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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2011年10月号

立教大学における障害のある学生の就職に向けた取り組み

立教大学 キャリアセンター・しょうがい学生支援室

1 はじめに~根底にある考え方~

(1)立教大学について―「自由の精神」、「キリスト教に基づく全人教育」

立教大学は、1874年アメリカ聖公会の宣教師チャニング・ムーア・ウィリアムズ主教が東京築地で英学と聖書を教えた私塾「立教学校」を起源としている。

立教大学の教育方針は、単なる知識の修得や、事実を解明することにとどまらず、解明された事実の意味を探究する姿勢を育み、そしてそれを人間や社会のために生かすことのできる人材を育てることにある。また、人間をある一定の型に当てはめるのではなく、それぞれの人が生まれながらに与えられた資質を育み、それが伸び伸びと開花できるよう、できるかぎりの援助を惜しまない。このようなキリスト教に基づく教育「全人教育」―人を愛することや人の痛みを分かち合える豊かな感受性を育み、知性、感性、身体のバランスのとれた人物を育てる―を展開している。広い視野と将来への展望を培い、総合的な判断力を養成する、いわゆる“リベラルアーツ”の大学である。

(2)学生支援について―「Student Personnel Services(SPS)」

キャリアセンターは、もとは学生部に所属し、長い歴史の中で単独の部局となった。この経緯からも分かる通り、学生支援部署の一つである。本学の学生支援は、「Student Personnel Services(SPS)」の考え方を大切にしている。SPSは、さまざまな修学支援、環境整備等を通じて、学生の自己実現や潜在能力を最大限に発揮させようとする活動である。助け育てるのではなく「学生自らが育つ」のを援助する活動である。この考え方は、戦後間もなくアメリカから民主主義の考え方として入ってきたものであり、「学生助育」や「学生厚生補導」などと訳されている。

2 就職支援について~27年間、一貫した学生支援の姿勢~

(1)就職支援のはじまり

キャリアセンターは、学生支援部署の一つとして、学生の立場に立った活動を今もなお大切にし続けており、今後も変わらない考え方である。以前の障害(なお、本学では障害を「しょうがい」と表記している)のある学生への就職支援は、厚生補導業務の一環として、「学生がその個性と能力に応じた職業につくことができるようにすること(職業指導)」と「不利な条件のもとにある学生を援助すること(特別指導)」(※1)に沿って活動していた。障害のある学生への就職支援は、1984年度からその実績が記録されている。

この時代の障害者の雇用環境は、1960年に民間企業の身体障害者の雇用の努力目標を規定した「身体障害者雇用促進法」から、1976年の法改正で「割当雇用制度」と「義務雇用制度」「身体障害者雇用納付金制度」が導入され、1987年に「障害者の雇用の促進等に関する法律」となり、対象が拡大され、職業リハビリテーションが法に初めて位置づけられるなど、法による制度拡充時期にあった。当時は、このような法による制度拡充を背景に、学生や企業へ積極的に働きかけをした(図1)。

図1 キャリアセンターの取り組みイメージ1980年代
図1 キャリアセンターの取り組みイメージ1980年代拡大図・テキスト

たとえば、学生に対しては、保健室の協力を得て、障害のある学生をまず把握した。担当者が対象学生一人ひとりにアプローチし、それぞれの障害の状況を丁寧に把握し、制度の説明を行うことで就職への動機づけを行った。一方、企業に対しては、直接出向いて求人情報の収集を行ったり、具体的な障害内容を含めた個別交渉をするなど、関係の構築を図った。

このように、学生と企業の情報やニーズを収集しながら、双方をマッチングさせ、橋渡しを行っていたのである。このような地道な活動の結果、学生は、テレビ局、総合商社、メーカー、出版、銀行、運輸、公務員などの道へ進んでいった。

(2)現在の取り組み

障害者の雇用は、その後も法制度の拡充が進み、現在では、事業主等に障害者雇用率(民間企業1.8%、公共団体2.1%)の達成義務を課すに至っている。不足の場合は、納付金制度を適用した罰金を課しているのである(※3)。このような障害者雇用を取り巻く環境を背景に、現在のキャリアセンターでは、企業からの訪問を受けたり、継続的に求人情報の提供を受けている。1980年代には考えられない、とても恵まれた状況にある。また、キャリアセンターの障害のある学生に対する取り組みは、基本的に、一般学生と同じく、就職ガイダンスや企業研究セミナー等の就職支援プログラムや個人相談の参加を促している(図2)。

