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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2010年10月号

列島縦断ネットワーキング【静岡】

障害者働く幸せ創出センターの開所
―福祉と産業をつなぐ架け橋へ―

金原義男

はじめに

静岡県では、県内でも有数の繁華街である静岡市葵区呉服町にある5風来館(ごふくかん)の4階に「障害者働く幸せ創出センター」をオープンしました。

本年5月21日の開所式には、川勝県知事をはじめ国会や県議会、関係団体から来賓、関係者など150人以上の方々にお集まりいただき、作業所で作成した木製大型のセンター看板(利用者さんの筆による)の除幕など、盛大に祝っていただきました。

本稿では、センター開設までの経緯と、ここを拠点として障害のある人のサポートをどのように進めていくかをお伝えしたいと思います。

工賃水準向上のための取組指針

静岡県内には、企業への就職が困難で、在宅生活を送っている障害のある人たちが、日中の活動の場として利用している「作業所」が200か所以上あります。そこでは約4千人もの障害のある人々が、職員の支援を受けながら、下請作業やパンや木工品、縫製品などの自主製品の製造販売を行い、その収益から工賃を得ていますが、一人当たりの工賃は、月額平均1万3千円程度と低い水準に止まっています。

平成19年、厚生労働省から各都道府県に対して「工賃倍増計画」の策定が要請され、静岡県では、法政大学大学院教授で、『日本で一番大切にしたい会社』の著者としても知られている坂本光司先生を委員長に、福祉、経営、産業、行政関係者で構成される策定委員会において検討を行い、20年3月「障害のある人の工賃水準向上のための取組指針」が取りまとめられました。

「工賃倍増計画」ではなく、「工賃水準向上のための取組指針」という名称となったのは、平均工賃月額3万円という目標に対し、「3万円にしなければいけない」とか「目標金額を達成すればそれで良し」という金額最優先のものではなく、工賃水準を引き上げるためにあらゆる関係者が協働するシステムを作り上げようという趣旨が尊重された結果なのです。

福祉と産業界をつなぐ機関の設立

取組指針では、だれもが相互に人格と個性を尊重し支えあう共生社会を目指して、福祉、行政はもとより、ボランティアやNPO、企業、地域住民等を含むすべての社会構成員が連携・協働して、地域全体で障害のある人を支えるシステムを作ることで、障害のある人が地域で自立した生活を送ることができるユニバーサル社会の構築を目指すという大目標が示されています。この目標達成に向けては、福祉と産業界がもっと近づくことが必要であるということも、併せて提言されています。

個別の企業と事業所同士の直接取引のみに頼るのではなく、福祉と産業界の中間に、事業所側・企業側双方のニーズを受け止め、実現可能な形に変換する、あるいは、より良いものに発展させていく仲介機能を持つ機関が必要であるということです。

この提言を受けて、21年度には全6回の「福祉と産業界をつなぐ機関設立検討会」が開催され、そこでの検討結果を基に、福祉と産業界をつなぐ機関「オールしずおかベストコミュニティ」(以下、ASBC)が、3月4日にNPO法人として設立されました。理事長には、指針の策定からつなぐ機関設立検討会と継続して会長を務められた坂本先生が就任されました。

ASBCの基本理念は「障害のある人のはたらく笑顔で、福祉と企業、地域の心をつなぎます」です。障害のある人の働く笑顔の魅力を伝えることで、障害のある人を中心に関係者全員の心をつないでいき、その上で、障害のある人が笑顔で働き、そのことが関係者を元気にする、そうした共存、共栄のコーディネートを通して、地域全体で障害のある人を支えるシステムを作ろうというものです。

このほか、対象者別の目標として次の6つのミッションを掲げています。

1.障害のある人が自立を目指して働くことの喜びを感じ、社会の中で大切な役割を担っていくことを支援します。

2.障害のある人とその家族が、安心して希望を託すことができる地域づくりを支援します。

3.作業所およびその職員が、障害のある人の自立を最大限に引き出すための技能・能力を高め、障害のある人とその家族から信頼され、意欲を持って役割が発揮できるように支援します。

