音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2011年7月号

被災状況・被災者支援
東日本大震災と障害当事者団体

阿部一彦

当事者団体等のこれまでの取り組み

約35年周期で大きな地震が発生している宮城県内では防災への関心が高く、当事者団体もさまざまな取り組みを行ってきた。たとえば、大学ボランティアセンターの呼びかけで、障害種別団体ごとに支援の必要性や災害時の対応について検討する機会をもち、各当事者が執筆して災害時要援護者マニュアルを発行し、シンポジウム等を通して障害別のニーズを地域に発信してきた。仙台市障害者福祉協会でも数年前から総合防災訓練に参加し、災害時ボランティアの養成・登録、関係者への防災意識の啓発に取り組んできた。ただし、これまでに起きた地震の規模を念頭に置いた地震発生直後の避難方法やそのための日頃の準備等に関する検討であり、今回の規模の大地震・大津波を想定したものではなかった。

東日本大震災に伴う活動

東日本大震災発生後、協会では、加入団体の会員や協会が行っているサービス利用者の安否確認活動に取り組んだ。ただし、個人情報保護ということで連絡先の記載のない加入団体の場合には会員の安否確認は行えなかった。

協会が運営する3障害者福祉センターでは福祉避難所を開設した。福祉避難所は二次避難所として位置づけられ、その利用は一般避難所を巡回する保健師等の判断によって行われた。当初は地元他法人の協力によって運営されたが、各法人の事業再開準備等に伴い、福岡市身体障害者福祉協会、日本身体障害者団体連合会、きょうされん、介護福祉士養成施設協会による大学生等の支援を受けた。災害時相互支援協定を締結している山形県身体障害者福祉協会は災害時緊急車輌の指定を受け、日用品、食料品等の輸送に取り組むとともに、体温コントロールが困難な障害者を同協会の保養施設に受け入れた。非常時における他の団体の支援は心強い。つながりと支え合いがありがたい。

JDFみやぎ支援センターの報告

3月23日に日本障害フォーラム(以下、JDF)と地元の障害者団体との意見交換会が開催され、緩やかなネットワークとして被災障害者を支援するみやぎの会が発足した。そして、3月30日にJDFみやぎ支援センターが仙台市内に開設され、約1週間単位で交替するボランティアの引き継ぎによって、毎日40人前後の人々が沿岸部被災地等に出向いて活動している。

同センターの報告によると、一般避難所ではあまり障害者に出会うことがない。障害者はさまざまな理由から避難所に居づらさを感じ、自主退去して被災している自宅に戻ったり、親戚宅等を転々としたりせざるを得ない。食料品・日用品等の支給、必要情報の周知は避難所で行われるため、退去した障害者はさまざまな不便を持つ。センターでは個別的な依頼があれば、浸水した住居のヘドロ等の撤去・清掃作業、生活用品、福祉用具等の調達・配送等にも取り組んでいる。しかし、個人情報保護条例の壁は障害者との出会いを困難にし、適切な支援を妨げている。

自治体等の対応によっては個人情報保護の壁を乗り越えている事例もある。A市では保健師とともに障害者宅を訪問したり、B町では障害当事者団体の名簿をもとに安否確認活動を行ったり、C町では多忙な社協職員に代わって通所事業に取り組んでいる。

被災障害者を支援するみやぎの会

みやぎの会では、JDFみやぎ支援センターや難民を助ける会等との情報交換会を重ねている。当初、地元障害者団体は窮状や前途の不安を訴えることが多かったが、回を重ねるにしたがって他団体の被災状況や取り組み等の現状を知ることができ、団体同士の連携、情報交換等の重要性を認識した。さらにネットワークの力を生かして今後の復旧、復興に向けて自治体、国への要望を行うこと、そして自治体の復興計画、障害者計画の策定時にはニーズをよく知る当事者だからこそ主体的に参画すべきこと等が議論された。

みやぎの会では、地元団体が発信したい情報や収集した数多くの情報の中から障害当事者にとって必要と思われる情報を抽出、加工して発信する活動を行っている。また、地元団体が把握したニーズについて、JDFを通して国や地方自治体へ要望する活動等に取り組んでいる。

今後の課題

今なお困難な被災生活を強いられている障害者の個別的な生活ニーズに応える支援とともに、沿岸部に事務局を置く大きく被災した障害者団体への支援が求められる。また、これまでの防災に関する当事者団体の取り組みや支援のあり方、そして制度等を点検、総括して、今後の災害に備える取り組みも大切である。なかでも、個人情報の活用に関しては当事者の立場から検討する必要がある。あらかじめ同意しておくことによって、災害時の活用に供する可能性についても検討したい。

今回の困難な体験によって、失いかけているとされてきた絆、つながり、支え合いの素晴らしさが確認できた。現在は、これまでの経済至上主義の競争型社会から心の豊かさに価値をおく、支え合いの成熟型社会への転換期であるといわれる。

大きな災害にもかかわらず、暴動や略奪もなく粛々と支え合う日本人の絆と日本の社会に海外の評価が高い。障害者を含め被災者の声をもとに、大震災発生前よりもはるかに暮らしやすい地域社会の構築が求められる。生活は人と環境との相互作用である。復興への道のりには課題も多いが、社会を構成する一人ひとりを大切にするインクルーシブな共生社会の実現に結びつけたい。その時、障害当事者団体の連携によってこそ果たせる役割が大きい。

(あべかずひこ 仙台市障害者福祉協会会長、東北福祉大学教授)