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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2011年1月号

座談会
制度改革と障害者基本法の改正

尾上浩二
DPI(障害者インターナショナル)日本会議事務局長
勝又幸子
国立社会保障・人口問題研究所情報調査分析部長
川﨑洋子
全国精神保健福祉会連合会理事長
久松三二
全日本ろうあ連盟常任理事・事務局長
中西由起子 司会
アジア・ディスアビリティインスティテート代表、本誌編集委員

今までの審議を振り返って

●家族が力をつけ、当事者の自立へ

中西 09年暮れに「障がい者制度改革推進会議」(以下、推進会議)の構成員にという話があった時、こんなハードワークになるとは思われなかったと思いますが、1年を振り返りながら、自己紹介してくださいますか。

川﨑 1年前は、前の組織である全家連が解散して3年目で、全国組織が必要ということで組織固めに動いておりました。国連の障害者権利条約(以下、権利条約)に基づいて、障害者の制度を改革すると聞きましたが、何も勉強していない状態で、東室長の「家族の立場で素朴な意見を言ってください」という言葉に押されて参加いたしました。

権利条約を理解していらっしゃる論者ばかりの中で、毎回ドキドキしながらの参加でしたが、精神障害者の問題がとても遅れていることをしっかり伝えなければいけないと全出席いたしました。いろいろな方の応援をいただき、家族のことも含め精神障害のことを理解していただいたことは、ありがたかったと思っております。

特に今回、障害者基本法(以下、基本法)では、家族に依存しない地域での自立した生活が大きなテーマになっておりました。家族支援をと言い続けてきたことと相反する見方もできますので、どのように説明したらいいか悩んでいましたが、尾上さんはじめ多くの方から力をいただきました。家族が元気で力を持たないと、本人が家族に依存しない生活は難しいのではないか。家族自身が力をつけていく教育や情報という支援を得ながら、当事者の自立が考えられるかなと思いました。

全国の家族会から、「家族支援のことを言ってほしい」と言われ、プレッシャーの中でうまく言えるかと思っていましたが、最後のまとめに入れていただき、何とか役割を果たせたかなという思いです。ご支援いただきましたことを感謝申し上げます。

●研究者として女性として

中西 勝又さんは、障害関係の集まりは初めてだと思いますが、ほかの学術会議とは違った感じがしたでしょうか。

勝又 私は国立社会保障・人口問題研究所で研究員をしております。05年度から厚生労働科学研究費をいただいて、障害者の所得保障の研究を始めました。その時から障害者のことを研究されている方々と知り合いになり、08年度から3年計画で、引き続き「合理的配慮」についての研究会を組織しております。

「合理的配慮」という言葉は、研究者にも新しい概念でしたので、それをキーワードとしながら、権利条約の中で言われている差別の問題への取り組みをどう政策に反映していったらいいのかという問題意識です。

そのような研究活動から、東俊裕先生(現推進会議室長)に現政権になる以前にお話をうかがう機会がありました。ちょうど1年前に、推進会議の構成員にと、お声をかけていただきました。この1年間推進会議の場で、障害者運動の中でバリバリ活動している方々と、私としては新しい雰囲気の中で勉強させていただきました。同時に、推進会議に障害当事者の女性構成員が少ないこともあり、研究者としての発言をしながら、障害のある女性を総則に入れることを提案させていただき、さまざまな方からのご支援で入れることができたのはよかったと思います。

●推進会議に明け暮れた1年

尾上 DPI日本会議は、結成の時のマニフェストから、障害を社会環境との関係で捉える、つまり社会モデルであることを提唱した最初の団体と言われています。そういったこともあり、権利条約をつくる過程の特別委員会にJDF(日本障害フォーラム)として対応してきましたが、権利条約の小委員会の事務局を担当させていただいています。また、ここ数年、障害者自立支援法を巡るいろいろな取り組みを行ってきていました。

国際的な権利条約の動きと、政権交代以降、自立支援法を廃止して新しい法律を当事者や家族、関係者の声をしっかり聞いてつくるという中で、当事者が過半数の推進会議ができたのだと思います。

09年3月ぐらいに、基本法を少しだけ手直しして権利条約の批准という動きがあり、非常に危機感を持った時がありました。今回、推進会議で、基本法を抜本改正して、さらに総合福祉法や差別禁止法を制定という工程が確認できたのはよかったと思います。今年の1月12日に推進会議が始まり、1年間で29回。推進会議に明け暮れた1年だったと振り返っております。

久松 全日本ろうあ連盟の事務局長をしております。この1年間、たくさんのことを学ばせていただきました。東室長は、省庁との関係でご苦労を重ねたと思いますし、スタッフのみなさんは努力をされたと思います。功労者には、一人ひとりの立場へ気配りをされながら、時間の足りない中、個性豊かな人たちの議論をまとめていただいた議長代理の藤井克徳さんをあげたいと思います。