4.企業が、障害のある人や作業所と相互理解や協働を通じて、共に元気になることを支援します。

5.地域が、そこで働き暮らす障害のある人と、共に喜び、成長していく地域づくりを支援します。

6.産業界、行政機関、教育機関、地域等のネットワークを構築することで、障害のある人と、関わるすべての人の幸福を創造することを支援します。

静岡県としては、従来、機能別の団体等に分散して委託していた下請業務の受注開拓や授産製品の商品開発、共同販売等の授産事業の支援に係る事業を22年度から一元化して委託しており、これにより相互に連携し、より効果的な授産支援の取組が可能となるものと期待しています。

障害者働く幸せ創出センター開所

ASBCの設立とほぼ同時期に、県では、福祉と産業界をつなぐ取組をはじめ、障害のある人の働くことを総合的に支援する拠点を静岡市の中心街に設けることを検討していました。

障害のある人の働くことに対する支援は、企業における一般就労と、施設や作業所における福祉的就労という区分により、対応する機関や窓口も労働と福祉の2つに分かれています。

また、障害のある人が働くことに関しては、工賃水準の向上以外にも、障害者雇用率や福祉施設から一般就労への移行、特別支援学校卒業生の進路等、さまざまな課題が存在しています。しかし、これらは複数の領域にわたり複雑に関連していて、福祉分野だけではなく、労働や産業、教育分野を巻き込み、関連する施策を集約化して県全体で取り組むべき大きな課題です。それをオール県庁の体制でサポートしたいという思いから「障害者働く幸せ創出センター」が設立されました。

センターでは、支援を必要とする方が利用しやすいよう、分野や組織の枠にとらわれず、関連する情報を集約して提供したり、利用可能な制度や助成金等の情報を整理して紹介する等、障害のある人の働くことを広く支援する総合案内的な機能を目指しています。

県内作業所から3百点以上の授産製品(食品以外)を取り寄せ、実際に手にとれるよう展示することで、来場者に作業所製品の種類、内容とその品質を知ってもらうことに役立てています。これらの製品は、企業の方に実際にお見せして、商談等コーディネートにも活用しています。

展示コーナーにはまた、特別支援学校の作業実習での作品も併せて展示しており、それぞれの学校で行う作業内容の紹介を通して、実習や雇用を受け入れる企業の理解を深め、進路指導の支援にもつなげたいと考えています。

このほか、障害のある人やその家族、作業所、企業等を対象とする、働くことに関する相談窓口も開設しています。相談内容によっては専門機関に取り次いだり、就労支援相談に関しては、静岡労働局や障害者就業・生活支援センターからの定期的な出張相談等の協力も得ています。

センターの管理運営はASBCに委託しており、ASBCはセンターを中心に、県内3か所(沼津、静岡、浜松)の授産製品の販売店「とも」を地域拠点として、授産事業のコーディネートを通して、作業所と企業をつなぐ取組を行いながら、情報の収集発信や相談の取次等により関係機関と強いネットワークの構築を目指します。

終わりに

以上のようなセンターでの活動を通して、ASBCには、将来的には、障害のある人の働く作業所の情報や、障害のある人と関わる企業の情報を集約化し、これを分析・調査して、行政をはじめ、作業所や企業に対し、さまざまな提案ができるシンクタンク機関として、企業・地域と障害のある人および作業所との新たな関係づくりを生み出していくことを期待しています。

障害のある人も共に生きる地域の一員として、社会の中で自らの役割を担いながら暮らしていく光景が当たり前に見られる静岡県を目指し、障害者働く幸せ創出センターの活動がその一助となるよう関係者一丸となって今後も努めていきます。

(きんぱらよしお 静岡県健康福祉部障害福祉課就労支援班)