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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2011年8月号

スキューバーダイビングを楽しもう

山田眞佐喜

日本バリアフリーダイビング協会は、沖縄のエメラルドグリーンの海を舞台に、障害者と健常者がマリンスポーツを通して触れ合い、心のバリアを取り除き、自然の中でスポーツをすることの「楽しさ」「喜び」「感動」を伝え合い、リハビリテーションおよびノーマライゼーションに広く深く貢献すべきことを目的として活動しています。

ダイビングにはバディシステムというルールがあり、常に2人が組になって、互いに助け合いながら行動する安全管理の一つであり、また海中での楽しさを分かち合う仲間です。バディとは「もう一人の自分の目であり、手であり、足である」。障害の有無にかかわらず、バディとコミュニケーションをとることで、仲間としての交流ができ、情報の交換など、社会的見地が広くなることでノーマライゼーション効果があると考えます。

ほかにもあるダイビング効果を紹介します。

○自然環境

竜宮城のような海の世界は自然が作ったもので、人間のために作られた世界ではありません。海の中では人間はただ一種の生物として、覗(のぞ)かせてもらっているにすぎません。水中生物の魚やサンゴ礁の生態を知ることで、私たちにとって自然を守ることがいかに大切かを知ります。

○無重力

浮きも、沈みもしない無重力の世界を知っているのは宇宙飛行士とダイバーだけです。陸上では味わえない感動は、ダイビングを経験していない方々の羨望となるはずです。

○向上心

素晴らしい世界を見聞したことで、多くの人たちに紹介しようと考えます。そのために知識を深めていく行動を繰り返すようになり、先駆者としてリーダーシップをとることになるのです。

○発想とひらめき

人間は、毎日の衣食住の生活を繰り返していますが、真新しい世界(透き通ったエメラルドの海、鮮やかな魚たちの営み、海面から降りそそぐ太陽光線etc)を知ることで、開放感からひらめきや新たな創造の世界が開けることになり、閉ざされた世界から未来を開く自由な発想を得ることができます。

○平等

陸上で生活する私たちからすると、海の中ではだれもが大きなBarrier(障害)を持ちます。重力から解放される海の世界で自由に泳ぎまわるということは、練習または多く経験することによって備わる能力で、障害の有無にかかわらず、だれもが関わるBarrier(障害)なのです。

○リフレッシュ

日常生活から離れ、海原を眺め、潮の香り、波の音、海水に包まれ、海を身体で感じることで元気を回復し、生き生きとよみがえります。

このようにたくさんの魅力があり、年間で約200人の高齢者、障害者の方がダイビングを楽しんでいます。

では、障害によってどのような配慮(対応)をしているのか、主な障害を上げて説明します。以降、ダイビングに参加した方を「ゲスト」と呼びます。

〈視覚障害〉

ゲストの状態はさまざまですので、事前にどのような状態なのかを確認します。視力障害(全盲、弱視)、視野障害(狭窄、暗点)、そして点字の認識ができるかどうかなど、ゲストの情報を得ることで、ご本人に合わせた準備をすることができます。見え方がそれぞれ違うということは、サポートする方法もそれぞれ違うということです。

たとえば、水中で楽しむために、全盲の方には点字プレートを携帯し、「ナマコ」と読んでもらい、実物に触ってもらう。点字の認識が不可能な方には、あらかじめ手のひらにひらがなかカタカナを指でなぞって読む練習を陸上で行い、それを水中で実践します。水中では会話ができないので、水中でのコミュニケーションは手で相手にサインを出します。視覚障害の方には接触サインを行います。たとえば「ストップ」は肩を2回たたく、「耳抜きは大丈夫?」はバディの耳を触り、大丈夫だったらバディから「OKサイン」をもらう。

また、ダイブトークという、水中でマイクを使うことで会話ができる便利な器材があります。ダイビングが初めての方は、たいへん緊張しているので接触サインだと、水中に入ると同時に忘れてしまう方もいるので、会話で確認できると少し不安が取り除かれます。

