音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

  

「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2011年6月号

リレー推進会議レポート11

第29回・第30回・第31回の報告

久松三二

はじめに

第29回では第二次意見の最終取りまとめの議論を行い、午後6時過ぎに再開された障がい者制度改革推進会議(以下、推進会議)の最後に岡崎担当大臣(当時)に小川議長から第二次意見が手渡された。第30回は2か月後に開催され、内閣府法制局が作成した障害者基本法改正案についての説明が行われ、活発な質疑応答を行った。第31回は2月28日の開催予定を3月7日、3月14日と3度延期しての開催となった。その間、3月11日の午前に開催した障がい者制度改革推進本部(以下、推進本部)にて障害者基本法改正案が承認された。推進本部が先に承認した後の推進会議となったため、第31回では、主に第30回に提出された改正案との相違点や法案の説明を受けて、条文の言い回しや字句の解釈についての質疑応答を行った。

なお、障害者基本法改正案は4月22日に閣議決定され衆議院に送られた。基本法改正案を実質的に審議できたのは第30回であり、抜本的改革を謳いながらも推進会議で取りまとめた意見の多くが反映されない不十分な内容であることは、多くの推進会議構成員の共通の認識であろう。

第29回(12月17日)の議論

第27回、第28回の議論を踏まえて、最終的な意見案が示され集中的な議論を行った。東室長より、資料の「・」は推進会議の問題認識、「○」は障害者基本法改正に当たって政府に求める事項に関する意見であり、この意見を変更する場合は、各省庁との意見が乖離し共通認識が得られないままになるとの発言があったが、修正できるかどうかは別室で協議し、修正案を提示することができる旨説明があったので、政府に求める事項の修正に関する活発な意見や提言が出された。

総則関連で、「前提として」という用語がいくつかあり、「障害者が、障害のない者と等しく、基本的人権の享有主体であることを前提として障害者基本法の目的を改正すること。」や「手話等の非音声言語が言語であることを前提として、」の「前提として」を「確認して」に修正すべきとの意見がいくつか出された。「確認して」は、より強く認識するという能動的な意味合いがあるので、国民の意識を高める効果が期待できよう。

障害のある子どもで「意見表明権」を含む人権を入れることの意見があった。国及び地方公共団体の責務の項目に、合理的配慮を提供できるための支援を入れることの強い意見が出され、この合理的配慮の提供に関する意見は、他の項目でも繰り返し出されている。国際的協調でも、障害者の尊厳の尊重や権利の確保の追加が必要であるとの意見が出された。

基本的施策関係の地域生活では、家族依存の体質を改め家族負担のないようにすべきである。応能負担ではなく低率負担に書き換えるべきである。自ら必要に応じて提供される支援であること。制度の谷間をなくす。多様な選択肢の確保が必要である等。

労働及び雇用では、働く機会の確保のほかに仕事の確保が必要であること。労働施策と福祉施策とが一体となった施策を講じるべき。職業上の困難さに着目した障害認定を行うための必要な措置を取ること等。

教育では、同じ場で共に学ぶことを原則とすること。就学先の決定に際し、本人や保護者の意思に反しないこと。合理的な配慮や必要な支援を追加すべき。インクルーシブな教育制度を構築すること等。

精神障害者では、本人の意思に基づかない隔離拘束をしないこと。精神障害者の社会的入院の解消、強制的措置をなくすこと等。

相談等では、施策ではなく制度として位置づけが必要であること。情報アクセスと言語コミュニケーション保障では、自ら必要とする言語を使用することの追加が必要であること。政治参加では、選挙権と被選挙権の機会均等を図ることを追加すべきであること。司法手続では、必要な配慮を行う場として、裁判所や警察などのほかに刑事施設の追加が必要である。推進体制の所掌事務では、地方での審議会では、施策の実行の監視のほかに検証と評価を含むべきである。審議会の委員構成として、障害をもつ当事者が過半数であるべき等の意見が多く出された。

