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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2010年8月号

わがまちの障害福祉計画 山形県鶴岡市

鶴岡市長 榎本政規氏に聞く
致道館の精神(こころ)と障害福祉

聞き手:宮崎昭(山形大学地域教育文化学部教授)


山形県鶴岡市基礎データ

◆人口:136,764人(平成22年6月1日現在)
◆面積:1,311.51平方キロメートル
◆障害者の状況:(平成22年3月31日現在)
身体障害者手帳 6,323人
知的障害(療育手帳) 988人
精神保健福祉手帳 590人
◆鶴岡市の概況:
山形県の西部、庄内地方の南部に位置し、山野河海の多種多様な農林水産物(庄内米、だだちゃ豆、庄内柿、温海カブ等)を産出。古くは庄内藩の城下町として栄え、藤沢周平氏作品の舞台地でも有名。市立藤沢周平記念館は今年4月オープン。数多くの民俗芸能、伝統文化を有し、藩校致道館伝統の向学や人づくりの文化を今も伝える。庄内地方の産業・経済、社会の発展を牽引しながら、地方都市として山形大、鶴岡工専、東北公益文科大、慶應先端研があり優れた学術研究活動を展開している。05年に6市町村が合併して新「鶴岡市」となり、面積は東北第1位。
◆問い合わせ先:
鶴岡市健康福祉部福祉課
〒997―8601 鶴岡市馬場町9―25
TEL 0235―25―2111(代)
FAX 0235―24―9071
http://www.city.tsuruoka.lg.jp

▼鶴岡市の特色、この町のもつ風土、その特徴についてお聞かせください。

産業では、全国有数の穀倉地帯である庄内平野での稲作のほか、半導体等電子部品の製造業、湯野浜温泉、温海(あつみ)温泉等の観光、また大学や高専等の教育研究機関が集積している特色があります。出羽丘陵、朝日連峰、摩耶山系など森林地帯が市域の70%を占め、約42キロに及ぶ日本海の海岸線があります。文化の面では、黒川能、出羽三山・羽黒山の修行僧など農山村に伝承される豊かな民俗芸能があり、藩校致道館(ちどうかん)の向学の気風と精神という伝統があります。

致道館では、荻生徂来(おぎゅうそらい)が提唱した徂徠学が採用されていました。徂徠学は、個性を尊重する立場から、能力に応じた等級制を採用し、個別的指導に力を入れ自学自習を強調することを基本としていました。致道館の創造的な気風は、今でも市民の中に受け継がれているものと思います。藤沢周平先生も、こうした筋の通った下級武士の気風と伝統に思いを馳せて、文学で表現されたのではないかと思います。

▼障害福祉も自分たちで努力する。社会貢献、自分たちで支え合うというのが鶴岡市の文化の下に育っていったということでしょうか。

障害のある人たちも自分たちで何とかしようというグループや団体がたくさんあります。別に行政が育てたわけではなく、自発的にやってきました。

本市には、県立養護学校と県立高等養護学校がありますが、民間の事業者の人たちが連携をとりながらインターンシップの実施などの就職支援(現場実習支援の会)をしています(今号の「列島縦断」コーナー58頁で紹介)。人は自ら働くことで喜びや生きがいを感じます。昨今の厳しい雇用状況のなかで、ほとんどの卒業生が一般就職しているのは、すばらしいことです。

▼発達障害の支援にとても力を入れている市だと言われています。

小学校でも特別支援が必要な児童生徒に対し、山形大学の三浦光哉先生をはじめとした専門家チームに巡回相談をお願いし、個別指導計画の作成などの助言をいただいております。また、「子ども家庭支援センター」における発達支援では、4年前から発達障害に詳しい臨床心理士を招き指導を受けています。

本年度は、発達障害児と保護者を対象に「遊び」を主体にした療育指導(名称:にこにこクラブ)を開始します。支援センター職員13人のうち発達支援担当は3人ですが、昨年度から保育士2人を発達支援担当保育士として育成して、発達障害児の支援の強化に努めています。

▼市役所の入り口に1981年の国際障害者年IYDPのシンボルマークの入ったスローガンが掲げられていました。障害のある人たちの地域生活支援について、早くに取り組んだ経緯はありますか。また、現在、力を入れている点は何ですか。

民間、市民の皆さんの意識が高かった。困っている人や障害のある人へ支援をしていこうとする人がたくさんいたと思います。昭和56年に「障害者福祉都市の宣言」をしました。福祉の心ともいうべきものの土壌が鶴岡にはあり、これが障害者施策によく生かされてきたことが理由であると思います。

平成4年には、県内で一番早く、ノーマライゼーション、バリアフリー施策に取り組み、福祉のまちづくりの「建築物に関する福祉環境整備要綱」を制定しました。当時の議員仲間は、できることを最大限やっていこうというスローガンを立て、福祉に取り組む姿勢が早かったです。

また、平成10年には障害者に対する在宅サービスの拠点施設として、障害者支援センターゆうあいプラザ「かたぐるま」を開設しました。一方、精神障害者に対するホームヘルパーの派遣事業、障害者ケアマネジメント事業など全国的にも先駆的な取り組みも行ってきました。

