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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2011年10月号

ワールドナウ

ASEAN地域の自閉症の親たちのネットワーク(AAN)誕生

氏田照子・磯部陽子

2010年12月13日~17日にアセアン各国の自閉症の家族たちが集まり、3日間にわたる自閉症ネットワーク立ち上げのためのワークショップならびにタイ自閉症協会主催のコングレスがバンコクにて開催されました。

自閉症児の家族たちの声からアセアンの協働へ

ネットワークづくりは、2010年1月にAPCDセンター(アジア太平洋障害者センター)主催のアセアン障害者セミナーに参加したブルネイ、タイ、フィリピン、ベトナム、ミャンマーの5か国の自閉症の家族たちによるセミナー終了後の非公式な話し合いが発端となりました。

セミナーが終了した会場の片隅で、5か国の自閉症児の父親や母親たちは、「政府の協力が得られない」「自閉症の専門家が一人もいない」「自閉症の概念が一致していない」「知的障害と自閉症との違いが理解されていない」など自国の自閉症事情を語りあっていましたが、やがて「親にも使いやすい発達支援マニュアルがあったらいい」など国を超えた共通項も見えはじめ、「自分が苦労してきた分、経済・社会的により大変な状況にあるアセアンの自閉症児を持つ親たちに対してできることはないだろうか?」という、ネットワークのコアとなるコンセプトが生まれました。国境を越えて、5か国の親の思いがつながった瞬間です。

その夜、家族たちはAPCDに「アセアンの自閉症の親のためのネットワークを正式に立ち上げたい」という希望を申し出ることになります。ネットワーク連携はAPCDの主要な活動のひとつですが、この日の親たちの希望に寄り添う形で、彼らのイニシアチブの下、APCDが約1年をかけてこの提案をファシリテートし、昨年12月のワークショップの実現へとつながっていきました。

自閉症の人たちが暮らしやすい社会づくりをめざして

ワークショップ会場であるAPCDセンターには、シンガポールを除くアセアン9か国から自閉症児を持つ父親、母親の代表が各国から2~3人ずつ招へいされ、総勢27人の3日間にわたるワークショップがスタートしました。

APCDでは、事前にワークショップ参加者から集めていた彼らの自閉症の子どもや家族の写真を壁一面に貼って用意をし、参加者を迎えました。朝早くから夕方まで続くワークショップでは家族たちの熱心な議論が続き、まさにアセアンの自閉症ネットワークの創設という大きな目的に向けて何かを大きく動かそうとしているのが伝わってきました。

アセアン自閉症ネットワーク(AAN)の創設へ

3日間にわたるワークショップの初日は、自己紹介から始まり、参加国の自閉症支援についての情報交換が行われました。午後には、バンコク市内の自閉症児に特別支援教育を行う小学校と自閉症者の作業所を見学。夜はタイ自閉症協会主催の歓迎夕食会です。タイ料理を食べながら9つの国が郷土色豊かな歌と踊りを披露するカラオケ大会が始まり、昼間の緊張を吹き飛ばすかのような親睦と交流の一夜となりました。2日目からはいよいよネットワークづくりに向けての検討が開始され、規約づくり、アクションプランの検討など白熱した議論が続きました。

自閉症支援が進んでいる国も遅れている国も、互いに支えあって進んでいこうというアセアン・スピリットのもと3日間のワークショップが成功裡のうちに無事終了し、ここにAAN=Asean Autism Network(アセアン自閉症ネットワーク)が誕生しました。初代の代表にはタイ自閉症協会のチューサック氏が選任され、APCDは事務局としてネットワークの活動を支えていくことが決定しました。AANの略称はネットワークの名称のみならず、Act for Autism Now!の呼称としても親しまれています。

アセアン諸国が世界自閉症啓発デーに共通イベントを開催!

そして2011年4月2日、AANのメンバーたちは、各国からの投票によりみんなで決めたAANのロゴマークが入ったお揃いのポロシャツを着て、AAN設立後初のアクションである世界自閉症啓発デーのウォークラリーをアセアン諸国の協働により各国で一斉に実施し、チューサック代表から各国メンバーへ送られた1.各国におけるAAN活動の本格始動、2.AANに関する情報を各地で共有する、3.自閉症者とその家族の権利を啓蒙する、4.各国でファンドレイジングの可能性を模索する、などの共通テーマを胸に、ラリーが行われました。

チューサック会長とAAN事務局のあるタイのバンコクでも、青空の下、電車公園と呼ばれる市内の公園で朝8時からラリーが始まりました。青色のお揃いのシャツを着た自閉症の家族たち、友人、応援にかけつけた知的障害グループ、そしてAPCD職員やAPCDプロジェクトの日本人専門家も続々と集まり、みんなで自閉症に対する理解を促しました。

最近の活動

AAN事務局はウェブページを立ち上げ、各国のウォークラリーの様子などを伝えてきましたが、今後、各メンバー団体の紹介、世界の自閉症関連団体一覧など、コンテンツを拡充していく予定です。また、タイ自閉症協会がラオス自閉症協会を訪問する、またラオス自閉症協会がタイ自閉症協会を訪問し実際の作業所の活動を学ぶなど、各国メンバー同士の交流も始まっています。アクションプランのひとつに自閉症児・者のユニークな特性を表したポスター作成がありましたが、タイ自閉症協会が寄付をすることになりました。今後、各国に配布される予定です。

途上国で仕事をしていると、自閉症の専門家がいない、診断技術がない、日本から特別支援教育の知見がほしいなど、技術的なニーズを聞くことが多いのですが、ワークショップに参加した家族たちは、自ら自閉症児のわが子を育てる上での手だてや道しるべを積極的に求め、かつ実践してきたのです。自分で試してうまくいったこと、うまくいかなかったこと、苦労したことを、これからもAANを通じ、お互いに情報を共有し合い、励ましあい、自ら力をつけ、自閉症の人たちがともに生きる社会づくりを目指し支えあっていくことと思います。彼らのイニシアチブを大切にしながらも、日本からも継続してネットワークの皆さんとの連携を深めていきたいと考えています。

AAN第2回会議は、来年にブルネイでその開催が予定されており、すでに準備が始められています。

(うじたてるこ 一般社団法人日本発達障害ネットワーク副理事長、いそべようこ アジア太平洋障害者センタープロジェクトフェーズ2JICA専門家)


*世界自閉症啓発デー=WAAD:World Autism Awareness Day

2007年12月18日に国連が定めた啓発デー。毎年4月2日がこれにあたる。日本ではWAAD実行委員会が4月2日のWAADからの1週間を「発達障害啓発週間」と定め、全国各地で自閉症をはじめとする発達障害のご本人および家族、関係者によるさまざまな理解啓発のためのイベントが行われている。