午後4時20分過ぎに議論が終わり、午後6時過ぎに修正案の内容が明らかにされ、おおむね議論が反映された内容となっていることもあり、最後に岡崎担当大臣に第二次意見を手渡した。

第30回(2月14日)の議論

冒頭、JDFの政策委員会委員長でもある構成員から、平成21年3月に障害者権利条約を批准する動きがあったが、批准するに相応しい国内法ではない、差別の定義を明確にし、合理的配慮を明記した国内法の整備、障害者差別禁止法の制定があって批准すべきであるとの立場から反対した。本日提出する基本法改正案がそのレベルに相応しい内容になっているのか、政務三役が改正案を了承しているのか等の質問があり、園田政務官に発言を求めた。園田政務官は基本法の改正案は事務レベルで取りまとめており、政務三役として、できるだけ推進会議の意見を踏まえた内容になるよう努力したいとの回答があった。

内閣府企画官から改正案の総論についての説明があったが、多くの構成員から前文が必要ではないか。障害の定義が従来と変わらない。合理的配慮の欠如がない。差別の定義があいまいである。権利の具体的な規定がない。共生という言葉はあるが漠然としている等、批判的な意見が出された。企画官は、前文は国民の総意になるので国会審議が必要。差別禁止については差別禁止部会で審議しているので議論中であること。合理的配慮は盛り込んでいると回答をしたが、多くの構成員の納得が得られなかったようである。特に「可能な限り」の語句が多く、削除を求める意見が多かった。

各則においても、インクルーシブ教育の理念が入っていない。障害者の適正な職種という考え方は最近は合わないのではないか。精神障害者の強制入院や強制医療を禁止していない。情報保障、手話などの言語の記述がない。また、推進体制でも、障害当事者の委員を過半数にすべきとの意見が多く出された。

これに対し、企画官は、権利に関する新たな法定化は難しい。権利は施策に影響を与えるものであり、費用負担が生じるので権利規定は困難であるとの認識を示した。また手話などの言語は基本法で規定するものではなく、別途法定化を検討するのならありうる。障害をもつ委員を過半数にするのは、他の審議会では前例がないとの理由で盛り込むことは難しいとの回答であった。構成員と企画官との議論は平行線を辿(たど)り、改正案の修正を求める作業は相当な困難を感じるものであった。

第31回(4月18日)の議論

3月11日の午前、推進本部で障害者基本法改正案が了承されているので、改正案の修正はなく基本法改正案の解釈についての議論になった。最初にJDFの政策委員会委員長である構成員より、改正案は手話の言語性の確認、国際関係の条項、司法手続の配慮、勧告や応答義務を盛り込んだ推進体制の規定等、一定の評価ができる点があるものの、第二次意見を踏まえたものになっていないことを問題視しているとの発言があった。「可能な限り」という語句が総則や各則に多いことの説明として、総則では国等以外に個人や事業主も含まれるので可能な限りでよい、各則では可能でない概念があるので入れているとの説明があった。

くしくも基本法改正案が了承された3月11日に発生した東日本大震災を受けて東室長より、震災についても障害者権利条約にあるが、推進会議では、緊急時での情報保障がメインであったため議論が必要であると述べられた。これについて国が被害の実態調査を行い、その検証、制度としての確立についての国会審議を求める。復興構想会議に障害をもつ当事者の参加が必要である等の意見が出された。これについて園田政務官からも障害者基本法改正案には避難所、在宅へのサポート支援体制についての記述がないので対策が必要であるとの認識が示された。

終わりに

第29回から第31回までその間4か月。東日本大震災が発生し一時中断の様相もあったが、毎月2~3回の会議を開催してきた昨年と比して、今年はかなりのスローペースである。しかし舞台裏では各省庁との事務レベル、政務官レベルでの相当な折衝があり、障害関係団体の請願活動も活発に行ってきたと聞く。現時点では、まだ国会の審議に上がっていないようであるが、今後の国会審議において前文の追加をはじめ、障害者権利条約の批准に見合うような内容に修正できるのか、しっかりと見定めていく必要がある。

(ひさまつみつじ 全日本ろうあ連盟常任理事・事務局長)