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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2011年4月号

列島縦断ネットワーキング【長野】

個性豊かな人たちと共に働く
―農業に取り組む柿の木農場の仲間たち―

柿島滋

食いつき先生と頑張り少年―障害者雇用の経緯

柿の木農場の障害者雇用は、養護学校と当社オーナーから「押し付けられた」職場実習から始まりました。最初はオーナーの別会社(食品加工会社)に要請のあった職場実習でしたが、「きのこ栽培の方が障害者の仕事があるだろう」ということでこちらにおはちが回ってきたのです。

当時の私は、横浜からアイターン、長野に来てきのこ屋に就職して2年目、無我夢中でえのきだけづくりと格闘していた時期でした。養護学校の先生の「生徒の職場体験実習をお願いします」という強い申し入れに、「精神薄弱者(当時の障害者手帳の表記)に仕事なんかできるんですか?」と答えた私に「何でもいいから体験させてください」と執拗に食い下がる先生の要請。「それじゃあ、掃除でもさせておくか」と仕方なく引き受けた、障害者を知らない差別者の一人でした。

「僕、できます!」

断続的に進められた実習の3年目(3回目)、養護学校の先生から「何とか雇用していただけないでしょうか」との強い説得に屈した形で、私はM君に「君、この仕事できるかい?(機械操作の伴う掻き出し作業)」と問いかけました。すかさず元気に返ってきた答えが「僕、できます!」…これが当社の障害者雇用の始まりでした。

障害ってそれぞれの個性じゃないか―障害の種類と作業

あれから25年、現在、柿の木農場には22人の障がい者(知的障害17人、身体障害2人、精神障害3人)が仕込み、接種、菌掻き、芽出し棚入れ、ケース巻き、収穫、包装、検品箱詰め、掻き出し等々、さまざまな工程で自分たちの個性、特技を生かして働いています。

時には厳しく…それでもやさしい職場の仲間―働きやすい職場、工夫

職場には10人の「障害者職業生活相談員」が配置されて働く障がい者の支援にあたっています。それぞれの職場では、個々の障害特性に応じた配置がなされ、彼らは、それぞれの職場になくてはならない存在となっています。たとえば、日頃から細かいところに気づく「気遣い屋」のY君(知的障害)は、子細な観察チェックが伴う菌掻き作業を担当、連携作業が苦手なS君(自閉症・知的障害)は一人で掻き出し作業を黙々とこなしていきます。

職業生活相談員は、作業支援のほかに生活面でも相談や援助にあたっています。一人暮らしをしているK君(知的障害)は頑張っていますが、コンビ二弁当で済ませることが多く、夜はスーパーで値段の下がったケーキなどを買い込んでつい食べ過ぎてしまいます。昨年3月の定期検診で要注意の判定がありました。そんな彼に、職業生活相談員が食生活の指導や食後の昼休みストレッチなどを指導しました。1年続けた結果は、今年の定期検診で表れるだろうと楽しみです。

安定した生活の場の確保

安定した就労には、安定した生活が重要な要素の一つです。当社では、平成14年、会社敷地内に共同作業所「どんぐりファーム」の運営を開始しました。平成18年にはNPO法人を設立、翌年、念願のグループホーム「どんぐりの家」を開設、現在、第1、第2どんぐりの家で6人の仲間とともに4人の社員が生活し、安定した職業生活を送っています。

増加している精神障害・発達障害の求職者―現状と課題

当社では障害者職業センターやハローワークの依頼で毎年、障害者就職ガイダンスで「企業の見学と社員(当事者)の体験談」を実施していますが、最近の社会情勢ではなかなか就職につなげられない現状があります。この不況下での不安定な雇用形態や就職難、その一方で、過密就労が新たな「うつ」や「ひきこもり」などを生み出していると言われています。就職を希望する青年や障がいをもった人たちが、安心して職業生活を営めるような社会にしていかなければならないと思います。

どんぐりファームきのこ工場生産開始へ向かって―今後の展開

平成18年に、障害者自立支援法が施行されましたが、それにより当法人でも障害者就労継続支援A型事業所が運営できるようになりました。ちょうど、長野市内のえのきだけ生産者が事業撤退をするというのを耳にした私は、私たち障害者の手でえのきだけ栽培ができると考え、柿の木農場でその設備を買い上げました。事業運営が容易にできるように設備の改修を行うとともに、「どんぐりファーム」からの施設外就労というかたちで、支援者も含め、A型利用希望者の実習訓練を重ねてきました。栽培技術や販売面で当社の支援があれば事業所運営が可能という目途もついたので、昨年の8月より事業開始のための申請準備にとりかかりました。認可が下りれば、新卒者を含め、労働基準法に基づいた10人の雇用が生まれることになります。

えのきだけの需要は秋から冬にかけて大きく伸びるため、春から夏には生産調整をしなければなりません。この時期には畑に出て野菜作りに取り組もうと計画しています。野菜作りは作業所の運営を開始した時から休耕地をお借りして、徐々に作付けを増やし、今では30アールほどの畑にジャガイモ、ねぎ、サツマイモ、大根などさまざまな野菜作りに挑戦し販売してきました(8年余りの経験は立派な農業者といえるかな?)。

私たちは、昨年、1ヘクタールの荒廃農地を借り入れ、1年かけてみんなで再生させました。今は、今年の作付けをどうしようかとみんなで相談しています。

町の中に八百屋さんを開きませんか?

今まで私たちは、生産した農産物をさまざまなイベント、近隣の人たちへの直売、どんぐり福祉会の会員や遠方の方には宅配販売(東京、横浜の賛助会員に)などで皆さんのご協力により収益を上げてきましたが、今後、さらにお客様を増やしていかなければなりません。また、地元スーパーの地産地消コーナーでの販売、学校給食への食材の提供の検討など、交渉を進めているところですが、もう一歩進めて、消費地の障害者支援事業所の協力を得て販売活動やネットワーク販売ができないだろうか、と考えているところです。消費地の支援事業所の方々が、周辺地域で週1回の御用聞き販売はどうでしょうか。買い物弱者のお年寄りなどのお役に立てるのではないでしょうか。商品は私たちが引き受けます。

おいしい新鮮な野菜をお届けしますよー。

(かきしましげる 株式会社柿の木農場代表取締役社長)