図2 キャリアセンターの取り組みイメージ2011年
図2 キャリアセンターの取り組みイメージ2011年拡大図・テキスト

一例を挙げてみると、ある新聞社から、「障害者雇用を積極的に行っており、該当する学生がいれば紹介してほしい」との依頼を受けていた。一方、キャリアセンターでは障害のある学生に個別アプローチし、個人相談を中心に継続フォローをしていた。徐々に関係が構築されてきた頃、本人から「記者職」志望の話が出てきて、学生と企業双方に働きかけをした。学生は、OB・OG訪問をしながら具体的な仕事のイメージを自分なりに形成しつつ、難関とされる筆記試験を通過し、面接試験に数回臨み、最終的に内々定に至ったのである。

個人情報の取り扱いが厳しくなっている現在、学生から大学へのアプローチがない限りは、障害のある学生とつながることは困難な状況にある。現に、ここ数年、キャリアセンターとつながりを持てた学生は、年に数人程度しかない。また、ある大手情報誌会社担当者によると、最終学年の1月頃になって、本学の障害のある学生4人のメンバー登録を受け付けたとのことである。このようなタイミングでは、就職先を見つけることは極めて困難であると指摘された。

このように、現在のキャリアセンターは、企業からの旺盛な求人アプローチがある一方で、就職を希望し、支援が必要であろう学生へのアプローチがなかなかできないというジレンマを抱えている。課題はこのジレンマをどのように解消するかということにある。

また、年々環境が好転している障害者新卒雇用について、関係者が認識を深め、その情報が学生に届くような仕組みづくりも今後の課題である。

3 今後の展望

本学は、1980年代に視覚障害や聴覚障害のある学生が複数在籍する年度が続き、1994年に全学的な組織として「立教大学身体しょうがいしゃ(学生・教職員)支援ネットワーク」(以下、ネットワーク)を発足させた。現在、このネットワークは、各学部・研究科から担当教員1名ずつと、キャリアセンターを含む障害のある学生・教職員の支援に関わる12の事務部局の職員からメンバーが構成されている。近年、さらに支援のニーズが高まり、2011年4月、「しょうがい学生支援室」が発足し、ネットワークの事務局を担っている。

しょうがい学生支援室は、障害学生一人ひとりの修学・学生生活支援のコーディネートを担当し、ネットワークの各教職員と連携を深めて支援活動を行うことが期待されている。これまで、障害のある学生の就職支援はキャリアセンターのみで担ってきたが、今後、障害学生支援のノウハウをもつしょうがい学生支援室と連携を深めることで、先述のジレンマを解消し、次のようなプラスの効果も期待できる。

一つは、障害のある学生に対して、入学~2年次といった早期から個別アプローチができる点である。学生は、就職に関する情報を早い段階からキャッチし、就職活動が始まる時期に向けて情報の整理やインターンシップへの参加など、キャリアプラン形成を図ることができる。もう一つは、4年間の大学生活を通じ、障害のある学生自身が社会に適応していくための力を身につけられる機会を提供できる点である。社会生活では、大学以上に主体的に取り組む姿勢が求められる。学生を社会へつなぐ橋渡しは大学の大切な役目と言える。社会に出た学生が働く中で必要な支援を自ら求めていく力が身につくよう、大学生活の中において教職員が障害のある学生に意識的に関われるよう心がけている(図3)。

図3 今後の取り組みイメージ(目標)
図3 今後の取り組みイメージ(目標)拡大図・テキスト

しょうがい学生支援室は、発足したばかりのため、具体的な支援方法についてはこれから議論を重ねる段階である。本学の特長は、それぞれの部署に所属する職員がその職務の専門性を高め、教員と共に横の連携を密にしながら学生支援を行っていく姿勢が根づいている点である。この特長を活かしつつ、本学が、長年大切にしてきたSPSの精神を堅持し、障害のある学生が潜在能力を最大限に発揮し、自己実現が図れるよう支援を続けていきたい。


【参考文献等】

※1 財団法人日本私立大学連盟学生部会「現代学生部論―変革期における模索と提言」(1988年)
学徒厚生審議会「大学における学生の厚生補導に関する組織および運営の改善について(答申)〈昭和33年5月29日〉」四、厚生補導業務の目標および領域について

※2 杉原努「戦後我が国における障害者雇用対策の変遷と特徴その1 障害者雇用施策の内容と雇用理念の考察」社会福祉学部論集第4号(2008年3月)

※3 厚生労働省/独立行政法人高齢・障害者雇用支援機構 「障害者の雇用支援のために(事業主と障害者のための雇用ガイド)」(平成21年度)