私自身も、発言のポイントを押さえた話し方ができるようになったと思います。話し方の工夫、相手の立場に気遣いしながらの発言、話のまとめ方など、全国の当事者が参加する会議のモデルになったのではないかとも感じています。推進会議を作っていただいたことは成果が大きかったと思います。

●勉強を重ね、第二次意見のベースができた

中西 議事がスムーズに進行したというお話がありましたが、第一次意見では大変忙しかったですよね。議題が次から次へと出てきて、それぞれの専門範囲があって、知らないことがあるのに答えなければいけないことがありました。すごく勉強させられましたが、あのプロセスがなかったら、ここまでくるのは難しかったという気がします。

川﨑 宿題がすごい。期間も短いし、内容がものすごくありました。私はいくつかパスさせていただきましたが、ほかの障害を知らなかったと感じました。身体障害は肢体不自由な方というイメージがありましたが、久松さんのような方の大変さ、手話が使えないとお話ができないので、とても残念に思いました。手話の勉強を教育に入れて、コミュニケーションがとれるようにすることが必要ではないでしょうか。障害をもつ方の多様性、それぞれの困難さを勉強させていただいた、いい機会だったと思います。

尾上 論点表が示されてから締め切りまで、3日か4日。受験勉強の時にこれくらい頑張っていれば(笑)と思うくらいハードでした。ただあの論点表があったから、第二次意見とりまとめのベースができたと思います。今までの審議会は事務局が草案を作って、2時間のうち1時間半ぐらいその説明をして、委員はテニオハの修正を求めるという感じだったのが、論点表をベースに委員同士がきちんと議論できたことが大きかったと思います。

毎回、推進会議の前に、ここがポイントというところに付箋を貼ると15から20か所出てくるんです。でも発言の機会は3回ぐらいしかないので、中身以上に、どのカードを切るか、どのタイミングでしゃべるかにものすごく神経を集中しました。

改正案の基本的概念

●障害間で「聞く耳」が持てた

中西 基本概念は権利条約ですが、その前の段階として、第一次意見がありました。それぞれの分野が違いますから勉強を積み重ねた結果、ほかの障害についての基礎知識ができて、次の改正に生かされたのかと思います。基本的概念としては、最初にクロスディスアビリティ(障害の種別を超えて)がくるのかと思うのですが、いかがですか。

勝又 私はJDFという団体があることは知っていましたが、障害者団体はそれぞれの主張をするだろうから、なかなかまとまらないだろうと思っていました。もしかしたら行政の中には、この会議がまとまらないことを想定していた向きもあるのではないかと思うのですが、障害種別を超えてまではいかないのですが、それぞれが聞く耳を持ったと思います。また今まで抑圧されてきた精神障害者に表現する場ができたこと、各団体が辛抱強くお互いの話を聞いたと感じました。

中西 言いたいことはすごくあるけれども、お互いの発言を聞こうという姿勢が今回のベースになっている気がしました。

●情報保障の理解を得た

中西 ほかに今回の基本法の改正の特徴、ベースになっていることをあげていただけますか。

久松 推進会議の核はJDFであり、JDFの上部団体は世界レベルの障害者団体で、全国組織です。国連の権利条約を制定する運動、ノーマライゼーションを進めていく運動団体として動いておりましたので、権利条約の理念や内容を十分に理解している団体が推進会議の核となったのは当然の成り行きだと思います。障害者団体は当事者団体、親の会とたくさんある中で、JDFが核となった背景をきちんと押さえていただきたいと思っています。

推進会議が始まる前に一番心配だったのは、傍聴者も含めて情報保障をきちんとしてもらえるかということでした。1年経って、情報保障の必要性は質的に理解していただいたと思っております。その影響もあって、文科省の傍聴にも手話通訳がつくようになりました。

●合理的配慮の社会的実験の場

尾上 新しく推進本部ができたものの、それまで手話字幕付きでの情報公開、傍聴の仕組みがなかったので、当初はたいへんでした。いろいろありましたが、合理的な配慮という意味ではまだ課題があるかもしれませんが、手話と字幕付きで情報公開ができるようになりました。

もう一つは、イエローカードルールですね。専門用語等が飛び交ってわかりにくい時に、イエローカードが挙げられるとわかりやすく説明し直すというルールです。これも知的障害の当事者委員からの提案で取り入れられました。障害当事者が過半数を占めていましたが、推進会議自体が合理的配慮の社会的実験のようになったことを誇っていいと思います。社会的実験で確認されたのだから、社会一般に広げていかないといけないと言えるのではないかと思います。

