音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2010年11月号

聴覚障害者の防火・防災対策について

粟野達人

1 はじめに

聴覚障害者にとって、特に情報保障は必要である。我々聴覚障害者は全国で約35万人以上いると言われるが、現在、健聴者でも高齢・病気などで聴力が低下して耳が遠くなっている人も含めると、その数は百数十万人と増えてしまうかもしれない。そうなると、音声による警報などの防火・防災対策では対応できなくなり、目で見られる情報保障手段が必要となる。

2 聴覚障害者の防火

私は、東京都聴覚障害者連盟災害対策委員長として10年以上、聴覚障害者の災害対策についていろいろな交渉、指導、体制作りに尽力してきた。特に火災に対する聴覚障害者の防火については、次の通りである。

(1)火災による死者のデータ

東京消防庁より今年7月、初めて住宅用火災警報器(住警器)を設置している住宅で警報音に気付かず、死者が出た火災データの公表があった。内容によると、09年1月から今年6月までの1年半に、29人が犠牲になっていた。避難できなかった理由は、歩行困難や認知症のほか、「耳が遠い」もあった。6割が65歳以上の高齢者だった。

(2)聴覚障害者の火災経験

都内のアパートの2階に住んでいた聴覚障害者が、夜間の就寝中に真下の部屋で起きたボヤに気付かず、朝起きてから1階の出火を知って驚いた事例があったという。救急車のサイレンにも気付かなかった。

(3)住警器普及問題

現在、煙や熱を感知して火災を知らせる住警器の設置が来年6月1日まで全国で義務化となっているが、現行機器のほとんどは警報を音で伝えるため、聴覚障害者には効果がないことがある。光で警報を送る機器もあるが、高額のため、普及が進まない状況になっている。

(4)聴覚障害者用住警器の理想は?

すべての部屋に住警器と発光機器を設置し、連動作動することが理想である。どの部屋で火災が起きても、連動して全部が警報を発するようにしないと効果が薄くなってしまう。しかし、高価な機器には手が出ず買えないという声が多く、聴覚障害者の家庭で普及が進まない理由になっている。

毎日新聞の調査では、国内の主な火災報知機メーカーで構成する日本火災報知機工業会(東京)によると、現在流通している住警器は、煙を感知して「ピー、ピー」という警報音や、「火事です」という音声を交互に発するものが主流である。聴覚障害者に有効とされる住警器は、ストロボ光を点滅させるタイプが代表的だが、国内で生産しているのは2社だけである。

音で知らせる住警器は、2,000円台の商品も出てきているが、ストロボ光を点滅させるタイプは1万8,000円程度と高価である。住警器の無線信号を受けて腕時計型の機器が振動するタイプもあるが、1セットで5万円近くと、かなり高価になっていて、高価格が普及への大きな壁になっている。

住警器の普及率は、今年6月時点の推計で58.4%だが、ストロボ光を点滅させるタイプは「国内ではほとんど売れていないのではないか」(日本火災報知機工業会)とあり、課題になっている。

(5)今後の対応

総務省消防庁が今年6月、学識者や聴覚障害者、業界団体などで構成する「聴覚障がい者に対応した火災警報設備等のあり方に関する検討会」を設立し、住宅だけでなく、空港やショッピングセンターなど公共の場も含めて、聴覚障害者や耳の遠い高齢者に配慮した警報伝達手段の検討が始まった。同庁予防課は「聴覚障害者向け住警器の普及を総合的に検討してもらう。普及に向けた何らかの制度づくりが必要だと思う」と、今後の対応を期待している。

3 聴覚障害者の防災対策

我々東京都聴覚障害者連盟で取り組んでいる防災対策は、次の通りである。

(1)東京都と災害手話ボランティア協定

聴覚障害者が、東京都で災害時に必要なコミュニケーション支援を受けられるよう、手話のできるボランティアを避難所等に確実に派遣。

(2)緊急時コミュニケーション保障手段

救急車、病院等でSOSカードなどの目で見る情報・コミュニケーション手段の保障。

(3)東京都の聴覚障害者災害支援体制

都内49区市聴覚障害者協会・手話サークル・他団体と一緒に、大災害支援対策の取り組み。

(4)聴覚障害者として災害対策の指導、啓発

財団法人全日本ろうあ連盟と連携して災害対策体制作り、都道府県などとの災害対策研究、指導。

4 今後について

聴覚障害者の防火・防災対策については、情報保障、コミュニケーション保障が不可欠であり、自治体や関係機関の取り組みや対策だけではなく、近所づきあいも必要である。そうすることにより、地域の中で安心して生活していく環境を作っていくことが大事であると皆さんにもご理解、ご協力をいただきたい。

(あわのたつひと 社団法人東京都聴覚障害者連盟災害対策委員長)