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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2010年12月号

新法づくりに向けた提言
医療的ケアが必要な超重症児者への支援体制の確立を
―医療(医療保険)と福祉(自立支援法)の隙間のない連携に向けて

杉本健郎

1 パーソナル・アシスタントの確立(介護職による24時間支援)

(1)介護職の医療的ケア研修の保障

基礎的研修(生理、解剖から器具まで20時間までで十分)の上に主治医、担当看護師、当事者本人(家族)の研修を個別に受け、了解を得て「軽微」(口腔内吸引、胃ろう、経鼻の経管栄養の管理)からはじめ、気管内吸引も段階を経て了解のうえ実施する。行政で基礎研修を保障(小児神経学会は医師と看護師対象、NPO医療的ケアネットでは非医療職への研修を実施中)。

(2)介護職への経済的保障

「重度訪問介護」が主になるが、医療的ケアの必要な場合は「居宅介護・身体介護」を支援者の質に担保する。特に、ケアホーム事業では必須。介護職の待遇改善と医療的ケア支援に伴うリスク保障も検討する。

(3)医師・看護師への保障

1.医師・看護師が、介護職への個別の医療的ケア実施の研修・カンファレンスを、自立支援法下の相談支援事業者と連携して行う時、医療保険で「介護支援連携指導管理料」を算定可能にする。

2.医師が通所施設・訪問介護事業所などへ医療的ケア実施指示書を出す時に、「診療情報提供書(1)」の算定を可能にする。自立支援法の居宅系、施設系、および地域生活支援事業のすべてに拡大する(介護保険の居宅介護支援事業者や精神障害者で算定できる)。

2 訪問看護(ステーション)の24時間バックアップと困難例での介護者への看護師支援の保障

(1)超重症児者への医療保険による訪問看護事業の拡大を保障し、事業化できる費用体系にし、訪問制限もなくす。人工呼吸器稼動と成人の難病指定以外は訪問制限がある。週3回、1日1回1.5時間程度では看護師は働けない。事業としても成立しない。

(2)全国で医療保険療養費の自己負担(一部3割負担)をなくす。

(3)地域で働く訪問看護師のスキルアップの場を保障する。公費による研修機会を保障し、「認定」看護師など在宅医療の質の向上と拡大を図る。

(4)生活介護事業(A、B型重症児通園事業を含む)を利用する医療的ケアの必要な人は「通所療養介護」事業にする(個別給付とし、自立支援給付と医療保険給付の2階建て=重症児者施設入所と同じ仕組み)。

3 一般病院への救急一時入院と病院でのショート・ステイの確保

(1)地域の一般、基幹病院との連携

救急入院ベッド確保とショート・ステイの療育的視点(介護職などの導入)への経済的な保障、また本人に日常支援している介護職の入院時の付き添いの制度化。一部の地域で「コミュニケーション支援」があるが、時間的に不十分である。また一般病院におけるショート・ステイ受け入れ体制は、重症児施設に蓄積されているシステムの伝達が必要(看護師だけでの入所管理は無理、介護職との共働を保障)。

(2)自立支援法でのショート・ステイの条件整備

生活支援員の常置を確保する福祉での事業に加えて、医療保険での病棟管理(7:1だけでなく10:1も)を加算して、超重症児者(準超重症児者や難病患者を含む)には年齢や疾患に関係なく前記の「2階建て」にする。

4 重症児者入所施設による在宅重症児者支援の拡大

(1)入所児者の一時帰宅や外出・外泊にも地域支援のリソース(資源)が利用できるようにする。

(2)入所児者の退所後の再入所を容易にし、自宅、ケアホーム、入所施設の循環(選択)ができるようなシステムとそれが可能な費用体系にする。

(3)現在の自立支援法によるショート・ステイの事業体系を3項目の一般病院と同様に2階建てにする。

5 ケアホーム(共同生活介護)

(1)自宅以外の地域での生活場所の確保

昼間の生活介護(看護師常駐)は医療的ケアも可能だが、夜間は対応できない。パーソナル・アシスタントによる軽微な医療的ケアを可能にし、難しいケアなど種々のバックアップは訪問看護師の24時間対応で可能になり、救急時の場合は一般病院等との連携を密にすれば、一定の地域内で超重症児者もケアホームでの生活が可能になる。現自立支援法の場合は、常時医療的ケアを必要とする人たち等、介護が量・質ともに多く必要とする場合、実質的にケアホームの運営ができない。重度から比較的軽度の入居でも事業として成り立つ体系にする。重度訪問介護の拡大か身体介護利用と夜間支援加算の増額、さらに看護師が介入しやすくするため医療保険での訪問看護の拡大。

(2)ケアホーム、自宅、入所施設などを一定期間ごとに過ごせるシステム作りが必要

その人の生活の実態と病状の変化(心身の状態・環境の変化や緊急時など)に応じて、生活の場を「選択的に利用できる」システム作りが必要。

(3)地域の理解を進める

ケアホームを作る時、地元自治会などが「反対」することが多い。地方行政と一体になって「いのちをはぐくむ」文化形成の視点が必要。

6 障害児者の福祉システムや医療に精通した「在宅ケアコーディネーター」の養成が必要

重症児者の地域生活支援では、障害理解にとどまらず、医学的見識も必要である。コーディネーターの制度的位置づけを図り、相談支援事業者や保健師・訪問看護師・医療ソーシャルワーカーなどが医療的ケアを必要とする人の相談やサービス調整に適切に対応できる「在宅ケアコーディネーター」の養成と資質向上を目的とした研修制度を確立する。

(すぎもとたてお すぎもとボーン・クリニーク所長、日本小児神経学会社会活動委員長)