中西 そうですね。尾上さんがおっしゃったように、ある意味、推進会議自体が社会的な実験の場であったと思います。会議をやりながら実験を続けてきて、その結果が第二次意見の形で表れたと理解しています。自己決定、自己選択が、推進会議の運営の中できちっとできた。これは体験的な理解ができたことにもつながって、非常に大きな成果ではないかと思っています。

内閣府担当室も一緒になって、運営方法について工夫をし、取り組むことができました。個々に自分がどういう表現をしたらいいのかの工夫もできたという意味でも大きな成果があったと思います。

●私たちの権利の保障を

川﨑 精神障害者の立場として、今回、強い思いで推進会議に臨みました。主体的に生きる権利へという言葉がありますが、今までの精神障害者の制度の歴史から考え、権利の保障のない精神障害者がしっかりとした保障をされるためには、何としても基本法に精神障害者の権利の保障を入れなくてはいけない。入れないことにはいまだに偏見と差別、医療モデルという、ほかの障害では考えられないような現状がこれからも続くという思いがすごくありまして、同じようなことを繰り返し述べました。

いまだに精神障害者をもつ家族だと言えないような偏見の中で、私たちの権利をきちんと保障されるようにしなければという思いが全国の家族会にも広がってきていることは、今回の推進会議の大きな成果ではなかったかと思っております。

中西 今回の基本法改正では、障害を超えたクロスディスアビリティが基本となり、インクルージョンの背景が言われて、そのために合理的配慮が必要であるという話になって、それから自己決定の話も出て、障害種別を超えたインクルージョンのためにはマイノリティの声をきちんと入れていかなければいけないということだと思います。

新しい問題点

●「障害のある女性」も総則に

中西 次に細かい内容に移りたいと思います。たとえば、古い基本法では精神障害は定義しか出ていませんが、私どもがまとめた提言の中には新しい概念が入ってきています。皆さんは、どんな新しい点を強調されましたか。

勝又 私は、障害者の研究を始めるずっと前から男女共同参画に関心があって、大学生の時から男女同権を目指す運動体に入っていました。国連の権利条約には障害のある女性が入っているのですが、第二次意見の議論の時に、障害のある女性の項目を設ける意見がなかなか出てこなかったことに驚きを感じました。

基本法の中に入れないと、女性が第二の制度の谷間になってしまう。つまり、それぞれの障害では制度の谷間をなくそうと努力されているのに、それぞれの中に女性という谷間がまだ残っている。長瀬修先生が第25回の推進会議の最後に、提案してくださったことをきっかけに、構成員の皆さんに賛同していただきました。

数の少ない障害についてもインクルーシブな政策を行うことは重要ですが、性別による違いが障害者団体の中でも十分に理解されていないことがあったと思います。推進会議で前担当大臣の福島さんが「女性を半分入れた」と主張されていましたが、障害のある女性が入っている印象は少なかったです。何人かの方にうかがいましたら、自分たちの団体には、代表として出すような女性がいないというお答えでした。いないというのは、これまで育ててこなかったのだと思うのですが、障害のある女性に対する各障害者団体の意識を変えていただきたいという気持ちを強く持ちました。

中西 会場でも発言をされていましたね。

勝又 団体役員の一定割合を女性にするなどのクォーター制を入れるくらいの覚悟がないと、女性の参画は進んでいかないと言いました。今年の10月から11月に、DPIにご協力いただいて、参加団体におけるリーダー的な立場にいる者の男女比を調べたのですが、圧倒的に女性が少ない。団体によっては女性のメンバーが多いところもあるのですが、障害当事者の女性は非常に少ない。家族や介助者には女性が多いのに女性障害当事者の参加が少ないことにアンバランスを感じています。

中西 あの発言は力強くて、私はうれしくて、会場がシーンとなりましたね。久松さん、尾上さんも、女性障害者を入れることに賛成してくださったという結論でよろしいでしょうか。

尾上 障害のある女性、障害のある子どもは、私の意見書でももちろん入れるべきだと提起しています。

●手話を使う権利、障害定義の検討

中西 今回の基本法改正の中に新しく入れた最大の論点は何ですか。

久松 ろうあ連盟として一番大きなテーマは、手話が命ですので、手話をいかに守るかです。手話を使うことを権利として獲得し、どうやって政策に反映させるかが一番大きな課題でもありました。聞こえない、ろう者の立場で手話で話す時、ほかの障害者とのバランスがいつも問われます。見えない方は、見えない方以外の障害をもった方とのバランスがあります。当事者の声は、ほかの障害者の方とのバランスが常に付きまとってきました。

