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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2011年2月号

わがまちの障害福祉計画 三重県鳥羽市

鳥羽市長 木田久主一氏に聞く
小さいまちだからこそできる、住民参加のコミュニティづくり

聞き手:山路克文
(皇學館大学現代日本社会学部教授)


三重県鳥羽市基礎データ

◆面積:107.98平方キロメートル
◆人口:22,120人(平成22年11月1日現在)
◆障害者の状況:(平成22年11月1日現在)
身体障害者手帳所持者 1,066人
療育手帳所持者 156人
精神保健福祉手帳所持者 74人
◆鳥羽市の概況:
鳥羽市は、豊かな海の幸や点在する島々と海が織りなすロケーション、鳥羽水族館やミキモト真珠島などの観光施設を持ち、毎年400万人以上の観光客を迎える国際観光文化都市である。また、有人離島も4島あり、離島ならではの歴史・文化をそれぞれの島がもっている。
「鳥羽市障害福祉計画」では、だれもが住み慣れた地域で誇りを持って、その人らしく主体的に豊かな生活を送ることができる社会を目指し、「一人ひとりが輝き、こころ豊かに安心して暮らせる共生のまち」を目指している。
◆問い合わせ先:
鳥羽市健康福祉課高齢・障害係
〒517―0022 三重県鳥羽市大明東町2―5
TEL 0599―25―1183
FAX 0599―25―1154

▼鳥羽市は、伊勢志摩国立公園のほぼ中央に位置する景観の素晴らしい観光都市ですが、まず市の特徴についてお伺いしたいと思います。

鳥羽市は、観光と漁業を基幹産業とするまちであり、国際観光文化都市に指定され、年間で約430万人もの観光客を迎えています。心のふるさとといわれる伊勢神宮のそばにあり、伊勢神宮参拝の宿泊地の一つとして認知されております。リアス式海岸という複雑な地形がもたらす景観とそこで獲れるあわびや伊勢えび、浦村牡蠣などの海産物は有名です。

それから、戦国時代の水軍の将“九鬼嘉隆”を城主とする鳥羽城は、城の門が海に向いて築城されていたというユニークな城でもあります。また、御木本幸吉が世界ではじめて真珠養殖に成功し、その業績が展示されているミキモト真珠島や鳥羽水族館、そして離島などの魅力的なスポットが数多くあります。

また、さまざまなボランティア活動が活発で、特に「伊勢志摩バリアフリーツアーセンター」、「海島遊民くらぶ」、「島の旅社」については、女性が中心となって活発な活動が行われています。鳥羽市は、「小さくても真珠のように輝くまち」をキャッチフレーズに、小さなまちだからこそできるコミュニティの形成を目指しています。

▼鳥羽市はたくさんの魅力にあふれているところですね。ところで、先ほどご紹介のあった女性を中心とした3つの団体の活動について、もう少し詳しくお聞かせください。

まず、「伊勢志摩バリアフリーツアーセンター」は、「伊勢志摩に遊びに行きたい」という障がい者や高齢者に、伊勢志摩の観光施設や宿泊施設などのバリアフリー情報を発信するNPOです。事務局長である野口あゆみさんは、センターのほとんどすべての事業の現場責任者という立場で、障がい者と健常者、福祉と観光振興という両極をつなぐ中心人物です。次に「海島遊民くらぶ」は、一般の旅行者に対して、島民や地元住民への気配りを観光ガイドに組み込み、地元の人々と積極的に交流し、地域の魅力を十分に発揮できるよう心がけられたエコツアーを展開する団体です。ここでは旅館の女将を兼務する団体代表の江崎貴久さんが頑張っておられます。3つ目は、「島の旅社」(答志島・とうしじま)という団体です。この団体は、島が持つ豊かな財産とありのままの島の生活を来島者に「おすそ分け」したいという想いで、島に住む人々の手で、島の旅を「おもてなし」の心でプロデュースする団体です。家業である漁業の傍ら事務局長として活躍されているのが、山本加奈子さんです。

▼観光都市鳥羽市の景観が織りなす魅力は、その独特な地形にあると思います。離島であったり、リアス式海岸であったり、傾斜のきつい海岸線であったり、しかし、高齢者・障がい者にとっては、非常に住みにくい環境ともいえます。高齢化もかなり進んでいると思われますが、そのあたりの現状を市長さんはどのように受け止められていますか。

鳥羽市には4つの有人離島がありますが、それぞれの高齢化率は、平成22年3月末現在で坂手島(さかてじま)52.3%、神島(かみしま)43.3%、菅島(すがしま)33.6%、答志島30.8%となっています。このような状況では、島によい就職口がなく若者がどんどん都会へ出て行ってしまいます。

しかし、私は人口が少ないことが必ずしも悪いことではないと考えています。問題は、減っていく過程のなかで、どのような対策を打っていけるかという部分です。そこで私は、人口の減少を抑えるために、子育て支援に力を入れたいと思っています。