本年4月にオープンした総合保健福祉センターは、「健康と福祉のまちづくり」の拠点施設として10年前から計画してきました。愛称は「にこ・ふる」と言います。

▼先ほど、「にこ・ふる」を見学してきました。市長として、こういうところに力を入れたと言うことはありますか。

建物の外観は、周辺の景観にも配慮し、鶴岡産杉材を使用していますし、採光や換気に自然エネルギーを利用したり、雨水をトイレ洗浄に使用するなど環境にも配慮した作りになっています。

「にこ・ふる」には、「保健センター機能」「子ども・家庭支援機能」「福祉機能」「医療サービス機能」の4つの機能が集約されています。保健センター機能では乳幼児健診、予防接種、健康相談、健康教室を実施します。子ども・家庭支援機能では総合的な子育て支援を行います。いつでも、親子が気軽に来て遊べる「なかよし広場」もあります。また、福祉機能では、相談機能を充実させた障害者相談支援センターが三障害の区別なく相談支援を行う上、障害者サロンも併設しました。隣接して社会福祉協議会とボランティアセンターが入居しています。医療サービス機能は休日夜間診療所、休日歯科診療所が設置されています。これらの4つの機能は今までそれぞれ別々の場所にありましたが、1か所に集約することで各々の連携が図られるメリットが大きいと思います。

市長として大切にしたことの一つは、「にこ・ふる」ではワンストップサービスを実現したことです。二つめは、医療機関との連携です。

本市には県内唯一の公立精神科単科病院の県立鶴岡病院があり、移転改築が計画されています。新病院は、時代のニーズに合った精神医療を提供するため、大幅に機能を向上させたものと伺っています。障害があるからといって引け目を感じずに一般市民と同じように生活し、働き、生きる、そういう地域社会づくりを目指します。

そして、これは市長としても誇らしいのですが、医師会と地域の医師、行政の連携がとれている、医師会会長からもここまで緊密な関係はないと言われました。障害児者医療を進める上でも心強いことです。

▼「にこ・ふる」で、ご苦労されていること、障害のある人に対する理解、また、障害者同士の理解はいかがですか。

「にこ・ふる」の玄関横の喫茶「さくら」では障害のある方が働いています(月~金)。市の他の施設でも土、日の喫茶コーナーで障害のある人が働いています。障害のある人も閉じこもるんではなくて、積極的に出ていこうという意識があります。

住まいの受け皿としてはグループホームが重要です。障害のある方々の地域移行といったときに住まいの問題は大きく、ニーズと供給のマッチングがこれから必要となってきます。グループホームや作業所の多くは住宅街にあります。地域の理解もあり、融け込んで、市民が共に施設を共有できる社会が理想です。

また、椎茸栽培などの農業を主体とする就労支援事業所が開設されました。農事法人の支援を受けつつ、農業者の協力を得て事業を始めたものです。市としても農業振興策のひとつととらえています。

▼臨床心理士という私の立場から考えると、精神障害の理解・啓発は、予防につながると考えています。自殺予防対策、精神障害の予防啓発策は何かとられていますか。

精神疾患予防等の活動については、健康課で「こころの健康づくり推進事業」を実施しています。目的は、こころの健康づくりに対する意識と理解を高めるとともに、関係機関や住民との連携を進め、うつ病等の早期発見、早期対応と自殺予防対策の推進を図るものです。事業として、うつ病健康教育や講演会、ケーブルテレビ放送や広報紙「つるおか」を使った広報活動などの普及啓発事業、重点地区における個別ケア、関係機関の連携会議などを実施しています。

▼お話を伺ってきて、「にこ・ふる」がワンストップで、各種の健診から家庭支援、子育て支援、障害児の早期発見、早期対応、健康福祉に関わる総合施策を展開されているのですね。

前市長は、少子高齢化にある中、子育て支援の大切さを力説されていました。障害児の早期発見、早期対応は子どもの能力を伸ばすことにつながり、親からも一早く認知してもらい、地域の中でも対応する、理解してもらうものだ、という熱い思いを持っていました。子どもから大人、大人から高齢者へと、そのつなぎ目をどうするか。縦割りでない、一生涯にわたる支援が求められています。保育園、幼稚園段階の就学前に発見し、学校につなぐことは行っていますし、そこが重要だという認識はあります。後は、対応できる専門職員を育てていかなければならないと考えています。

▼最後にこれだけは言いたい、購読者に向けて一言ございますか。

市民と共に誇りのある、住んでみたくなるまち、「にこ・ふる」に代表される福祉のまちづくりを目指します。自然を生かした施策を取り入れて、人として生まれて大自然の中で生きていく、自然、文化、伝統に育まれたまちづくりです。障害のある人もない人も区別なく普通に生活できるような環境づくり、障害があっても就労やあらゆる社会活動に参加することができる社会づくり、年齢や障害の有無に関わりなくだれもが支えあい自立して暮らしていける社会づくりを基本理念として、今後の障害者福祉施策を進めていきたいと思います。

幸い市民の温かい心と、支えあいの精神など福祉の文化というべきものが私たちの暮らしのなかに流れています。こうした鶴岡の市民性を将来も引き継いでいけるようにすることも重要であろうと思います。

▼市役所の前は致道博物館や荘内神社がある鶴岡公園で、お堀に沿って、桜もたくさんあって春はとてもきれいです。本日はありがとうございました。