推進会議は、さまざまな障害者の代表、研究者の方々が集まる議論の場ですが、聞こえない立場という固有の問題と、障害者全般の普遍性のある問題をどう結び付けていくか。ある意味では、大きな実験だったのではないかと思います。

バランスというのは、行政が使う言葉でもあるのですが、ろう者はコミュニケーションの手段として、手話という言語以外に自由に使える手段を持たない、私には手話しか選択の余地がないので、私はバランスという言葉は使いませんが、推進会議で、ある意味超えられたことは大きな成果、意義があったのではないかと思っています。

当事者性を出す時に、常に自分を振り返って言い聞かせていることですが、たとえば、目の見えない方や女性の立場を代弁しようとは思っていません。目の見えない方の問題は目の見えない方に直接聞いてほしいし、女性の問題は女性の当事者が話をする場を作っていきたいと思います。

ろうあ連盟の役員理事20人のうち、女性は1人だけです。全国の活動者が集まる会議でも、女性は全体の5分の1程度です。私たちが反省しなければならない部分もありますが、日本の体質の影響も大きいのではないかと思います。ろう学校の教育で、男女の役割を学びますが、男性は家庭科を学びませんでした。役割分担が自然に身についてしまう環境の中で、ろうあ運動は男性が中心になっていった背景があると思います。それも反省として、女性の立場で意見が言え、企画立案、政策決定に参加できるように保障していくのが、これからの大きな課題だと思います。

次に障害定義についてですが、「障害は機能の損傷」という言葉でまとめられていると思います。ろう者の場合、デフファミリーという言葉を使うことがありますが、ろう者同士が結婚して、祖父母、両親、子ども、親戚もという方が結構多いのです。彼らは障害という認識は持っていないので、機能損傷、機能の障害という言葉はなじみません。機能の損傷ではなく、はじめから機能はないわけです。適切な言葉が日本語に存在しないので、どのように表現すべきか。言葉の定義にはこだわりたいと思っています。今後、基本法の定義になった時に、時間をかけて話す必要があると思います。

もう一つ、地域の学校を「普通の学校」という言い方です。ろう学校から地域の学校にインテグレートする経験があり、ろう学校の先生に「あなたは特別な子どもから普通の子どもになったね」と言われたことを記憶していますが、普通の学校という言葉に違和感を禁じ得ないです。ろう学校にいる子どもも普通の子どもです。普通の、という言葉はなくしてほしい。対等の関係性を作れるような環境づくり、自然に意識が芽生えて、納得できる言葉として広がっていくようになっていけばいいと思います。その辺も求めていくことが我々の役割だと思います。

●制度の谷間をなくす・自己決定・インクルーシブ教育

中西 おもしろい論点ですが、時間の制約がありますので、尾上さん、いかがですか。

尾上 今回、強調したのは、一つは制度の谷間がない、社会モデルに基づく障害の概念です。私などが発言する機会が多いので、DPIは、身体障害者の団体だと思われがちですが、そうではありません。知的障害、精神障害、難病、ユニークフェイスの団体も加盟している障害種別を超えた当事者団体です。制度の谷間のない障害の定義に加えて、地域で暮らす権利や自己決定、障害のある子とない子が共に学び育つインクルーシブ教育、この三つはしっかり提起させていただきました。

制度の谷間の部分は、難病等で困っている仲間がホームヘルプが使えなくて大変な思いをしているという実態があります。地域で暮らす権利は、私自身も子どもの時に入所施設にいて、24時間一歩も外に出られないという体験があり、こだわったところです。教育では、昨年、障害のある女の子が地域の中学に入学しようとしたら入学拒否にあい、裁判の末ようやく認められるようなことがありました。こんなことを許してはいけません。当事者の経験、今も続いている実態をもっと知ってもらって、絶対に変えなければという思いがあります。

今までともすれば当事者の生の声や経験が軽んじられてきたところがあると思いますが、今回の推進会議で、自分たちが実際に経験してきたこと、あるいはいまだに続いている実態など、当事者の生の声に基づいて3点を強調させていただけたことが、もう一つのポイントだと思います。

また、第一次意見から第二次意見の過程で、明確になった新しい論点としてしっかり押さえておかなければならないのは、共生社会、インクルーシブな社会は何かということです。共生というと、「お互い優しくいたわりあいましょう」という情緒的な感じにとられがちなのですが、そうではなくて、「分け隔てられることなく、合理的な配慮と必要な支援の充足を得ながら、共に生きること」だと明確になりました。

