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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2010年12月号

新法づくりに向けた提言
子どもたちのこれまでとこれから

池添素

施設の運営は神頼み、保護者は自己責任?

「昨晩から熱が出てしまい、今日は欠席します」「風邪を引いたのでお休みします」と、寒くなってからの児童デイサービスの朝は欠席の連絡にヒヤヒヤ。本人の体調不良以外にも、「今日はお兄ちゃんの参観日なので」「妹が熱を出してしまって」と欠席の理由はたくさんあります。子どもが利用する施設での日払い方式は、安定運営のために病気が流行(はや)らないように神頼みするしかありません。今、提案されているような内容で自立支援法が改正されても全く変わらないことの一つです。

保護者は子どもの発達に必要な施策を利用すると、さまざまな負担軽減策から外れ、費用負担が発生します。多くの障害者が利用料ゼロになっているけれど子どもたちの親には収入があり、現在の仕組みでは、発達支援も機能訓練も補装具も医療もすべて利用料が必要です。それも、障害が重いほど利用料が多額になるのも切ない事実です。

さらに追い討ちをかけるのが、子どもが利用できる療育専門施設の不足です。高知県室戸市で子育てするAさんは、子どもの訓練と療育を受けるために毎週1時間半をかけて徳島県まで車で通います。理由は地元に施設がないからです。このような事例は決して珍しいことではなく、全国各地で、子どものために労をいとわずにがんばるママやパパ、あるいはおばあちゃんやおじいちゃんがいるのです。まさに「自己責任」を果たしている歪んだ姿です。

育てにくさへの支援も大切

子どもは元気に生まれてきても、夜泣きや偏食、こだわりやパニックなどの育てにくさで、新米の親を右往左往させてくれることがあります。子育てマニュアルでは通用しないことばかりで、育児不安が募ります。

自閉症の男の子を育てるお母さんは、出産後病院から自宅に戻った時、泣き止まないわが子を前に「もう無理、だれか育てて!」と叫んだと話してくれました。子どもが4歳になりADHDの診断を受けた子どものお母さんは「歩いた時から走り出し、いつも追いかけて疲れました」とも。「4か月の時から子どもがかわいく思えなかった」と育てにくさと向き合うしんどさは続きます。そこには「虐待」の2文字も隠れています。

「私の子育てのどこがいけなかったのか?」と自問自答しても一人で考えているだけでは答えは出ません。そんな時に、人目を気にせず思いっきり遊べて、子どもの発達の知識や遊び方を教えてくれる場所や日ごろの悩みをじっくり聞いてくれる人が必要です。子どもの育てにくさの原因はさまざまです。発達障害の場合もありますが、子どもとの歯車が合わず、お互いにしんどい思いをしているケースもあります。

育ちの弱さや育てにくさを早期に把握し、ママやパパの「なぜ?」「どうして?」「どうすればよいの」に応えられる支援が必要です。早期に療育の場を提供することで、早くに関わりを改善し、安心して子育てができる環境を整えることができ、保育園や幼稚園での生活をスタートさせることができます。障害があるなしにかかわらず、育てにくさに着目した支援が必要です。

まず子どもとしての権利を

子どもはどこで、どんなふうに生まれるのかを選べないからこそ、障害のあるなしにかかわらず、命と育ちと学びを保障してもらう権利をみんながもっています。そして、国や自治体がしっかりとサポートしてくれる体制がどこでも整っていて初めて、子どもの権利が保障されていると言えます。この国の現状は、決して子どもの最善の権利を保障しているとは言えません。今検討されている「子ども・子育て新システム」は、さらに子どもの生活、集団、発達を奪うことになりかねません。

障害に応じた手厚い支援も

障害の重い子どもたちも確実に発達します。その歩みはゆっくりでも、親をはじめ周りの大人たちに喜びをプレゼントします。でも、そのためには手厚い医療や訓練、そして療育が必要です。ママだけが一人でがんばることがないように家庭での暮らしを支える支援も欠かすことができません。特に肢体不自由児が通う施設は親子通園が多く、就学まで子どもからひと時も離れることができないのが現状です。3歳を過ぎたら、訓練や療育が受けられる専門通園施設に子ども単独で通える条件整備は、何をおいてもまず一番に公的責任で保障してほしいことです。

乳幼児健康診査はすべての子どもたちに用意されている制度です。そこでは子どもの成長発達を観察し、子育支援の役割もあります。発達の弱さを見逃さない健診の精度や、虐待などの子育て不安を受け止める相談の専門性が必要です。何より求められるのは、健診後のフォロー教室の充実です。発達の経過を追いながらも楽しく遊ぶ場や安心して子どもを連れて来られて悩みの相談ができる場など、さまざまな機能が発揮できるのです。保健センターがもっと身近な場所になることを望みます。

早期発見・対応・療育の場を

あんなにお母さんや先生をてこずらせていた子が、「無事高校に入りました」とうれしい知らせが届くことがあります。療育や発達支援は子どもたちの可能性を引き出し、社会でしっかりと生きていく基礎を育てます。このような役割がある施設に契約の仕組みはなじみません。支援を望んだり、必要と考えられる場合にすべて無償で、待たずに利用できる仕組みこそ必要です。

まず子どもとしての当たり前の権利を保障すること。そして、発達の弱さや障害に対しての特別な支援が充実し、子どもも保護者も将来への大きな夢を膨らますことができる新法を望みます。

(いけぞえもと 「障害児の療育に応益負担を持ち込ませない」事務局長)