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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2010年8月号

ほんの森

Q&A 脳外傷 第3版
高次脳機能障害を生きる人と家族のために

NPO法人日本脳外傷友の会編

評者 細田満和子

明石書店
〒101―0021
千代田区外神田6―9―5
定価(本体1500円+税)
TEL 03―5818―1171
FAX 03―5818―1174

2001年の初版から版を重ね、このたび、第3版として出版された本書には、脳外傷をもつ人と家族のために役立つ、医学的説明や症状理解、医療や福祉の制度、法律、家庭でのリハビリ、日常生活の注意点、復学・復職、海外の状況に関するさまざまな情報が満載されている。

本書の特徴は、そうした情報が、徹底して脳外傷をもつ本人の気持ちを尊重して、支援してゆくためのものとして紹介されている点にある。たとえば訓練の方法にしても、「できないことを指摘するだけでなく正しいやり方を一緒に考える」(130頁)ことが推奨されている。

また、「社会的行動障害」と言われるものが現れる時にも、「いきなり叱りつけてしまっては、本人にとっていやな刺激となるだけで、反発されてしまう」(135頁)ため、本人の自覚と納得を促すことが大事と勧められている。

このような本書は、脳外傷という障害をもっていたとしても、尊厳あるひとりの人として、周囲の人たちは対等に接すべきであるという、ある意味で当たり前だけれど、ともすれば忘れがちな重要なことを教えてくれる。

もうひとつ、本書で特筆すべきことは、随所で指摘されている患者会の重要性と有用性である。編集をしている日本脳外傷友の会理事長の東川悦子氏は、交通事故で脳外傷になったご子息を見守ってゆく中で、「同じような障害をもった若者たちは大勢いるはず。彼らは一体どうしているのだろうか? 仲間が必要だ」(15頁)と考えて、1997年に「脳外傷友の会ナナ」という患者会を立ち上げた。

当時は、今よりも脳外傷や高次脳機能障害についての社会的理解は限られていたが、患者会の必要性を感じている人々はたくさんいて、やがて全国各地で患者会の立ち上げが相次いだ。患者会では、相互の親睦、交流情報の発信、行政への交渉、作業所などの自主運営、就労援助などが行われている(20頁)。本書の出版も、こうした患者会活動のひとつと位置づけられるだろう。

巻末の脳外傷に関する書籍の紹介、全国の脳外傷患者団体の一覧、関連団体が運営する作業所・デイサービスの一覧、高次脳機能障害支援普及事業支援拠点機関一覧も、当事者や家族にとって貴重な情報である。脳外傷をもつ当事者、家族、支援者にとって、さらに一般の人が脳外傷をもつ人を理解するために必読の書であろう。

(ほそだみわこ ハーバード公衆衛生大学院)