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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2010年11月号

列島縦断ネットワーキング【岡山】

岡山県における就労継続支援A型事業所協議会の取り組み

永田昇

はじめに

最近の雇用状況において、障がい者の就職は大変厳しい状況に置かれています。企業における障がい者の採用枠そのものが少ないだけでなく、一度は就労したものの、障がい特性により環境になじめなかったり、人間関係のつまづきなどにより離職してしまうケースも多いのが現状です。また、特別支援学校や就労移行機関においても、就労体験の場となる実習場所の開拓に苦労している状況となっています。

就労継続支援A型事業所では、雇用契約に基づき、一般企業等での就労が困難な障がい者に対して就労の機会を提供するとともに、知識および能力の向上のために必要な訓練、その他必要な支援を行っており、障がい者の就労支援機関として重要な役割を担っています。

協議会設立の経緯

「岡山県就労継続支援A型事業所協議会」(以下、「協議会」という)は、就労継続支援A型事業者の交流および勉強会を持って事業者および職員のレベルアップを図り、障がい者の自立と福祉の増進を図ることを目的として、平成21年2月に設立しました。

設立当初の会員数は9事業所でしたが、現在では22事業所が協議会に参加しています。

協議会に参加している事業所の作業内容は、清掃、農業、クリーニング、パン・漬物の製造販売、飲食店、牧場経営、旅館・ホテルなど、業種はさまざまで、それぞれの事業所が独自の工夫を凝らして事業を展開しています。事業を通じて障がい者が地域の人々と触れ合う機会も多く、地域社会との関わりを深める良い機会にもなっています。また、なかには障がい者の就労支援を行うだけでなく、知的障がいのある元受刑者を受け入れ、出所者の再犯防止にも取り組んでいる事業所もあります。

協議会の取り組み

協議会では、各事業所の代表が集まって定期的に勉強会を開いています。勉強会では、事業者が適正な事業運営を行い、利用者に対して質の高いサービスを提供するため、障害者自立支援法の概要やA型事業所の抱えている課題や問題点、各事業所での取り組みなどについて話し合いを行っています。また、県の障害福祉課や障害者更生相談所より講師を招き、A型事業についての行政説明やオブザーバーとして意見をいただいたり、講習会やセミナー等の情報を提供して事業所の職員のレベルアップを図っています。

現在、どの事業所においても定員を超える利用者が在籍しており、A型事業所の新設が求められています。しかし、A型事業所を立ち上げ運営していくにあたり、社会福祉法人等のもともと福祉事業を運営していた事業者は、障がい者に対する専門的な知識を持つ職員が多く、申請や福祉的な運営は問題なく行うことができるが、障がい者の所得を確保するという経営面において課題となるケースがあります。

一方、企業は、経営ノウハウはあるが、福祉の専門的な知識や技能を持つ従業者がいないため資格所有者等の人員を整えなければ事業を立ち上げることができないというケースもあります。

協議会では、「A型事業所を立ち上げたい」という事業者に対して、法人の設立から事業の立ち上げまでの申請の仕方について相談に応じ、事業開始後も、利用者の特性に応じた支援方法や各種の助成制度についての情報を提供して、新たなA型事業所の開設および運営を応援しています。

A型事業所における課題

A型事業所は、障がい者の雇用の場の確保と障がい者に対して就労支援を行うという2つの役割を担っていますが、やはり大切なのは、障がい者の所得を保障するための安定した経営であり、そのためには収益を上げることが課題となってきます。

収益を上げ利用者の賃金アップを図るためには、適正な条件による安定的な仕事の確保を図るための官公需の優先発注、企業の発注促進といった両方の支援策が不可欠です。障がい者の「働く場」に対する効果的な官公需の促進のための制度化を図るとともに、企業からの発注促進に向けたさらなる施策の制度化を図ることが必要であると考えられます。

A型事業所では、積極的に特別支援学校や就労移行支援事業所からの実習生を受け入れており、就労を希望する障がい者に対して「働く」という就労意識の向上を図るために実習の機会を提供しています。しかし、特別支援学校からの実習生は一般企業やA型事業所での就労につながることが多いが、就労移行支援事業所は利用者を抱え込む傾向にあり、実習をしても就労につながらないケースが多いように思われます。

最近では、協議会において利用者に関する相談が多く、「契約をしても出勤しない」「無断欠勤が続き連絡が取れない」「他の利用者と上手くコミュニケーションが取れていない」「支援に対して家族の協力が得られない」等のさまざまなケースがあり、今後の支援方法や対策について話し合っています。

特に、就労移行支援事業所等からA型事業所に移行した利用者に対しては、担当の支援ワーカーと密接な連絡体制をとり、支援について話し合うなど、バックアップ機関と連携を取りながら支援していくという体制が重要となってきます。

障がい者に対して、個々のニーズや障がい特性に応じた専門的な支援を行うために、A型事業所間における連携だけでなく、特別支援学校、障害者職業センター、障害者就業・生活支援センター、ハローワーク等の就労支援機関と連携して支援を行うことが重要であり、関係機関のネットワークの構築が必要であると思われます。

今後の展開

障がい者にとって厳しい雇用状況において、一人でも多くの障がい者の就労を実現するため、協議会では今後も障がい者の雇用環境の整備に全力で取り組み、幅広い活動を積極的に行っていきたいと考えています。

(ながたのぼる 岡山県就労継続支援A型事業所協議会事務局長)