音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

  

「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2011年8月号

列島縦断ネットワーキング【東京】

シンポジウム
「東日本大震災と障害者の情報保障」

岩井和彦

1 シンポジウム開催の経緯

障害者放送協議会は、ここ数年、障害者の情報保障、さらには災害時における情報保障をテーマにシンポジウムや勉強会を開催してきました。特に、昨年3月12日に、災害時情報保障委員会が中心となって「障害者と災害」のテーマで開催し、阪神・淡路大震災や中越沖地震の生々しい経験と教訓が報告されたシンポジウムの熱気はまだ記憶に新しいところです。

今回の東日本大震災では、当然のごとく、多くの障害者も被災し、死者・行方不明者は健常者の2倍とも言われる地獄絵図が現実のものとなりました。

3月末、放送・通信バリアフリー委員会・著作権委員会・災害時情報保障委員会の3専門委員会委員長が緊急会談を開き、情勢分析とともに、被災障害者支援のあり方を検討した結果、障害者関係団体の懸命な支援活動にもかかわらず、安否確認すら十分には進まない状況であり、シンポジウムの開催を確認しました。

5月9日、3専門委員会が合同で、被災地への支援として今できること、当面必要な対応、復興に向けての提言を行うことを目的としたシンポジウムを7月2日に開催することが決定されました。

2 シンポジウムの概要

2011年7月2日(土)午後に開催された標記シンポジウムは、前半の5組の緊急レポートと後半のディスカッションの構成となりました。

当日の東京会場(弘済会館・東京都千代田区)には150人、衛星放送でつながった大阪会場(特定非営利活動法人CS障害者放送統一機構・大阪市北区)には40人が集まり、両会場とも大いなる熱気に包まれました。

(1)緊急レポート

今回のシンポジウムでは、被災地の障害者の声を取材してまとめた「被災地からのビデオレポート」がまず上映され、以下の5組の緊急レポートが続きました。

●浅利義弘さん(全日本ろうあ連盟理事)は、東日本大震災聴覚障害者救援本部を緊急に立ち上げ、被災者の安否情報の確認、また情報保障などの取り組みを続けていることを紹介しました。

●大嶋雄三さん(CS障害者放送統一機構専務理事)は、2007年から政府が進めている全国瞬時警報システム(通称:J―ALERT)には障害者への配慮がないことを指摘しました。

●加藤俊和さん(日本盲人福祉委員会東日本大震災視覚障害者支援対策本部事務局長)は、視覚障害者への支援が遅れていることについて、行政当局との連携で安否確認やサービスの紹介情報を発信していることを報告しました。

●池松麻穂さん(社会福祉法人浦河べてるの家/精神保健福祉士)と吉田めぐみさん(べてるの家)は、3月11日に浦河で何があったかについて、指導員と当事者の立場から紹介しながら、普段から避難の訓練をして慣れておくことが必要であること、有効なマニュアルはDAISYであることを報告しました。

●放送事業者の取り組みとして、NHK編成局計画管理部専任部長の森本清文さんは、NHKの東日本大震災報道の全体状況に触れ、震災関連の報道時間は、総合テレビで1か月で571時間となり、阪神・淡路大震災のほぼ2倍となったと報告しました。

●行政における取り組みとして、総務省情報流通行政局情報通信利用促進課長の安間敏雄さんは、昨年6月29日に出された、障がい者制度改革推進会議での基本的な方向の閣議決定の中で、災害に関する緊急情報の提供について、放送事業者に積極的な取り組みを依頼したと報告しました。

(2)ディスカッション

コーディネーターは、藤井克徳さん(日本障害フォーラム幹事会議長、JDF東日本大震災総合支援本部事務総長)でした。

事前の打ち合わせでは、テーマは「障害者の情報保障のために今、何をすべきか」とすること、前半では政策面での課題を鮮明にすること、後半では復旧と復興で何を要望するかを明らかにすることを確認しました。

はじめに、藤井さんから「普段から、障害があってもなくても情報はとても大事です。テレビにしてもインターネットにしてもラジオにしても。これに災害が重なった時、障害がなくても、情報は偏ったり、薄くなったり、なくなったりする。それに障害が重なった時は、極端に厳しい状況に陥る。つまり、情報と災害と障害を三段重ねにした時、障害のある人間はどうなるだろうか?」と、ディスカッションのポイントが示されました。

筆者(日本盲人社会福祉施設協議会情報サービス部会運営委員、災害時情報保障委員会)からは、前段の報告からも、視覚障害者は情報取得に極めて厳しい状況にあったことが明らかになりましたが、通信と放送のアクセシビリティの保障は命に関わることであり、その徹底を行政・企業は意識すべきであること、障害者の利活用のための指導体制の構築は平時から行われるべきであること、これらは、障害者基本法第22条や障害者権利条約からも権利として位置づけられなければならないことを提言しました。

高岡正さん(全日本難聴者・中途失聴者団体連合会理事長、放送・通信バリアフリー委員会副委員長)からは、今回の災害と阪神・淡路大震災の違いはITの進展で、ITを使ったコミュニケーション支援が日常的に利用できるか、支援を受けられる環境があるかどうかが重要な意味を持つのに比して、各地の団体や行政で検討されているITの利活用は、聴覚障害者のニーズに基づいて進められていない現実があることが指摘されました。高岡さんの意見から、施策を作るプロセスに、当事者が入っているか否かということは、施策の出来栄えに徹底的に違いが出るもので、「私たちのことは私たち抜きに決めないで」との政策の原点が確認されました。

河村宏さん(支援技術開発機構副理事長、著作権委員会委員長)は、人が作った法律、たとえば、著作権が、意外と参加の保障の壁になっていることを問題提起しながら、復興に向けての取り組みの中で、新しいまちづくりのための復興のプロセスにみんなが参加するための支援、そのための著作権を含めた制度の整備が、今すぐ検討すべき課題の一つであると提言しました。

寺島彰さん(日本障害者リハビリテーション協会参与、放送・通信バリアフリー委員会委員長)は、放送・通信バリアフリー委員会は、果たして今回の震災に何らかの貢献をしてきたのかという立場から、今回の大震災後の状況を見ると、やはり全然変わっていない、今までやってきたことは、あまり役に立たなかったのかもしれないという残念な思いがあるとの見解を示しました。

最後に、各パネリストに、復旧・復興にあたって、情報保障、障害という観点から何を求めるかの短いコメントが求められましたが、フロアからの発言とともに、紙幅の関係で省略せざるを得ないのは非常に残念です。

3 おわりに

今回のシンポジウムは、障害者放送協議会の3専門委員会が力を合わせたものであり、だからこそ障害種別を超えた視点でのシンポジウムの開催を可能にしたと考えます。個人的には、精神障害者の立場からの報告を新鮮な気持ちで聞くことができました。これを期に、当協議会に加盟している知的障害者、学習障害者その他の障害者の要求が、もっともっと表面に出ることを期待したいと思います。

今回のシンポジウムでは、「障害者の情報保障のために今、何をすべきか」「復興に障害者権利条約の視点を求めること」が提起されたことで、議論の中身が深まったのではないでしょうか。今回の議論をベースに、今度こそ、災害時に障害者が二重三重の苦しみに沈むことがないように、力を尽くしましょう。

(いわいかずひこ 日本ライトハウス常務理事)