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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2010年11月号

1000字提言

いちばん たいせつなことは…

船橋秀彦

しゅうしょくが できなくたって
じが よめなくたって
きがえが できなくたって
じんせい
いつでも どこでも
じぶんが じぶんらしく
いきていけば いいではないか

しごとを てつだってもらっても
けいさんを おそわっても
ごはんを こぼしても
それはそれで いいではないか
ひとと ひと
やってもらうとか やってあげるとか
そんなかんけいでは ない
おたがいも あるのだから

いちばん たいせつなことは
せいかつに あいが あることだ
あいがあれば だれだって
しあわせに なれるのだ

20年前の私の詩。マサコは、13歳。だが、言葉がない、靴も履けない、トイレも失敗する。けれど、マサコには、マサコを愛する父と母、そして、仲良しの妹がいた。すてきな家族だった。そんなマサコを想いながら、「一番大切なもの」を問い、消しゴムで消すように、子どもの発達の保障を願う日々の教育実践のおおもとを探った。

現在、特別支援学校に求められているのは、就職率の向上で、100%の企業就労をめざす高等部設置や民間企業からの校長登用、キャリア教育の奨励等が取り組まれている。そこでのツールは個別指導計画で、PDCAサイクル(計画・実施・評価・改善)が協調され、評価は、「できる」ことの数値化で示される。そこには、教える教師と教えられる子どもという上からの一方向の関係がある。なにより、子どもの外面は捉(とら)えても、内面を捉えてはない。

その下で、私自身が子どもをみつめる目を、いつのまにか曇らせてはいないか。20年前の感動を、今日、接している子どもたちに持ちえているか。仕事に慣れて、硬い心になってしまっていないか。

今年の宿泊学習。カズは、授業に「イカナイ」、給食を「タベナイ」と、ことごとく拒否する生徒だ。そのカズが寝ている私に、「イクヨ」と、トイレへ誘った―私を慕い自分から声をかけてきた―そのできごとが、うれしくて感動した。

もう少し、この子らと行く道を歩んでみようと思った夜。

(ふなばしひでひこ 茨城県立水戸飯富養護学校教諭)