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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2010年7月号

列島縦断ネットワーキング【神奈川】

横浜ラポールにおける発達障害のある子どもたちの余暇活動
―エアロビックダンス教室の広がり―

宮澤京子

1 はじめに

障害者スポーツ文化センター横浜ラポール(以下、ラポール)は、社会福祉法人横浜市リハビリテーション事業団が管理・運営する施設です。

ラポールでは、過去11年間にわたり発達障害のある子どもたちにダンス教室を実施してきました。対象は、軽度の自閉症やアスペルガー症候群などの診断を受けている小学1年生から6年生の女児で、マヒなどの身体的な障害を重複していないことが参加条件となっています。また、対象者のほとんどが就学前より当事業団が運営する療育センターにおいて、療育を受けています。

ダンス教室開催の流れを図1に示します。まず、開催に先立って対象者と保護者に個別面談を実施します。教室の説明や更衣室の利用案内、教室会場の下見を実施し、参加までの見通しが持てるようにします。

図1 教室開催の流れ
図1 教室開催の流れ拡大図・テキスト

ダンス教室は週1回1時間で全11回(オリエンテーション1回、ダンス指導9回、発表会1回で構成)のプログラムです。年間を通じ学年別に3つのクラスを設け、1クラス約20人で教室を実施しています。

障害の特性から、活動する環境はできるだけシンプルで整理されていることが望ましいので、教室場面では視覚的な刺激の軽減、スケジュールの明確化など、子どもたちが集中できる環境設定を心掛けています。

2 ダンスの特性を活用

多くのスポーツでは、一人ひとりの技術を高めることと合わせて、ゲームに勝つことを目標に掲げます。しかし、チームで行うスポーツの場合、迅速な判断や場面に応じた臨機応変な行動を求められる状況は、発達障害のある子どもたちにとって、不安や混乱を抱きやすい要因となることがあります。その結果、ゲームへ上手に参加できないだけでなく、運動の苦手意識を強め、本来期待されるスポーツを通じた仲間との良好な関わりを築きにくくなってしまうこともしばしばあります。

一方、ダンスは決められた振り付けを覚え、仲間と協力して一つの作品を創り上げるという芸術的要素の多い種目です。音楽に合わせて踊る姿は華やかで、女の子に好まれやすく、仲間との協調性や達成感を得ることのできる活動でもあります。そして、勝敗に特化することなく、発表会という形で練習の成果を披露する場面を作ることで、目標設定を明確にしやすくなります。

これらの理由から、発達障害のある子どもたちにとって、ダンスは障害への配慮や工夫がしやすく、取り組みやすい種目であると考えています。ダンスを通じ、身体を動かすことが楽しいと感じることができれば、その先にある生涯スポーツとしての定着も期待できます。

ダンスの実技指導にさまざまな配慮や工夫を行うことで、子どもたちはダンスに集中し上達していきます。また、教室前後の着替えや身支度、集団におけるルールやマナーなど社会性に関わる要素を学ぶ場としても、ダンス教室は欠かすことのできない機会となっています。

3 ダンスの継続環境に向けて

ダンス教室を通じ、中学生以降もダンスを続けたいという声が年々増加してきました。ダンス教室をきっかけに、子どもたちが参加しやすい環境を、地域にも広げていく取り組みが必要となっているのです。

ラポールでは、ダンス教室開始当初より神奈川県エアロビック連盟に協力を依頼し、地域での環境づくりを視野に、具体的な方法を模索してきました。その一つとして、日頃さまざまな対象者を指導している地域のエアロビックインストラクターに、ダンス教室の指導を一部担っていただくことで、子どもたちの障害や指導の配慮に関する理解をすすめてきました。

また、子どもたちには、教室参加経験を重ねるごとに「エアロビック」という種目の専門性を取り入れ、専門のエアロビックインストラクターから指導を受けるという、新たな指導環境の設定と参加場面を作っていきました。

4 地域への活動の広がり

ラポールのダンス教室で指導を経験してきたエアロビックインストラクターが、現在までに地域2か所で活動を始めています。そのうち1か所は数年前から活動しており、当初から参加している子どもたちは、すでに成人しています。他の1か所は平成21年から活動を開始、参加している子どもたちは中高生が中心となっています。

活動は、それぞれ横浜市内のレッスン会場で月1~3回行われています。ダンス教室で知り合った仲間と引き続き活動を共にすることで、レッスンが定期的に安心して通うことのできる環境となっており、子どもたちはエアロビックを楽しく練習しています。

また、年に数回開かれるエアロビックフェスティバルに参加し、定期的に練習成果を発表するとともに、個々がエアロビックをより上手に、有能感を持って取り組めるよう、エアロビック技能検定会への参加も目指しています。

エアロビック技能検定は、1級から10級まであり、段階的に動きの到達目標と練習課題を設定することができます。個々のレベルに応じて着実にステップアップを目指すことができるため、子どもたちは真剣に練習に取り組み、上達しています。生涯スポーツとしての定着だけでなく、高い技術を身につけた子どもたちが、近い将来、エアロビック競技会に出場を果たすことも夢ではないかもしれません。

5 今後の課題

ラポールの役割は、対象とする障害像に配慮したプログラムづくりだけではなく、それらを地域に広げていくための情報発信、関連機関とのネットワーク作りも大変重要です。ラポール以外の地域で、障害理解のある指導者の下、好きな活動が続けられるよう、さらに指導者や活動拠点を増やしていきたいと考えています。

(みやざわきょうこ 障害者スポーツ文化センター横浜ラポールスポーツ事業課)