もう一つは、障害者間の制度間格差の解消の重要性が示されました。この2点が第二次意見の中で付け加わったのは大きな意味があるのではないかと思います。

中西 個人的には、「普通」、「健常者」、「共生」、「福祉」とかの言葉は嫌いだったのですが、そういう言葉がなくなって、うれしく思っています。

●家族支援、医療、制度間格差の解消

川﨑 私も会の理事長になりまして、バッシングのようなことがありました。「女が長になっても、どこも何も言うことをきかないよ」という言葉を聞きました。まだこんな社会なのかとびっくりして、なおさらやる気になりました。家族会に集まるのは多くはお母さんですが、会長は男性です。これは障害のある女性のことと同じように、女性として考えていきたいことです。

第二次意見で、基本法に家族支援、精神障害者の医療の問題、精神障害者における制度間格差の3点を入れていただいたことは、ありがたく思っております。特に家族の問題は、障害者をもった家族は障害者の世話をするのは当たり前、世話をするべきというわが国の社会の通念がありますから、外に知らせないで、自分たちだけで何とかしようと思っています。障害者を支える家族も地域で普通に生活する権利があるということを、私は目からうろこ状態で今回確認いたしました。

家族に精神障害者をもちますと仕事も辞めざるを得ないことが多いです。収入がなくなる、だれにも相談できずに状態が悪くなってもどうしたらいいかわからない。最終的には、通報入院などで医療につながる現実がまだあります。

初期、早期の段階でいろいろな支援を受けることができるという情報が家族支援には必要です。ひたすら子どものために貯金するだけという生活から、家族も余暇を楽しんで元気になることが、精神障害者の回復にもいいということが少しずつ浸透してきているかなという思いがします。このことは大きな成果ではないかと思っています。

それと精神科の医療についてですが、地方では、地域に精神科病院は一つしかないところがあります。そんなところでは病院は家族の頼みの綱の存在で、困ったら病院に行って、病院の先生がお世話してくださるという思いがあります。実は医療部会でも、病院の先生と私たちは相反する二つの論点になっておりまして、そこをどのように解決していくかがこれからの課題です。対立するのではなく、双方の意見をすり合わせ、精神科医療を本人のためになるようにしていきたいと思います。

●当事者性を生かし、働きかける

中西 研究者が資料を提供し、当事者団体が実例を出し、説得のある資料ができて、今後どうやっていくかの話になるわけですね。その中で、従来の専門家の人たちの領域の中で、当事者性をどう生かすか。この部分では、DPIは経験がありますね。

尾上 第二次意見をとりまとめる推進会議の最終日では、各省庁との調整では「○」(しろまる)と言われる「政府に求める意見」についてかなり議論をして、私たち委員が出した意見をほとんど入れていただきました。50数か所修正ということで、囲み形の中のかなり重要な部分を「○」に持っていけたと思っています。

今回、国際会議のようにいったん休憩して、その間に調整した文章を、再開後の会議で示されるというのが新鮮でした。これまでの審議会等では文章の最終とりまとめは委員長と事務局に一任になり、意見がどこで反映されたか、どこで削られたかがわからないこともありました。今回改めて提示されたのは、日本も国際会議並みの会議の持ち方ができるようになったのかと思いました。それが本来の形ですが、新しさを確認しておきたいです。

今後、基本法改正の作業に向けて、各省庁との調整はハードルの高いものがあるので、どう進めていくか。DPIあるいはJDFという運動団体の立場からは、いよいよ舞台は推進会議から政治の世界に移っていくので、各政党あるいは各省庁に働きかけていくことが大切だと思っています。

特に基本法の中の権利規定の確認や障害の定義、各則の中の教育や労働、地域生活、あるいは精神障害者の社会的入院の解消も含めた地域移行といった部分をしっかり入れ込んでいく。当事者が過半数を占める推進会議のような形の恒常的な委員会、モニタリングの仕組みをしっかり作っていかなければと思います。

基本法は、今後の制度改革の基礎というか、スプリングボードのような感じがします。どれだけの高さのスプリングボードが作れるかで、次の総合福祉法や次の差別禁止法に飛びやすくなるかどうかが決まってきますので、できるだけ高い水準でと思っています。

また、内閣府は推進会議で議論に加わっていただいていますが、前々回の省庁からの意見を見て、青ざめましたよね。今までどおりで十分だ、新しい提案は実施するのは難しい、あるいは実施すべきではないという意見が出されていました。

推進会議のメンバーは一丸となって、自分たちがまとめた意見をきちんと法律にしてほしいとフォローアップしていく。担当室だけに任せるのはあまりに負担が大きすぎると思います。各省庁、各政党に対する働きかけがすごく重要だと思っています。

今後の課題

●当事者の研究者と協力、反駁(はんばく)はいいチャンス

中西 勝又さん、今までの議論を聞いていらして、よくそこまで言ったという議論と、そこまで言って大丈夫かという議論はありましたか。

勝又 省庁の意見をもう少し客観的に見る必要があると思います。自分たちが言っていることを否定されたととるか、省庁はどういうことを条件としてあげれば、そのことについては進んでいけると言っているか、逆に見る面も必要です。

