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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2011年1月号

ワールドナウ

make the right real(権利を現実に!)
ESCAP第2回社会開発委員会傍聴報告

寺島彰

2010年10月19日(火)~21日(木)、アジア太平洋経済社会委員会(ESCAP)第2回社会開発委員会が、タイ・バンコクの国連会議センターで開催され、傍聴者として参加したので、同会議の内容について報告する。

1 本委員会の位置づけ

2010年5月10日のESCAP総会において「『第2次アジア太平洋障害者の十年(2003―2012)の実施状況の最終評価のためのハイレベル政府間会合(以下、ハイレベル政府間会合とする)』の開催に向けた準備に関する決議(決議66/11)」が行われ、1.ハイレベル政府間会合を2012年に韓国政府の主催で開催する、2.加盟各国や主要関係者がその準備に積極的に貢献するよう要請する、3.ESCAP事務局がアジア太平洋地域の障害者団体を含む主要な関係者に準備過程への参画を促すよう努力する、ということが決められた。

この決議に基づき、2010年6月23日(水)~25日(金)に「ESCAP第2次アジア太平洋障害者の十年(2003―2012:びわこミレニアム・フレームワーク)の実施状況評価に関する専門家・関係者会議(以下、専門家・関係者会議とする)」が開催され、そのレポートが本委員会に提出された。本委員会では、この専門家・関係者会議のレポートを参考にしながら、2012年に韓国で開催されるハイレベル政府間会合のために議題案などの準備をするために開催された。なお、社会開発委員会は、2008年4月の第64回ESCAP総会において設置された委員会で、2年に1度開催されることになっている。前身は、社会問題委員会(Emerging Social Issues)である。

参加者名簿によれば、ESCAP加盟国・準加盟国の政府代表者等23か国85人、国連等の国際機関から7機関9人、非政府組織等から19団体94人、助言者5人、事務局員28人の参加があった。日本からは、政府代表障害者団体(DPO)を含む国際NGO等から27人の参加があり、日本の存在感は大きいという印象であった。

2 議論の内容

会議の日程は、表1のとおりであった。3日間に11の議題について議論された。主な議題についてそのまとめを紹介する。

(1)議題4・社会開発分野における地域情勢と発生している問題についてのまとめ―特にもっとも弱い立場にある社会グループの社会的保護について―

参加各国から、それぞれの国の経験などの紹介や意見表明がなされ、委員会はESCAPに対して次のことを求めた。

○各国の情報や経験を交換できるようにアジア太平洋地域における社会的保護の好事例を分析し、文書化し、紹介すること。

○女性、障害者、高齢者、児童など、社会的弱者の社会的保護の域内協力をさらに進めること。

○アジア太平洋地域の建築物、交通機関、情報におけるアクセシビリティを改善するよう域内の協力を推進すること。また、ESCAP自体の情報、設備、サービスにおけるアクセシビリティも改善すること。

○障害者権利条約と国内法の整合性をもたせるよう域内の協力を進めること。

○障害者に関するデータの格差をなくし、障害者の置かれている状況を把握・分析する努力を強化すること。

(2)議題5・障害をアジア太平洋地域における開発課題の中心とすることについて

○メインストリーミングがすべての政策の一部になるべきであり、障害者の声を反映すべきである。そのために、政策や制度の設計、実施、モニタリング、評価のすべての段階でいろいろな障害者が参加できるようにすることが重要である。

○福祉的アプローチから権利ベースのアプローチへの移行が重要である。

○エビデンスベースのインクルーシブな政策発展のための調査が必要である。

○メインストリーミングを、ODAのプログラムに早急に反映させるべきである。また、各国政府と国連との協力も強める必要がある。

(3)議題6・アジア太平洋地域における障害者権利条約の現状のまとめ

○アジア太平洋地域における障害者の完全参加と平等のために非常に多くのやるべきことがある。

○アジア太平洋地域における障害者権利条約の実施を加速するために、域内のキャンペーン「権利を現実のものに(make the right real)」を強く支持する。

