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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2010年8月号

列島縦断ネットワーキング【山形】

「鶴高養現場実習支援の会」の歩みとこれから

佐藤公力

「働く幸せ」を大事にする会社との出会い

私は、「鶴高養現場実習支援の会」(以下、支援の会)会長を務めています。鶴高養(山形県立鶴岡高等養護学校)は、軽度の知的障がいがある高校生の一般就労を目的とした学校です。クリーニング業を営んで卒業生1人を雇用し、現場実習(産業現場等における実習)を受け入れる一会員でしたが、平成18年度から会長職を引き受け、翌年、知的障がい者を多数雇用している(株)日本理化学工業さんの工場を見学し、その有り様と理念に感銘を受けました。知的障がい者とともに働くことの奥深さに気づかされ、知的障がい者の雇用に夢を持つようになったのです。支援の会の価値に確信を持ち、支援活動のギアを入れ直しました。この3月には、さらに卒業生2人を雇用し、ともに働いています。

鶴高養の置かれている状況

一般就労に特化した高等養護学校が山形県には2校あります。鶴高養は、昭和61年に創立されました(現校舎の大部分は、前年廃校になった鶴岡盲学校のものです)。学校要覧には、「知的発達の遅滞があり、一般就労をめざす教育課程を履修できる生徒に後期中等教育を行い…」とあります。藤沢周平の小説の舞台として知られる鶴岡市に位置し、3市7町3村に40万人ほどが住む庄内・最上地区が学区であり、県土の半分を占める広大な地域をカバーしています。製造業を中心に企業が集積している地区も散在していますが、依然、主たる産業は農業という地域です。

今年度は、54人の生徒が在籍しています。多くが中学校特別支援学級出身で療育手帳の交付を受けています。学校生活の様子を見ると、授業の3分の1は「職業」で、「農芸」「木工」「被服」「窯業」「紙工」の各班に分かれ、「働く力」を身に付ける学習をしています。現場実習は2週間で、3年間で計5回行います。「えがおコンサート」など、特色ある教育活動も盛んで、生徒の皆さんはいきいきと学校生活を送っています。

支援の会の歩み

「支援の会」は、学校創立から2年半後の昭和63年10月に設立されました。私は第三代の会長です。会則には、「県立鶴岡高等養護学校の教育目標を理解し、生徒の社会自立を図るために現場実習の実施に協力することを目的とする」とあります。会員のほとんどが一般企業で、現在、登録会員数は500社を超えています。

支援の会の発足のきっかけを、初期の中心メンバーだった方に伺いました。

「当時、できたばかりの鶴高養の先生方が現場実習先を探していた。実習を受け入れてみると生徒さんが実によく働くことに驚いた。そして、このような人たちの実習や雇用については、もっと広い社会で協力していかなくてはならないと強く思うようになった」

「ところが、協力してくれる企業はなかなか増えていかないという。何か組織を立ち上げて地域全体で支援するしかないと思い、仲間や先生方と準備を始めたのだ」

厳しい企業経営の中、このような会を立ち上げた諸先輩の見識と心意気には心底敬服します。以後、鶴高養は、支援の会との連携のもと、順調に実習先を確保し、卒業時には多くの生徒を一般就労させて社会に送り出し続けたのです(表)。

表 鶴高養卒業生就職率(平成22年4月現在)

卒業年度 卒業人数 就労人数
(就労率)
福祉施設
利用人数
その他 離職者数
(離職率)

福祉施設

在宅
H12 17 14
(82.4)

(35.7)
H13 10
(70.0)

(42.9)
H14 18 13
(72.2)

(30.8)
H15 17
(47.1)

(25.0)
H16 17 11
(64.7)

(45.5)
H17 15 10
(66.7)

(0)
H18 16
(56.3)

(11.1)
H19 16 13
(81.3)

(30.8)
H20 13
(61.5)

(0)
H21 20 17
(85.0)

(0)
159 110
(69.2)
45 24
(21.8)
16

これまで20年以上活動を続けてきました。その中で、実習への協力が就労に結びついていったケースが数多くあります(実習を経ないで就労したケースは皆無に近いそうです)。実習・就労を受け入れた企業は、ほとんどが支援の会に登録してくれます。つまり、「支援の会」は、実習に協力するだけではなく、知的障がい者を現に雇用している、あるいは雇用したいと真剣に考えている企業の集まりになっていったのです。

これまで、支援の会が果たしてきた役割について、現在の校長先生は、「鶴高養は4つの輪のある車である」と例えています。すなわち、「学校」「家庭」「地域」そして「支援の会」、この4つが連携して初めて前に進むことのできる組織だとおっしゃるのです。

支援の会の機能とこれから

鶴高養は、一般就労を果たすという使命のもと、地域の共生社会実現に向けて先頭に立ってきました。卒業生は、地域社会の中で着実に生きています。これまでの活動は、この地域においてはますますその意義が増しており、これからも支援の会の中核になるでしょう。現在は、さらに地域の方々から生徒の可能性を知ってもらうために、企業や自治体との新たな結びつきを求めていく工夫が必要です。そのため、次のようなさまざまな活動が会に要請されています。

1 企業・公的事業との連携の橋渡し

支援の会の情報提供や橋渡しで実現した、最近の連携の例を3つ挙げます。

(1)料亭への皿の納品(窯業班)

(2)漬け物会社への野菜の納品(農芸班)

(3)鶴岡市への「天神祭り」木札の納品(木工班)

学校からは、校内実習で行う企業からの下請けの仕事や接客を伴う製品の製作・販売、鶴岡市のプロジェクトへの参加等の依頼も受けています。

2 学校の就労先支援に対する協力・助言

事業所が安心して雇用するには、一定のサポートが担保されていることが必要です。雇用者の視点で提案したいと思っています。

3 鶴高養の理解・啓発の一翼を担う

支援の会の設立記念行事では、公開講演会を開催しています。さらに昨年度は、20周年記念として鶴高養を紹介する1時間のTV番組「共に生きていく街・山形をめざして」を支援の会で製作し、県内に放映しました。

4 会員の構成に幅を持たせる

今年度、議会議員が会員となりました。

このように、支援の会の活動のフィールドが広がりつつあります。今後も、学校との連携のもと、生徒の幸せと地域の共生社会実現に向けて、力を尽くしたいと考えています。

*本文中の「障がい」の表記は、山形県の方針に従っています。

(さとうこうりき 有限会社佐藤クリーニング社長・鶴高養現場実習支援の会会長)