ただ、これからいろいろ議論になると思いますが、財源論などの話になった時に、財源ありきでないと話ができないという議論には、そういうものではないとしっかり言わなければいけないと思います。最終的には、政治の場に出ていくと思うのですが、途中で省庁が反駁してくることに真っ向から反駁していくという、今までの障害者団体の運動方法は考え直さなければ、先に進まないと私は思っています。

たとえば研究者の役割というお話がありましたが、障害のある研究者はどんどん増え、障害者の人権は自分のことでもあるので、関心を持って取り組む方たちが増えています。障害者団体は、そういう研究者との役割分担を進めて、当事者側でデータとか法律的なことのきちんとした反論の根拠を用意する必要があると思います。

各省庁は厚労省を見ても、障害者の問題だけをやっているわけではなく、かつ組織の中でも障害保健福祉の分野は比較的に弱いのですね。推進会議にいますと、これが世の中の一番重要な問題で、全国民が関心を持っていると錯覚しますが、いったん推進会議の場を離れると、言い方はよくないのですが、障害者の問題は非常にマイナーな話です。推進会議の活動は、それをメインストリーム化していく機会ではあるのですが、方法を間違うと、そこだけの議論に終わってしまいます。

研究者として行政のやり方を多少なりとも知る人間としては、第一・二次意見に、各省庁が反駁したことは、議論を広げていくのにいいチャンスだと思います。反駁されたことは、向こうが対応しなければいけないと思ったことですので、その辺は積極的に利用していけばいいと思います。

尾上 第一次意見を出した後でしたが、何人かの方からお手紙をいただきました。「子どもを特別支援学校に通わせているけれど、推進会議の意見だと、来年4月から特別支援学校を廃止することになり、行く学校がなくなると言われたが、本当ですか、止めてください」と。

しかし、そんなことは推進会議は言っておりません。推進会議が提起しているのは地域の学校を原則とする、そして、本人・保護者が希望する場合は特別支援学校も選べるという規定です。特別支援学校を廃止するとは一言も書いていません。誤解の上で反発しあっても仕方がないので、事実は何なのかを丁寧に返していくことが大切だと思います。

●手話は言語

中西 今までの課題の中で、手話は言語の選択肢であると書かれていて、言語について議論されていませんでしたが、今後の課題になるのですか。

久松 言語とは何かを推進会議で話していないのですが、日本語とは何かという説明と同じぐらい、説明が難しいのです。ヨーロッパやアメリカはいろいろな民族がいるので、多様な言語が共存しています。一般的に公用語と言い、国連も公用語です。日本は、日本語が国語になっていますから、手話が言語といっても、一般の人たちにはピンとこないと思います。

国語というのは、日本のほかには韓国だけです。手話は言語であると繰り返し問いかけることによって、一人でも多くの方が、言語とは何なのかと気づくことができればと思っています。言語について一緒に考えましょうという場を作ることができれば、かなり前進だと思います。

勝又さんが、否定的な言い回しについてはどう受け取るかが大事だとおっしゃったと思いますが、私は行政が否定的なコメントを出しても、腹立たしいという思いはありません。はっきり言って、弱い福祉で危ういと思います。創造性が乏しいといつも感じています。

問題があるというのは簡単ですが、その問題を解決するためにはどうしたらいいかの発想が足りないと感じることが多々あります。立法的効果は何かと厚労省が問うてきたことに対して、この問題を解決するためにどうしたらいいかという議論が障害者問題に限らず、いろいろな分野に多いと思います。

私は、女性差別撤廃条約も権利条約に触れた時に初めて知りました。男女雇用機会均等法も、国連の男女差別撤廃条約があって、国内の女性団体が頑張って政府を動かしたという背景があることを、権利条約を通して知りました。JDFを中心とした国民への理解啓発の運動にどう結び付けていくかが、大きな課題になると思います。

中西 課題の一つとして、手話は言語だと訴えていく形で、運動を展開したいということですね。基本法に関して言えば、言語の扱いにはなっていますが、手話を言語と言いきるのは時間がかかるということですね。

久松 ヨーロッパでは手話言語法があります。ニュージーランドにもあります。ヨーロッパのいくつかの国の憲法では公用語に手話が入っていますが、日本では憲法に入れることは難しいと思いますので、手話言語法という独立法を作るか、個別法の中で手話は言語であると認めさせるという話になっていくと思います。

