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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2011年6月号

ワールドナウ

スウェーデンとイギリスのサービス支給決定と権利擁護に関する調査報告

北野誠一

昨年9月に行った海外調査研究(茨木尚子・竹端寛・土屋葉・筆者の4人)について、振り返る機会をいただき感謝したい。

まず、2つのインタビュー・グループを見ておこう。

1 スウェーデン・マルメ市

スウェーデンでは基本的に、一定の障害者に特有の10項目の支援ニーズを権利として提供するのが、障害者支援法であり、より普遍的な家事援助等の支援を提供するのが、社会サービス法であり、障害者支援法第9条2項の介助者給付が週20時間を超えた分について国が給付することを定めているのが、介助保障法だと言える。

時間の関係で、複数の地域での聞き取りができなかったので、今回をもって普遍化することは難しいが、前回の調査や、竹端さんの半年にわたる調査等を敷衍(ふえん)すれば、以下のことが言える。

1.社会サービス法査定員は、サービス支給決定にあたって、その予算が基本的に地方税によることもあり、国の指針ではなく、市の判断で行っている。市のガイドラインのようなものがある場合も、これまでの査定員間の受け渡しと内部研修、および近隣市町村の動向や行政裁判所の判例等に基づいて一定の判断がなされている。

2.障害者支援法査定員は、支給決定にあたって、同様にその予算が基本的に地方税によることもあり、国の指針ではなく、市の判断で行っている。これまでの査定員間の受け渡しと近隣市町村の動向や行政裁判所の判例等で、一定の判断がなされている。1との違いは、国レベルでの権利性が明確であり、市の予算動向よりも、他市の動向や裁判動向等が重きをなす。

3.国の社会保険事務所決定員は支給決定にあたって、国のガイドラインを基本に行っている。国のガイドラインは、1身体の衛生管理、2食事、3着替え、4他者とのコミュニケーション、5障害のある人に関する専門知識が求められるその他の援助、という5つの基本的ニーズを満たすために、パーソナルアシスタンスが週20時間以上必要な場合とは、いかなる場合なのかを一定に示している。ただ、2にせよ4にせよ、その解釈は微妙な点もあり、諸判例の理解も必要となる。また、夜間の支援も、アシスタンス保障と宿直(4時間でアシスタンス1時間換算)、待機態勢(7時間でアシスタンス1時間換算)の3つのカテゴリーを用いている。

これは3段階の審査を行う査定員・質の調査員・決定員も述べていたように、本人の介助の必要性は極めて個別的であり、さらにパーソナルアシスタンスは、その極めて個人的な支援を、特定の関係性を継続的に保持することに意味がある。それは、法が定める本人の権利であるとともに、年々利用者も利用時間も増大しているだけに、その法とガイドラインに基づく公正な執行が重要とのことであった。

2 イギリス・ロンドン市

イギリスでは、いくつかの地区のサービス支給決定担当者とサービス利用者(団体)とサービス提供者団体にヒアリングすることができた。

政府関連文書やIN CONTROLの報告書等に当たったとはいえ、選挙直後の連立政権による福祉予算大幅カットの情報が乱れるイギリスでのヒアリングは、これまでかの地で調査研究をしたことが無い筆者にとっては、極めて困難な部分があり、今回のこの紹介は、今後の調査研究のさわりでしかない。それでも、図で示した、クロイドン区のパーソナライゼーションに基づくソーシャルケアの支給決定の仕組みは、極めて興味深い。

図 クロイドン区における、パーソナライゼーションに基づくソーシャルケアの支給決定のフローチャート(クロイドン区のインタビューの際の資料等に基づいて作成)
図 クロイドン区における、パーソナライゼーションに基づくソーシャルケアの支給決定のフローチャート拡大図・テキスト

1.国が2002年に定めた、FACS(ケアサービスへの公正なアクセスガイドライン)を、各自治体が活用して、それぞれの該当要件ガイドラインを作っている。クロイドン区においても、ほぼ国のガイドラインを踏襲しているが、問題は、軽度・中等度・重度・危機的という4段階の重度・危機的のみを支援の要件に限定してしまっていることである。他の自治体を調べても、一部中等度を対象としている自治体が存在するのみである。予防的取り組みの重要性等が書かれている国のガイドラインは、そもそも何のために存在するのか、悩ましいところである。

2.パーソナライゼーションに基づく自己決定支援(SDS:Self-Directed Support)は、この支給決定のプロセス全体を意味する。

クロイドン区では、2010年4月より、図のような既存のケアマネジメントとの選択ではなく、SDSが基本となった。

3.SDSにおいても、その区の担当ケアマネジャーが訪問して、アセスメントを行うのは以前と同様であるが、そのアセスメント様式である「支援自己アセスメント質問票(SSAQ)」がなかなか奮っている。そこには、各アセスメント項目ごとに、本人記入欄とケアマネジャー記入欄が並列して存在する。両者が食い違っていれば、その場で話し合い調整するそうである。

4.それぞれの項目には、一定のポイントが与えられていて、その総ポイントが全体で調整されて、本人の概算個人予算となる。その仕組みは、IN CONTROL等によれば、資源配分システムとして、何回かのバージョンアップが図られているが極めて荒いもので、このメリットは自分の取り分がいくらであるかが分かるだけで、必要な社会的総量が見えない危険極まりない代物である(ただし、自治体のケアマネジャーには一定の裁量権があり、ある区ではそのケースの必要性に鑑みて、週200ポンドまで裁量することができる)。

5.この概算個人予算を基にして、本人支援計画が立てられる訳であるが、支援計画については、本人が現金で受け取る形のダイレクトペイメント方式、家族やブローカーに管理を一定委ねる第3者方式、あるいは担当ケアマネジャーと相談して立てる方式やその折衷方式等が可能である。支援計画は、たとえば知的障害者本人が参画できるように絵や写真等を使ったものも存在する。

6.立てられた支援計画は、その目的を逸脱していないか等がチェックされて、最終的に区から承認される。

7.6週間後に最初のレビューが、担当ケアマネジャーによってなされる。

3 調査を終えて

さて、イギリスのこのパーソナライゼーションを、私たちはどう評価すればいいのだろうか。

問屋(行政)や大手を飛ばして、直接本人と支援者が契約して中抜きするやり方は、確かに中間マージンが浮くし、本人と支援者の直接交渉は、さまざまな本人中心のバリエーションを生み出しそうにも見える。

しかし、私は集団主義的支援が持っていた危険と裏返しの危険を、このパーソナライゼーションという個人主義支援がはらんでいるように感じる。この社会は、マイノリティーたちがマジョリティーとの関係性の転換を図った社会関係モデルの典型であるエンパワメント支援をすら、個人の内的能力開発という教育・訓練モデルへ矮小化してしまうのだ。その危険性が、パーソナライゼーションにはさらに色濃く存在する。

集団主義的支援が、集団の関係の形成という建前の元で、その統制・管理を強めたように、個人主義支援が、本人の自己決定・自己選択(選んだあなたの責任)という美名のもとに、閉ざされた選択肢の中での選択を本人に強制し、本人の普通の市民的社会参加・参画(意味のある関係を生きる)を支援し損なえば、それは致命的である。「意味のある関係」を創造し、展開し続ける開放系の「本人と支援者の相互エンパワメント関係」をビルトインした活動をこそ、世界レベルで構築したいものである。

(きたのせいいち NPO法人おおさか地域生活支援ネットワーク理事長)