら、出口へと向かいます。

生命陽光館特別週間

万博が開幕して間もない5月10日から1週間、生命陽光館特別週間のイベントが切って落とされました。日本の関係者の協力により日本補助犬親善使節団が結成され、2日間にわたって盲導犬、聴導犬、介助犬の紹介とデモが行われました。中国では盲導犬の育成が始まったばかりで、聴導犬、介助犬はまだ未知の存在です。モーニング娘。が愛心大使として協力してくれ、大いに盛り上げてくれました。これをきっかけに今後、中国でも補助犬の育成が図られることを祈ります。

補助犬とともに注目を集めたのが、サイバーダイン社の人支援ロボットHALのデモです。回中国国家副主席、鄧中国障害者連合会名誉総裁、張中国障害者連合会理事長はじめ中国福祉の国家級指導者らが驚嘆の眼でHALの動きを見ていたのが印象的でした。

特別週間初日の夜には、中国障がい者芸術団による「My 夢 Dream」という舞台公演がありました。日本でも有名になった千手観音はじめ京劇、ダンス、演奏など多彩な舞台が繰り広げられました。この芸術団は毎年10か国以上の海外公演に出かけ、芸術性の高さとオリジナル性で各国から最高級の評価を得ています。ちなみにS席チケットは980元で、世界に名だたる上海雑技団公演のS席チケットよりも高いのです。ここまで来るには障がいをもつアーティストたちの血のにじむような努力があったのもさることながら、指導者や関係者の熱い思いがあったに違いありません。みなさまも機会があれば、一度ご覧ください。必ず胸打たれる感動を味わえることをお約束します。

上海万博の旅に出かけよう

特別週間最終日の16日は中国の障がい者の日です。中国では、5月の第3日曜日が障がい者の日と定められています。17日からチャイナエイドという上海国際福祉機器展が開催されることもあり、16日と17日の両日を軸にした3泊4日の上海万博生命陽光館&上海国際福祉機器展視察ツアーを企画しました。万博が開幕したら、日本からできるだけ多くの障がい者や福祉関係者に生命陽光館を訪れてほしいと思い、電動車いすユーザーが一人でも行ける上海万博旅行を可能にできないかと、パラリンピック等スポーツを通して障がい者の外国旅行を支援してきたグロリアツアーズ(http://www.gloria-tourist.co.jp/)と提携して、今そのための旅行サポート体制を築いているところです。

ポイントは、上海での移動、言葉の通訳、身辺介護をいかにサポートできるようにするかです。今回の視察ツアーは、これらのポイントについて、現実的で効果的な対策方法を探る意味合いもありました。

移動については、現在の上海には車いすのまま移送してもらえるリフト付き車両が7台しかなく、すべて万博事務局が管理していることが分かりました。これらの車両を簡単に利用させてもらえるかは、今のところ?マークです。地下鉄はある程度使えますので、手動車いすユーザーはタクシーへの乗り移りに問題がなければ、それほど心配することはないと思います。電動車いすユーザーはタクシー利用が難しいと思いますので、リフト付き車両の利用も含めて綿密な計画を立てた方が無難です。公共交通機関については、今回のツアーにハンドル形電動車いすで参加した山名勝さんがブログ(http://kurumaisyu.exblog.jp/)に詳しく報告されていますので参考にしてください。

通訳については、上海外国語大学日本語学科の候教授と鄭教授の協力を得て、学生さんたちがボランティアでサポートしてくれる道が開けました。今回のツアーでも学生さんたちが大活躍してくれました。

身辺介護については、高齢者・障がい者の旅をサポートする会(NPO)の久保田牧子さんと会公認の旅サポーター(http://www.tabisupport.org/)の派遣を模索しています。上海万博の旅サポートについては、このように現在進行形の状態ですが、行ってみたいけど不安がいっぱいで躊躇(ちゅうちょ)されている方がいらっしゃいましたら、ぜひ一度ご相談ください。

今回の視察ツアーは総勢50人ほどの大集団になりました。夕食会に曹生命陽光館長はじめ上海市障がい者連合会の幹部をお招きし、大いに盛り上がった交流ができました。このような手づくりの交流をきっかけにして、福祉を通した日中の友好関係を深めていけたら最高です。

夢を持ち、愛で支えあい、果敢に行動すれば、夢は実現できるものです。私のモットー「愛・夢・行動そして前へ」を結びとし、生命陽光館の紹介を終わります。

(たなかおさむ 横浜市総合リハビリテーションセンター顧問)