また手話通訳士は国家資格ではありません。手話通訳が必要な場合は行政が責任を持ち、いつでも利用できる状況をつくっていく。言語通訳者として、手話通訳者が認められる法制度を作っていくということに結び付けていきたいと思います。

●国民に理解を求めよう

中西 推進会議の下に、総合福祉部会と差別禁止部会が動き出しています。これがどういうふうに生かされつつあるとお考えですか。

川﨑 私は、総合福祉部会の中の医療の合同作業チームに入っています。精神科医療はなかなか難しく、意見が二つに分かれています。病床数を減らすことに病院協会は反対していますが、国際的な問題から見ると減らさなければいけないわけで、どのようにしたらいいか、一緒に考えていかなければいけないという思いがします。

精神疾患は、英国などと同じように日本も三大疾患の一つに入るくらいの数になっています。別の会で、心臓、がんと精神疾患を三大疾患にしようとのキャンペーンを張り、新宿東口で160人ぐらい動員して署名活動をしましたが、大勢の人が通っても、だれも見向きもしてくれない。チラシを渡そうとしても受け取ってくれない。得られた署名は700で、残念でした。

推進会議では盛り上がっていますが、国民の関心は障害者には向けられていない、理解を得られていません。これを何とか打破していく方法を考えることも、基本法を作る上で大きな課題ではないかと痛切に感じました。

中西 「交通アクセス」に取り組んだ時もそんな感じでしたね。

尾上 20年ぐらい前に交通アクセスの運動をした時、当時は車いすで街に出る障害者はまだまだ少数でしたが、パレードをしても白い目で見られる感じがありました。繰り返し訴えて、社会にバリアの存在を気づいてもらわないと、社会は変わらないですね。

久松 私も、うまくいかないことの方が圧倒的に多いと思っています。うまくいくのは100か200のうち一つか二つぐらいです。私から見ると700人は多いですよ。尊い署名だと思います。これから各団体が力を合わせて、7千人、7万人、70万人に広めていきたいですね。理解をしてもらうことは、言葉で説明しても難しいと思っています。障害者団体、家族会の方々も創造的な知恵を出し合っていけば、行政にも知恵を出す努力をしてほしいと言えると思います。

一つの例として、ろうあ連盟が聴覚障害者の問題を映画にしました。理解してください、同情してくださいではなく、自然に何となくわかってもらえる工夫をして、16万人の方々に見ていただき、理解できたという声もたくさん寄せられています。我々はあきらめないことが大事だと思います。

川﨑 これからは国民に理解してもらうような活動をしていくことと、総合福祉法に関しては、基本法で取りあげられた家族支援と地域生活を強く訴えていきたいと思います。私は、家族の権利に目覚めました。家族が一生涯子どもの世話をするのではなくて、サービスを受けながら、家族も普通の暮らしができていくのではという思いを持ちましたので、その実現に向けて頑張っていきたいと思っています。

●わかりにくい推進会議と各部会の関係

勝又 私は、就労合同検討チームに入っています。第二次意見に対する、厚労省の意見の中で、「『労働及び雇用』で掲げられている観点については現在、就労合同作業チームにより検討しており、多くの事項についていまだ結論が出ていないことに加え、労働政策審議会の審議を経る必要があることから、結論的な記述を行うことは適当ではない」と言っています。

ある意味いいことなのですが、特別な障害者雇用の話から、就労合同検討チームでは労働行政の話になっています。今までも労働政策審議会の中で割当雇用など、部分的な議論はされていましたが、大きな部分で障害者の雇用の話は福祉の世界でした。障害者の労働の権利を強く言うことによって、労働政策審議会での議論に入るわけです。また、第二次意見に対する厚労省の意見では、障害のある人もない人もハローワークで同じサービスが行われているような話になっていますが、実際はそうではないのです。手話一つとっても、手話ができる担当者がいるハローワークは限られています。

前記厚労省の意見の中で、これは私自身にとっても悩ましいところですが、就労合同チームと推進会議の進め方の時差があり、外から見ると、まだ就労合同チームで議論が終わっていないのに、推進会議で決まったような意見を言うのはおかしいのではないかという反駁があるわけです。

推進会議が主なのに、総合福祉部会がいい意味でも悪い意味でも存在感が大きくなってきた印象があります。総合福祉部会で話し合われていることの方が推進会議よりも具体的なので、厚労省も具体的に対応しなければならないので関心が強い。推進会議本体の議論と総合福祉部会のどちらを優先したらいいのか、外にも見えにくく、わかりにくくなっていると思います。

中西 その課題はみんな理解ができる部分だと思います。

●推進会議から、権利条約批准に向けて

中西 望みを失わず、基本法の改正を果たしていかなければと思います。総合福祉部会の要にいらっしゃる尾上さん、いかがですか。

尾上 私は、総合福祉部会の副部会長を務めています。総合福祉部会では、現在作業チームに分かれて議論をしています。第1期、第2期と11年5月まで続けて議論を重ねていきます。

