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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2011年6月号

実践例
知的・発達障害のある子どもの住宅改造

西村顕

「大きな声をだす」「部屋中を走り回る」「同じ行動を繰り返す」。知的・発達障害のある子どもたちの中には、このような行動を示すことは決して稀(まれ)ではない。知的・発達障害のある子どもたちが自分の家や地域で安全で快適に暮らすためには、どのような住環境が求められるのだろうか。

ここでは、知的・発達障害のある子どもの行動特徴でもある「こだわり」について、住宅改造の一例とその改造が子どもの行動に及ぼした影響について紹介する。

【相談内容の例】

対象者:A君、7歳、特別支援学校2年生、自閉症、重度知的障害。

主なこだわり行動は以下のとおりである。

(1)部屋内の収納扉を何度も開ける行動を繰り返す。収納内部のものは全部取り出さないと気がすまないという行動がしばしばみられ、その行動のきっかけはよくわからない。母親は収納扉の取っ手部分をビニール紐で結びダイヤル式の南京錠を取り付けていた。

(2)スイッチやボタン類を何度も押すことを好む。各部屋のスイッチカバーは外され、内部が露出した状態である。母親はベビー用品のスイッチカバーをいくつか試したがほとんど効果はなかったという。

(3)レースのカーテンを強く引っ張ったり、自分がカーテンに巻かれて遊ぶことを好む。カーテンが破れることや、カーテンレールが破損したことが何度もある。

A君のこだわり行動は、家族の精神的な負担を増大させるだけではなく、強引に何度も開閉された扉が破損することなど、A君自身がけがを負ってしまうリスクもあった。スイッチ内部が露出した状態は感電などの危険もある。カーテンは破損した時の修繕費や新規購入費がかかり、経済的な負担も無視できない。

【改造結果】

まず収納については、鍵(キー)で管理する方法を考えた。キーで施開錠すると確実にその行動は予防できるが、開閉頻度の多い収納扉ではキーの管理は面倒であり、キーの紛失やかけ忘れが心配である。そこで、収納扉にキーを使わない錠を提案した。この錠は、上部にある小さなボタンを押しながら、ボタンの下にある掘込み取っ手を引かないと開閉できない仕組みになっている。通常は扉についている取っ手を引けば開くという単純な操作を、ボタンを押しながら取っ手を引くという複数の操作を同時に行わないと開けられないようにしたことがポイントである。このことにより家族は常時キーを持ち歩く必要はなく、気軽に収納を利用できるようになった。子どもにとっては取っ手の出っ張り部分がなくなっているので、今までどおり自由に開けることはできなくなった。

スイッチ類(照明スイッチ、インターホン、エアコンのリモコン等)は1か所に集約した上で壁の中に収納した。そして収納扉の錠は、キーを使わない前記の錠を設置した。

カーテンについては、家族の意見も踏まえ、マジックテープ式のカーテンを採用した。子どもがカーテンを強く引っ張るとマジックテープがとれ、カーテンレールからカーテンが外れる工夫である。

【効果・改造後の行動変化】

大きな環境の変化を好まない子どももいるため、A君が改造後にパニックになったりしないか心配していたが、いずれも改造後は特に大きな問題はみられなかった。収納錠については、当初はボタンを押したり叩いたりしていたようだが、開け方がわからないことがわかり、それ以上の行動はしなかった。カーテンについても、一度すべてカーテンレールからカーテンが外れるとその結果に満足したのか、それ以上の行動はしなかったという。家族からは「常に鍵の管理をしなくても良いので気楽」「子どもから目を離せる時間が増えた」などの意見があった。

【まとめ】

今回紹介した収納錠は、知的障害は無い、または、発達障害の軽い子どもたちには簡単に見破られてしまうだろう。知的・発達障害のある子どもの住宅改造は、高齢者や身体障害者に対する住宅改造の考え方と多少、整理の仕方は異なるものの、個々の能力(行動特徴等)や介助者の対応等を評価した上で実施するのは必須条件である。

子どもが持っている「こだわり」が子ども自身の危険につながる行動や社会生活上問題となる行動を引き起こすのではなく、たまたま今の住環境が子どもの行動に適合していないために、家族や近隣住人が不快と感じる行動を誘発していることもあるのではないだろうかと推察する。環境が変われば行動や生活は変わることを視野に入れ、まずは現在の住環境を見直すことが大切である。

(にしむらあきら 横浜市総合リハビリテーションセンター研究開発課)