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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2011年8月号

スポーツを楽しもう!

小山良隆

はじめに…

大事な試合を明日に控えたスポーツ選手は、アナウンサーの質問に対し「楽しみながら自分のプレーができるようにがんばります!」とにこやかに答えました。

スポーツニュースなどで見かけるひとコマですが、よくよく考えてみると“不思議な感じ”がしないでもありません。

「楽しみながら…がんばれるのか?」

「プレッシャーのある極限状態で、歯を食いしばりながらプレーすることが楽しいのか?」とふと思ってしまいます。

ある人は“笑いながらニコニコペースで…”、ある人は“プレッシャー”を楽しみながらスポーツをする。すなわち、人それぞれにスポーツへの思い入れや関わり方があるのだと思います。

しかし、その思い入れや関わり方の多くは、スポーツを“競技という狭い概念”として捉えられている場合にしばしば遭遇します。

ここでは、「スポーツを楽しむ!」とはどういうことなのかを少し考えてみたいと思います。

スポーツというもの…

スポーツの語源は、「楽しみ」「気晴らし」という説があります。

しかしながら、遊びにルールが加わり、公平な条件のもとで「競い合うこと」が中心に発展してきた近代スポーツでは、「スポーツ=身体活動」というイメージが定着してしまったきらいがあります。

「最近ちょっと体重が気になってきたので…」ダイエットを目的に、ランニングを始めました!

「仕事が一段落したので…」仲間作りを兼ねて、最近流行りの山登りに挑戦します!

「競技者として学生の時から全国大会の出場を目標にがんばってきたので…」社会人チームで日本一を目指します!

このように、「する(DO)スポーツ」を始める、あるいはスポーツを続けていくにあたっては「動機と目的」があり、それは百人いれば百通りのストーリーがあるはずです。

「私はスポーツが苦手です」という人の中には、ひょっとしたら「からだを動かすことが苦手です」という意味が、「スポーツと縁遠くなってしまった」という人の中には、ひょっとしたら「からだを動かすことをしなくなった」という意味が含まれているのかもしれないと想像します。

しかし、スポーツは“すること”だけでなく、身近に存在し「気づき」と「工夫」で楽しめるものであるはずなのです。

スポーツ指導の場面で…

私は、横浜市にある障害者スポーツ文化センター横浜ラポールで、主に障害のある人たちへのスポーツ・レクリエーション活動の支援を行っています。

自分がスポーツで得た経験をもとに、より多くの人たちにスポーツの素晴らしさを体感していただけるように、「支える」ことが私の役割になります。

病院でのリハビリテーションが終了し、これから「何を」「どうやって」健康の維持・増進を図ろうかという方から、パラリンピックに出場しメダルを獲得している選手まで幅広い方々と接する機会があります。

日本では、チャンピオンシップスポーツの発展を“担ってきた”企業スポーツの多くが、会社の業績悪化や景気の動向により、スポーツから撤退しました。

このような動向は、障害のある競技選手も同様で、海外の大会などでランキングを上げるなどの競い合いは必須ですが、スポンサード企業の減少による遠征費用の確保が大きな課題となっているとよく聞きます。

資金やトレーニング環境が、スポーツ活動の機会を奪ってしまうケースもあります。

しかしながら、このような環境でスポーツと関わっている人たちがすべてではないことは事実で、多くの人たちがスポーツと「気軽に」「継続的」に関わるためには、どのような方法があるでしょうか。

スポーツの関わり方(楽しみ方)のいろいろ…

ラジオでスポーツの実況中継を聞いたり、講演会や発表などを楽しむのであれば、「聴くスポーツ」と言えます。

競技会場に実際に足を運んでスポーツ観戦をしたり、スポーツバーでビールを片手にひいきのチームを応援することを楽しめば「見るスポーツ」となります。

選手の心情をつづり臨場感あふれるナレーションを楽しめば「語るスポーツ」であり、対戦成績や個人の記録などを多角的に分析しながら楽しめば「調べるスポーツ」、コーチングやからだの仕組みを知ることは「学ぶスポーツ」、生業としてスポーツに関わる人や複合的に関わる人もいるかもしれません。

このように、スポーツの概念を細かく見ていくと、「する(DO)スポーツ」というのは一般的であり、代表例ということは言えるのかもしれませんが、からだを動かし汗をかくこと以外にもスポーツを分類することができるのです。

スポーツがもたらすもの…

時にスポーツは、見方によっては政治力を“はるかに上回る”といっても過言ではありません。

多くの方が犠牲となった東日本大震災。

ジャンルを超えたスポーツ選手たちの支援の輪がありました。

シャツにメッセージを込めてグラウンドを走り回る、海外で活躍する選手、レース後のウイニングランで日の丸を掲げる選手の姿、日本中を熱狂させたサッカー女子日本代表の選手たちは、「世界の友人たち、支援をありがとう」というメッセージを掲げ、試合後に場内を回り、感謝の意を世界に伝えました。それらのことは、スポーツの域を超えて、多くの人に感動を与え共感を得ました。

それは、健康の維持・増進、からだを動かす爽快感などといったスポーツ本来の身体的・精神的効果や、チームワークや他者を思いやるなどの協調性を身に付けるなどの社会的効果に加え、コミュニケーションツールとしてスポーツが大きな役割を果たしたことの証明と言えそうです。

まとめ

競技者として、オリンピックやパラリンピックのような大きな国際大会で活躍する選手においても、競技生活を終えれば、そのほとんどは、“スポーツの原点(アソビ)”に立ち返る、または「アソビゴコロ」を持ち続けてスポーツと関わっていくことになります。

継続してきたことや興味を持ったスポーツを、“自分に合った”“自分のスタイルで”“自分なりの楽しみ方”により、スポーツを生活の中に取り込んでいくことを提案します。

Let’s enjoy doing sports!

(こやまよしたか 障害者スポーツ文化センター横浜ラポールスポーツ指導員)