音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

  

「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2010年12月号

新法づくりに向けた提言
障害者自立支援法改正案と今後の総合福祉部会

東川悦子

11月17日(水)、冷たい雨の降る日であった。14日の深夜、「障害者自立支援法違憲訴訟団、基本合意の完全実現をめざす会」からの風雲急を告げるメールが飛び込んできた。

自立支援法「改正」案、衆院委員会17日(水)上程・採決の動き。

自民党、民主党の調整の中で17日に衆議院厚生労働委員会に上程。「委員長提案」のため質疑はなし。内容は5月28日衆議院委員長提案で採決されたままの案文。「一言一句変わらない」。補正予算含めた国会全部の審議に影響。「生け贄」か。それぞれが要望書を作って、緊急に行動しよう! 17日(水)国会前集会・傍聴行動 13時集合! 場所 衆議院議員会館に集合、集会、傍聴の予定。

早速、このメールを傘下の団体へ緊急発信した。何という暴挙!

障がい者制度改革推進会議が今月に入ってから毎週開催され、総合福祉部会も作業部会に分かれて具体的な課題の整理検討に入り、それぞれの構成員は、膨大な資料を読み、意見書を必死に作成してきた。

国連障害者の権利条約に基づく21世紀に恥じない新法作りに頑張っている最中、またもや(当事者抜き)に改正案が上程されるとは何事かと怒り、私も国会に馳(は)せ参じた。

改正案には、私たちの求める高次脳機能障害も、難病も明記されていない。相変わらず谷間に置かれたままである。

4月27日に第1回の総合福祉部会が開催された際に、当会は「まずは改正案で、高次脳機能障害を明記してほしい」という意見表明をした。しかし、それはあくまで(総合福祉部会)や推進会議の合意を得た上でのものと考えていた。

事態は思いもかけない方向に急展開。当事者の意向抜きの法案提出となったが、会期が切れ審議未了廃案となったのである。この反省に立って民主党は、障害者団体の意見を聞くということで、選挙後から、2か月余り慎重に意見聴取をしているかに見えた。

しかし、その後の失政続き、支持率の低下を招き、補正予算の成立も危ぶまれるという現在、急転直下、改正案が持ち出されたのだ。

1.平成25年8月までの実施を目指して、障がい者制度改革推進会議における検討を踏まえて障害者制度を見直すなど検討すること。

2.指定相談支援事業者がサービス等利用計画案を作成する際に、障害者等の希望等を踏まえて作成するように努めるようにすること。

との付帯決議が採択されたが、役所言葉で、「検討する」は「あてにならないことの代名詞」が何回も出てくる。「新法を作るために邁進する」とは書いていない。「改正案が時限立法である」とも書いていない。「応益負担」をやめるとも書いていない。

採決が終わった途端、傍聴席からは「お前ら俺たちの方を見ろ」との声も飛んだが、議員たちは振り返りもせず議場を去って行った。帰りの雨がことさらに冷たく感じた。

そもそもなぜ、高次脳機能障害が法律に明記され、障害として認められないのか? 厚生労働省の説明を聞いても納得できない。内閣法制局の抵抗があり、高次脳機能障害を入れるとパニック障害や性同一性障害等も入れなくてはならないから、ということであった。

高次脳機能障害は脳機能の損傷であることは明らかであり、モデル事業で診断基準も定められている。画像で診断できない軽度外傷性脳損傷[MTBI]や脳脊髄液減少症などの未認定問題は残されたが、それすらも日進月歩の医療機器の開発で間もなく明らかになるであろうと専門家は予測している。

今年の高次脳機能障害学会の特別講演は、アメリカ退役軍人医療センターのドクターによるMTBIについてであった。

また、社会との障壁により不利益をこうむるパニック障害等の方々をも包括する障害の定義としなければ、権利条約の趣旨に反するのではないか。

総合福祉部会、障害の定義・範囲作業部会では、私たちは、新たな谷間を生まないために障害の範囲を狭める、制限列挙方式はやめようと主張したい。障害認定されない難病や軽度外傷性脳損傷など、支援が必要な人たちに支援が行き届く法律を目指したい。障害程度区分に代わる支援システム、地域格差を生まない相談援助事業など、課題は多いが、知恵を出し合いたい。

高次脳機能障害の支援普及事業は、全都道府県に相談支援機関が設置され、今年63か所となった。今後の課題としては、専門的な相談支援員・地域生活援助者の養成をいかに進めるかである。

また、小児の高次脳機能障害についての取り組みも各地で始まってきている。知的障害や発達障害の範疇でとらえられてきたが、後天性脳損傷としての配慮が教育現場でも求められてきている。文部科学省との連携も始めねばならない。

さらに、自賠責保険の運用益で行われてきた自動車事故被害者救済事業を管轄する国土交通省における取り組みも有効に活用したい。

縦割り行政の弊害を打破し、課題は多いが、一歩前に進もう。

(ひがしかわえつこ NPO法人日本脳外傷友の会理事長)