視野狭窄の方には、どの部分が見えるのか確認し、水中生物が見えやすいように「虫眼鏡や水中ライト」を準備し、よりわかりやすくしています。

◆ゲストの一言(網膜色素変性症のため視力が低下し、3年前から盲導犬と暮らすSさん)「盲導犬の優しさと、障害があってもさまざまなことに挑戦できることを知ってほしい」

〈身体障害〉

最初に原因を確認します。大きく分けて肢体不自由か脳性マヒか、手足の機能が正常ではないのか。その中で脊髄損傷などは、褥瘡の予防でエアーマットの準備、マヒの部分は感覚がないので、移動中などに引っ掛けたり引きずったりすることで、骨折や擦り傷などの注意、水中では体温が早く奪われるので、体温調節や排泄などの気配りが必要です。

脳性マヒの方は、言語障害やどの分類の型なのかを確認し、ゲストに合わせた対応をします。

たとえば、バリアの多い船なども、できるだけフラットで使いやすく、車いすでも安心して乗船できるように、接岸場所を考えたり、船でのトイレやシャワーが使えるようにしています。ダイビングでは、水中でタンクの空気を吸うために、マウスピースをくわえますが、しっかりくわえることができない方には、顔全体をマクスで覆い、マウスピースをくわえなくてすむタイプで、フルフェイスマスクなどの器材を準備しています。

◆ゲストの一言(四肢機能障害でダイビングを始めて10年目のHさん)「ダイビングを始めて変わったと思うことは、行動範囲が広がりました。一番変わったと思うことは、自分から友達とかに話しかけることが苦手だったけど、数多くの人たちと出会い、まだまだとは思うけど、かなり自分から話しかけられるようになり、物事に対して積極的になったことです」

〈高齢者〉

最近では高齢者の方のダイビングが増えています。老化とともにさまざまな機能の低下が見られますが、無重力の世界は末永く続けられるスポーツの一つです。陸上では杖を使って歩行している方が、水中では華麗なフィンキックで泳いでいます。

現在はレジャー色が強いためか、海で準備体操をしている人はあまりみかけません。しかし、準備運動はシニアダイバーにとっては大切です。高齢者では、身体が硬く柔軟性がなくなり筋肉が萎縮し、関節の動く範囲が狭くなっているからです。また、医師の診断書の提示、薬の常用の有無などを確認します。

◆ゲストの紹介(2010年に北海道から沖縄に移住したNさん)「以前よりスキューバーダイビングをしたく、移住をきっかけに84歳でダイビングの講習を受け、めでたく合格!今では、毎月1回~2回ダイビングを楽しんでいます。いつも無理をせず体調を整えて参加してます」

以上、さまざまな障害をもっていても、残存機能を生かし健常者も含め障害種別もなく、一緒に水中を楽しめる同じ仲間であり、水中では障害をハンディと感じさせない世界があります。さらにダイビングの経験を重ねていくと、自分に合った楽しみ方を見つけることができます。たとえば、水中カメラです。デジタルカメラの普及で撮影後、すぐに写真を見ることができ、ダイビング終了後、写真を見ながら魚の名前を調べたり、ベストショットをハガキやパネルにして飾ったりと用途はいろいろです。

ランクアップすることでダイビングの知識や技術を向上し、より安全に水中での活動範囲が広がります。沈船や洞窟、ナイトダイビングなど、ダイビングポイントは数多くあります。

また、沖縄では5年前よりサンゴの植付けを行っており、たくさんの方に参加していただき、約5000株を植えました。皆さん、毎年サンゴの成長を楽しみに見に来ます。

このように、ダイビングには魅力的な楽しみがたくさんあります。

これからも、スキューバーダイビングとともにご家族でも気軽に参加しやすいシュノーケリングコースのご紹介もしながら、より多くの方々にマリンスポーツを楽しんでいただけるよう取り組んでまいりますので、どうぞよろしくお願い致します。

(やまだまさき NPO法人日本バリアフリーダイビング協会会長)