(4)議題7・ハイレベル政府間会合におけるアジア太平洋障害者の十年(2003―2012)実施についての最終まとめのための準備

○専門家・関係者会議の報告書における新しい十年(2013―2022)の提案を全面的に支持する。

○ハイレベル政府間会合に向けて、アジア太平洋障害者の十年で達成したことを文書にまとめることが重要である。

(5)議題11・会議報告書採択

10月21日(木)最終日の午後、本会議の報告書が事務局から提出され、微修正の後、採択された。

なお、本来、社会開発委員会は、2年後の2012年に開催されることになっているが、同年に3つの政府間会合が開催されることなどから、次の第3回社会開発委員会は2014年に開催されることになった。

3 おわりに

今回の社会開発委員会は、国連の会議とは思えない華やかなものであった。開会式では、手話ダンスやビデオの放映が行われたり、ESCAPのアクセシビリティ改善の取り組み開始セレモニーとして、日本から助言者として招聘された中西由起子さんが、会場の中心に設置されたスロープを電動車いすで登った後、開始のスイッチを押したり、華やかなイベントがいくつも用意されていた。ESCAPの職員も紫の制服を着用したり、女性の部長の采配によるものらしい。

今後、2012年に韓国・仁川(インチョン)で実施される政府間会合に向けて、域内の障害者実態調査などが実施され、第3次アジア太平洋障害者の十年の実施に向けて動きが加速していくものと思われる。2012年には、政府間会合のほかにAPDF、RIなどの国際組織の会議も予定されており、今後、韓国は、本格的な取り組みをしていくとのことである。

アジア太平洋地域における障害者の権利を現実のものとし、完全参加と平等を達成するために、日本の皆さまも、その動向に注目していただきたい。

make the right real !

(てらしまあきら APDF事務局次長、JDF国際委員長、浦和大学教授)

表1 会議日程

10月19日(火)

09:30―10:30
議題1 開会、歓迎のあいさつ(ノエリーン・ヘイツァー国連事務次長・ESCAP事務局長)、就任演説(タイ国外務大臣)、あいさつ(モンティアン・ブンタン上院議員・タイ盲人協会会長)、セレモニー
10:30―11:15
休憩と団体写真撮影
11:15―12:00
議題2 議長団選出
議題3 議題採択
議題4 社会開発分野における地域情勢と発生している問題についてのまとめ―特にもっとも弱い立場にある社会グループの社会的保護について―
 ・導入(事務局) ・議論と各国の経験の交換
12:00―13:30
ESCAP主催の昼食(日本政府の協力によるJDFのサイド・イベント「コミュニティ・レベルでの好事例」を同時開催)
13:30―15:00
議題4 (討議継続)・議論と各国の経験の交換
議題5 障害をアジア太平洋地域における開発課題の中心とすることについて
 ・導入(事務局) ・議論と各国の経験の交換
15:00―15:30
休憩
15:30―17:00
議題5 (討議継続)・議論と各国の経験の交換

10月20日(水)

09:30―10:30
議題6 アジア太平洋地域における障害者権利条約の現状のまとめ
 ・導入(事務局) ・議論と各国の経験の交換
10:30―11:00
休憩(世界統計の日記念「世界の女性2010報告書」の出版イベントを実施)
11:00―12:00
議題6 (討議継続)・議論と各国の経験の交換
12:00―13:30
昼食(DRTAP委員会主催「アジア太平洋における障害者の権利のための地域ネットワーク」に関するサイド・イベントを同時開催)
13:30―15:00
議題7 ハイレベル政府間会合におけるアジア太平洋障害者の十年(2003-2012)実施についての最終まとめのための準備
 ・導入(事務局) ・議論と各国の経験の交換
15:00―15:30
休憩(韓国第3次アジア太平洋障害者の準備会主催「第3次アジア太平洋障害者の十年の行動計画の提案」のサイド・イベントを実施)
15:30―17:00
議題8 将来計画において重点事項として考慮すべきこと
 ・導入(事務局) ・議論と各国の経験の交換
議題9 第67回経済社会委員会に提出するための決議案の検討
 ・導入(事務局) ・議論と各国の経験の交換
議題10 その他
 ・議論

10月21日(木)

14:00―16:00
議題11 会議報告書採択
 ・報告書案の検討 ・報告書採択
閉会