音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2011年3月号

就労支援関係予算を見る

奥西利江

法定雇用率について

平成22年度の障害者の実雇用率は1.68%。法定雇用率1.8%には届かないが、年々上昇していると発表されている。

しかし、雇用実態は本当に伸びているのだろうか。実は、雇用率の設定と算定には「ダブルカウント」というマジックがあり、雇用されている障害者数と実数との間には差がある。その差を実績を基に計算すると、雇用者数の約73%が実数と推定できるため、ダブルカウントの対象者の雇用が増えれば、雇用率が上がる仕組みになっている。

ここ数年の特例子会社の急増により、重い障害のある人の雇用が進んだことが、雇用率上昇に少なからずとも影響していると思われる。

一方、景気の低迷により、わが国の全企業数の99.7%を占める中小企業の雇用者数は減じている。また、離職率については、明確なデータはないが、私の地元管内では約50%と言われている。

以上のことはあくまでも推定だが、就労支援の推進策が真に有効な施策なのかどうかを検証する上で、一つの指標にはなるだろう。

就労支援推進のための予算の概要

平成23年度の就労支援に関する予算は、職業安定局・職業能力開発局が218億円、障害保健福祉部15億円の合計233億円。昨年度比1%の伸びはあるものの、昨年度同様で、内訳の組み換えにとどまっている。

目立った事業はないが、雇用率達成指導の強化が昨年度比3割増、就業・生活支援センターの拡充に52億円(労働42億円・福祉10億円)、ハローワーク中心のチーム支援等がある。チーム支援については、自立支援協議会等類似する事業が多く、関係者が会議に追われ、実践が滞る懸念があるため、その実施方法に一工夫必要である。

また、精神障害者への総合的な支援策が強化され、雇用トータルサポーターのハローワークへの配置や雇用安定奨励金が昨年度比8割増になり、雇用管理ノウハウに関する事業も新設された。

そして、公的機関チャレンジ雇用については、前年度目標(220人分)の倍増の予算が確保されている。ただし、有期間雇用後の就労へのつなぎが大きな課題である。知的障害を対象とした同様の実習制度については、ほとんどが単なる体験で終わっているので、そうならないことを期待したい。

そんな中注目したいのが、在宅就業支援制度の活用促進である。この制度は就労系事業所も対象となるが、事業所側に特別の利がないため、広く活用されておらず、制度自体を知らない福祉関係者も多い。

しかし、この制度を仕事の確保策に利用できる可能性は大きい。これまで優遇制度等のしかけが幾度かなされたが、十分な効果はなかった。

少し飛躍し過ぎるかもしれないが、受注量を一定の雇用率(たとえば、法定の1.8%のうちのダブルカウント分、約0.48%に充当できる等)に換算できる仕組みができれば、有効活用が見込まれる。賛否両論あるだろうが議論の余地は大きいと思う。

その他、工賃倍増5か年計画の推進については、最終年度ということで5億円が計上された。経営コンサルタント派遣については、コンサルタントが入れば工賃が上がる方法を提案してもらえるという受け身の事業所が多いのが課題のようだ。

また、共同受注窓口組織の整備については、モデル事業が先行しているが、まず組織づくりにつまづき、受注の適正数量、品質管理等問題も多い。一つの試みだが、役所の仕事をアウトソーシングして特別な係を作り、役所内でグループ就労を実施することをぜひ提案してみたい。

制度改革に向けて

障害者制度改革の推進のための第二次意見の労働及び雇用の中では、具体的に「労働と福祉」を統合した仕組みづくりと、賃金補填や社会的事業所についての議論がされている。

深刻な失業問題がある中で、国民のコンセンサスを得て実施することは困難な道であるが、当然あってよいシステムだと思うので、特定の範囲内ででも実現されることを期待したい。

一方で、福祉的就労が真っ向から否定され、十分に議論されないことに疑問を感じている。この国における福祉的就労の歴史と果たしてきた役割は、そう簡単に否定されるべきものではない。現在も20万人を超える人たちが利用し、安心して働き暮らしている事実がある。

労働者性の観点から反省すべきところ、改善すべきところは多々あるが、必要があって生まれ、仕組みとして根付いたものなので、この機会にきちんと総括してほしいと願っている。

また、労働と福祉の統合が声高くアナウンスされているが、強制法規である労働法と、すべての国民の幸せを保障する福祉法の統合にはかなりの無理があることを感じている。権利条約批准への課題は山積している。

おわりに

障害のある人の就労支援に、「これが正しい支援、これがいい事業」などというものはない。一人ひとりが自分に合うものを選べるたくさんの選択肢があることが何よりも重要である。

本人たちが、選んで試みる繰り返しをしてもいいように、施策も作ってみて、やってみて、また作り変え、柔軟に進化する方がよい。

だれにとっても、選ぶものがないことが一番の不幸だと思うからである。

(おくにしとしえ ひまわりデイセンター「ふっくりあ」センター長)