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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2011年5月号

列島縦断ネットワーキング【大阪】

働く暮らしを支える
~生活支援ワーカー研修会の開催~

酒井京子

障害者就業・生活支援センターの役割

障害者就業・生活支援センター(以下、ナカポツセンターという)は働きたい、働き続けたいと望む障害のある人の就業面と生活面を一体的に支援することを目的として各保健福祉圏域に順次設置されており、平成22年度末では全国に282か所のセンターがあります。平成23年度末には322か所に増設予定で、障害のある人が暮らし、働くことを支える拠点として、それぞれの地域の中できっちりと役割を果たしていくべく位置づけられています。そのナカポツセンターにおいて、これまでもケアマネジメントの手法を用いることの必要性が求められながらも、就業と生活の一体的支援においてケアマネジメントという共通ツールをどう活用していくのかということについては、まだ十分な検討はなされていないのが現状です。

生活支援ワーカー研修会開催に至る経緯

特定非営利活動法人全国就業支援ネットワークでは、2008年に「障害者就業・生活支援センター事業の効果的運営のあり方に関する調査研究」において、就業にかかる生活領域の各種要因に関するアンケートを全国のナカポツセンターを対象に実施し、就労を継続する中で出会う数々の生活上の課題を集約しました。

また、その調査の中で、仕事に就くための準備段階で本人の生活面が安定していないと、その後の就職にはつながりにくいということも改めて明らかになり、生活支援が担う役割の重要性が再認識されました。

就業にかかる生活支援領域の範囲や、精神、知的、身体、発達など障害に応じた支援内容による違い、就職前と就職後での支援内容の違いなど、就業にかかる生活領域の数々の課題を熟知しておくことや適切な解決法や支援方法を活用していくことは、その後の雇用の拡大や就業継続につながります。生活支援にかかるネットワークが充実している地域とそうでない地域では、就職件数や定着率にも差が生じることも予測されます。

ナカポツセンターには、就労支援ワーカーと生活支援ワーカーが配置されています。就労支援の領域については厚生労働省で一本化されているのに対し、生活支援の領域は都道府県の事業であり、その実施は都道府県に委ねられているという現状があります。これまで就業・生活支援においては就労支援にスポットライトがあたり、就労へと導くためのスキルやノウハウ習得のための各種研修は充実している一方、就業を支える生活支援に絞った研修は、ニーズはありながらもほとんど行われてきませんでした。

今回、全国就業支援ネットワークでは、平成23年2月18日、19日の2日日間にわたり、初めて生活支援ワーカーを対象にした研修会を開催しました。定員100人のところ、定員を大きく上回る申し込みや問い合わせがあり、そのニーズの高さを改めて実感しました。実際、定員を超えて受講していただき、会場は満員で熱気にあふれていました。

研修会を開催して

研修内容は表1のとおりです。

表1 研修内容

第1日目 2月18日(金)
基礎講座1 「社会福祉と就労」 福祉という視点を持ちながら就労支援を考える
基礎講座2 「権利擁護」 職業生活における権利擁護という視点を持とう
基礎講座3 「ケアマネジメント」 職業生活支援におけるケアマネジメントの活用
第2日目 2月19日(土)
基礎講座4 「連携のあり方」 一人ひとりのニーズに即した連携とは
グループワーク1 事例を通しての検討(生活支援事例)
グループワーク2 事例を通しての検討(連携事例)
まとめ あらためて生活支援ワーカーに求められているもの

基礎講座1では、社会福祉が地域において果たすべき役割の確認と同時に、ナカポツセンターは地域全体に対して責任を持つ主体であり、決して施設に限定されるものではないことの確認がされました。

基礎講座2は、障害のある人の権利擁護の活動を実践している弁護士による講義で、事件の判例をもとにして、人権の視点を持つことの大切さや障害者権利条約や障害者虐待防止法をめぐる最近の動きについての話がありました。身近にいる支援者が気づくことで未然に防げる事件はたくさんあり、そのためにも発せられているSOSのサインを見逃さない感性を持つことが支援者には求められています。

基礎講座3では、基礎講座2に続き、「サービスを提供する側は権利を侵しかねない存在」であることを再度確認し、ナカポツセンターで生活支援が必要な意味をもう一度問い直したうえで、地域でどのような連携をしていく必要があるのかについて考えることの大切さについての話がありました。

また、生活支援ワーカーと相談支援専門員の役割について、地域の中でなんとなくあいまいな部分がありますが、この両者の共通点、相違点を整理したうえで相互連携の必要性の提示がありました。受講者は全国各地から集まり、1日目の夜の懇親会では、それぞれの参加者から地域ごとの情報発信があり、お互いに刺激を受けました。

2日目の基礎講座4では、本人の思いにとことん寄り添うことの大切さと、思いに寄り添った結果として必要となる連携の重要性、連携の意味について話をしていただきました。他人の人生や生き方に関わるという謙虚さについても触れられていたのが印象的でした。

グループワークでは、2つの事例をもとに8~9人のグループに分かれ、2回実施し、いずれの回も熱心な議論が行われました。グループワーク2では、各グループで話し合った結果を模造紙を使って発表してもらいました。話し合いの内容もさることながら、全国で同じ使命感を持って任務にあたり、日々奮闘している仲間と出会えたことの意義や、地域によって生活支援のあり方に大きな違いがあること、他の都道府県の情報を得ることができたことなどたくさんの学びがあったようです。

研修全体を通して受講生からは、以下のような感想が寄せられました。

・それまでの支援は手探り状態だったが、支援の指標を与えてもらえた

・自分が日々行っていることを振り返る、とても良い機会になった

・目にみえにくい生活支援のあり方を再確認できてよかった

・自分たちの進むべき方向が確認でき、今後もその方向に進んでいける力をもらえた感じがする。他県の方と情報交換ができたことがいろいろな考え方や支援の方法の発見につながり、すぐにやってみようと思え、参考になった。

・就職させることがメインになっている支援に悩んでいた時にこの研修に参加し、自分の中であいまいになってきた生活支援ワーカーの役割と支援全体の中での位置づけが分かったような気がする

今後の予定

今後、取り上げてほしいテーマを今回の受講生に聞いたところ、余暇支援、金銭管理や成年後見制度、触法の問題、自立支援協議会の中でのナカポツセンターの位置づけ、発達障害の人への支援、地域生活定着支援センターにおける支援、等々の項目が挙げられました。人間の生活の営みの複雑さを垣間見るような気がします。

今回、初めて実施したこの生活支援ワーカー研修会は、定期的な開催を望む声も多く、今後も継続して開催していく予定です。対象はナカポツセンターの生活支援ワーカーだけでなく、障害のある人の職業生活を支える人全般を対象とします。今年度については秋頃を予定していますので、研修に興味のある方は、当ネットワーク事務局までお問い合わせください。

(さかいきょうこ 特定非営利活動法人全国就業支援ネットワーク事務局)


○全国就業支援ネットワーク
TEL 06―6704―7201
FAX 06―6704―7274
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