私の訪問系作業チームでは、ホームヘルプやパーソナルアシスタンスをどうするかを検討しています。地域で暮らす権利が当たり前の権利として認められていないと、いくら良い制度を作っても必要に基づいての支給が認められにくい、権利性を明確にしてほしいという議論がありました。それで第二次意見に「地域で生活する権利を確認し」という言葉を入れてもらいました。権利条約でも書かれており、日本政府も確認したことになるので、次の総合福祉部会は、推進会議で確認した内容をもとに議論していくというイメージです。

より具体的な項目があるので、総合福祉部会に関心が向くのはわからなくはないのですが、一番の大本に、権利条約の批准に向けての推進会議があり、それを具体化するため総合福祉部会があるという位置関係を忘れてはいけないと思います。そうした点からも、昨日の修正は大きかったと思っています。

総合福祉部会は11年の8月までに今後の骨格をまとめることになっていますが、勝又さんから最初にこれだけの大人数ではまとまらないのではないか、まとまらない方がうれしい人がいるのではないかという話がありました。講演会などで、「総合福祉部会は55人もいて、まとまるんですか」と尋ねられる機会がありました。「やっと作業チームになってきているし、だいぶ本音の議論になってきたので、大変だけれどまとめていきたい」と答えると、「あぁそうですか」と残念そうに言われたり(笑)。空中分解すると思われていたのが、作業チームの議論が始まり、次のステップが見えてきているのではと思っています。

また、差別禁止部会は始まったばかりですが、ぜひとも実際の差別の実態はどういうところにあるのか、ヒアリングも含めて丁寧に議論をしてほしいと思っています。総合福祉法、差別禁止法は国民の理解が大切です。内閣府、JDFで行ってきた地域フォーラムはすごい熱気、期待がありましたので、第二次意見についてフォーラムの継続ができればと思っています。

基本法は、いろいろな意味での影響は与えてきているのかと思います。地方自治体の差別禁止条例が06年に千葉、08年に北海道で制定されました。最近、岩手県で制定され、向こう1年間ぐらいに八王子市、さいたま市、熊本、沖縄、愛知で制定されると思います。スピード感が増してきていますが、推進会議の議論が大きく後押しをしているのではないかと思います。

福島前担当大臣が「改革のエンジン部隊」とおっしゃっていましたが、エンジンはガソリンがなければ動きません。ガソリンは地域からの声と運動です。地域フォーラムや地域からの差別禁止条例作りなど、推進会議が一体となって進めていければと思っています。

勝又 今まで中央政府がやっていた審議会は、地方との関わりがないのですね。中央が計画を立て、地方にも計画を立てなさいというのですが、これが見本ですよと見本を示すような話になってしまって、地方自治体の実情と合わない議論になっていたと思います。

今回は、地域フォーラムを同時に開催していますし、特に地方分権との関係で推進会議の当初からいろいろな議論があったので、地方自治体でも推進会議における論点の理解を同時に進めることができました。社会的な政策、特に障害者、高齢者、子どもの問題は、実際は地方自治体がやることです。中央で考えながら、地域と一緒にやっていく一つの社会政策モデルを構築したと言えるのではないかと思います。

久松 今回の推進会議は、専門家とは何なのかを問われたのではないかと思います。教育の専門家がいないと言われますが、専門家とは何なのでしょうか。欠格条項の撤廃で優秀な障害者の挑戦の機会が増え、当事者の医師が誕生しています。

当事者がいろいろな分野のリーダーとして活躍できる機会を増やしていくことで、体質を変えていく。推進会議の中で、それが生かせたと思います。専門家でない人の方が、みんなが納得する話ができたことは非常に大きいと思いますので、今後の課題として出し続けていきたいと思います。

川﨑 地域フォーラムでは、皆さんがとても熱心に参加してくださって、フロアからいろいろな質問や要望が上がりました。各地域の要望を受け止めて改革に生かすこと、また自分たちの問題だという意識が地域フォーラムで広がっていったことを感じまして、たいへんだけれど、やっていかなければと思っております。

中西 私の知っている方は、推進会議の模様をオンデマンドのテレビで見ていて、小川議長の真似ができるぐらい見ていると話していました。浸透しているのだとうれしく思っています。

私たちはまだ多くの課題を抱えていますが、今後4年間の任期を頑張っていきたいと思います。長時間にわたり、ありがとうございました。

*座談会は、第二次意見がとりまとめられた翌日の2010年12月18日(土)に行われました。於:アルカディア市ヶ谷(私学会館)