▼離島を抱えた鳥羽市独特の問題や課題をお聞かせください。

離島の人たちは、もともと自分たちの島のなかで助け合っていくという意識が強かったようで、介護保険施行当初は、「サービスを利用する」ということに抵抗があったのではないかと思われます。しかし、5、6年前から確実に変化が見られるようになってきました。今では、高齢者・障がい者を地域で見守ることが当たり前になり、サービスを受けること自体に抵抗がなくなってきたように思います。定期船を使って本土のデイサービスを利用する方も増えてきました。また、島にそういう施設を作ってほしいという要望も出てくるようになりました。このような変化は、地域としての理解やサービスを受けること自体が浸透してきたこと、ボランティアや民生委員さんの活動が、高齢者や障がい者の社会参加を促していると感じています。

▼鳥羽市には、離島以外にも交通の便のよくない場所がありますが、この地域についてはどうでしょうか。

4つの有人離島のほかにも地続きでありながら、交通の便が悪く鳥羽港とこの地域の間に定期船が就航していた時期もあります。今でこそ、パールロード(志摩半島をめぐる観光道路)が無料になり、しかもどの家庭でも車がある時代になり、以前に比べて便利にはなりましたが、その意味では、行政効率の極めて悪い地域であるといえます。その象徴として鳥羽市は、保育所が9、小学校が10、中学校が6あり、人口約2万人強でこれだけの施設を必要としています。当然、この地域のために役所の出先機関も必要となります。

▼私も三重県出身ですので、地域の実情はよく分かります。このような行政効率の悪さをどのように克服されようとしておられますか。

テレビ会議のようなものをやってみましたが難しいですね。小学校では複式学級をやっていますが、非常に少ない生徒数では競争意識も生まれず、保護者の方からもっと子どもに競争できる教育環境をという願いもあって統合が起こってきています。人口が減り続けるなかで統廃合をやっていかなければならない現状です。細やかに目が届くという意味では小さい方がよいのかもしれませんが、競争のなかで育つ環境という意味では小さいから良いとばかりは言えないのではないでしょうか。

▼この地域の医療は、いかがですか。

市には民間の医療機関のほかに市の診療所が7つあり、今のところ市全域をカバーできています。そして、県内の三重大学医学部や自治医科大等にも僻地医療に理解を示していただいています。また、診療時間外でも対応していただいている医師や最近家族を連れて神島に住み込んで診療にあたってくれる30代の若い医師が現れて、大変助かっています。

▼すばらしいですね。先ほどの3人の女性に代表される活発なボランティア活動、そして献身的で理想に燃えた医師の存在は、うらやましく思います。さて、障がい者の自立支援に向けた取り組みはいかがですか。特に就労支援についてお伺いします。

鳥羽市の地元産業に就職していく例は少ないと思います。むしろ「海の子」や「あしたば」(就労継続支援B型事業所)で提供される仕事に就くのが現状であり、鳥羽市においても一般就労につなげていくのは難しい状況にあるかと思います。

▼小さい地方の自治体では難しい課題のようですね。ところで自立支援協議会の活動は、市長さんはどのようにご覧になっておられますか。

障がい当事者の方やその家族、観光関係者や商工関係者、福祉関係者など、さまざまな分野の方々が一緒になって議論できる場として、平成21年11月に設立しました。設立にあたり、5回の準備会を開いて、皆さんが一緒になって、会自体のシステムをゼロから作り上げていったものです。徹底的に話し合いをして皆さんの意見をまとめ、これからの対策を考案するという、今までにないやり方で運営されています。つまり従来の「陳情」や「要望」という姿勢ではなく、「提案」という形に変わってきたことはたいへん喜ばしいことだと思います。

▼自立支援協議会で議論されている「生活介護施設」についてお伺いしたいのですが。

まず1年目の取り組みとして、「日常生活の場の充実」を中心に議論をしてきました。市の障害福祉計画に生活介護施設の設立がありましたので、当事者の立場からどのようなものが望ましいのかをニーズを出すことから始め、その内容を「提案」としてまとめていただきました。基本的な設計図は完成していますので、自立支援協議会からあげられた提案内容を反映させ、23年度中に建設を始める予定です。

▼最後に鳥羽市の活性化という大前提の課題を踏まえ、鳥羽市の障害者福祉はどのようにあるべきか、お考えをお聞かせください。

私は、障がいのある方々を障がい者として意識しない世の中が理想であると考えています。つまり、足の速い人もいれば遅い人もいる、背の高い人もいれば低い人もいる、人間のさまざまな違いを一つの個性とみる、いわゆるノーマライゼーションの理念で、鳥羽市の障害者福祉施策が充実していくことを願っています。

▼大変貴重なお話をお伺いでき、ありがとうございました。最後に伊勢神宮のお膝元にある皇學館大学を鳥羽市発展のために大いに活用していただけることを祈念してインタビューを終わらせていただきます。


(インタビューを終えて)

三重県鳥羽市は、景観の素晴らしい観光都市であるが高齢化の進んだ地域でもある。その意味ではたくさんの課題に立ち向かっていかなければならない地方都市の典型であろう。しかしながら、市長の冷静な目と市民に対する想いから、「人という社会資源」を最大限に発揮するための環境の整備に視点が注がれていることに感銘を受けた。小さな地方都市で「公共性」を追求し「共生」を実践する市長のロマンに今後も注目していきたい。