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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2011年10月号

列島縦断ネットワーキング【熊本】

障害のある人もない人も共に生きる熊本づくり条例について

熊本県健康福祉部子ども・障がい福祉局障がい者支援課

1 はじめに

本県では、これまでも行政や関係団体等により、障がい者への理解を深めるためのさまざまな活動が行われてきましたが、本県で実施した相談機関に対する調査などにより、障がい者が生活するさまざまな場面で、依然として、差別を受けたり、障がいへの配慮がないため暮らしにくさを感じているといった現状があることが明らかとなりました。

国際連合で「障害者権利条約」が採択され、障がい者の権利擁護を進める国内外の動きもある中で、県としても、障がい者に対する差別をなくす取り組みを県民全体で進めていく必要があるという基本的な考えに立って、条例制定の取り組みを進め、平成23年7月1日、「障害のある人もない人も共に生きる熊本づくり条例」(以下「条例」)が、熊本県議会6月定例会において、全会一致で可決、成立しました。

2 条例制定までの経過

(1)内部検討

県では、平成20年8月と平成21年8月の2回にわたり、県や国、市町村、事業所等の97か所(平成21年調査では77か所)の相談窓口に対し、障がいを理由にした差別事案の相談に関する調査を実施するなど、障がい者への差別をなくす取り組みについて調査研究を行ってきました。

(2)検討委員会

内部検討を経て、条例制定に向けた専門的な検討を行うため、障がい者団体代表者、法律・教育・福祉分野の学識経験者、企業経営者等を委員とする「障がい者への差別をなくす条例検討委員会」を設置し、平成22年3月に第1回の検討委員会を開催しました。検討委員会では5回にわたりご審議をいただき、同年11月に条例素案をご了承いただきました。

(3)意見交換・タウンミーティング

検討委員会での検討と並行して、平成22年6月に障がい者・家族団体等(33団体)との意見交換、同年7月にはタウンミーティング(3か所)、同年8月から11月にかけて、教育、福祉、商工等の関係団体(20団体)との意見交換を行い、条例制定に関して各方面からのご意見を伺いました。

(4)条例素案に関する意見交換会等

検討委員会で了承された条例素案には合理的配慮など新しい概念が含まれているため、県民に条例の趣旨が十分理解されるよう、平成22年12月から平成23年2月にかけて、県民、事業者、市町村に対する説明・意見交換会(11か所/30回)を開催しました。

(5)パブリック・コメントの実施等

説明会等でいただいたご意見等を踏まえ条例案を整理し、平成23年4月7日から30日間、条例案に対する意見募集を行い、33の個人・団体から、53件の意見をいただきました。これらの意見も踏まえて条例案を最終的に整理し、熊本県議会6月定例会に条例案を提案しました。

(6)県議会における審議

県議会の厚生常任委員会において、条例案の提案前の平成22年10月から5回にわたってご審議いただきました。

3 条例の特徴

(1)不利益取扱いの禁止

条例では、障がい者の自立した地域生活と社会参加を促進するため、障がい者が日常生活などにおいて権利を制限されることがないように、福祉サービスや医療、雇用、教育等の8分野にわたって、障がい者に対して行ってはならない「不利益取扱い」を具体的に列挙し、「ものさし」を明示しています(第8条)。

(2)社会的障壁の除去のための合理的な配慮

「不利益取扱い」をなくしていくだけでは、障がい者の自立した地域生活と社会参加を十分に促進することはできません。障がい者が日常生活などで暮らしにくさを感じる原因として、建築物や交通機関の段差や、会議における点字資料や手話の欠如といった社会的障壁があります。そのため条例では、県民に対して、負担が過重とならない範囲で、社会的障壁を取り除くための「合理的な配慮」を求めています(第9条)。

(3)相談体制・個別事案解決の仕組み

条例では、こうした「不利益取扱い」の禁止や「合理的な配慮」を求める規定について、話し合いによる当事者間の自主的な解決を図ることとしています。

具体的には、「不利益取扱い」、「合理的な配慮」または虐待に関する相談を受け、助言や情報提供を行ったり、関係者間の調整を行うための相談員の設置に関する規定を設けています(第11条~第15条)。また、「不利益取扱い」に該当する事案を解決するための助言やあっせんなどを行うため、有識者で構成する「熊本県障害者の相談に関する調整委員会」を設置することなどについて定めています。併せて、あっせんを受諾しない場合の知事の勧告、および勧告に従わない場合の事実の公表についても定めています(第16条~第20条、第22条)。

(4)県民の理解の促進 

一方で、障がい者が受けている不利益取扱いや社会的障壁が、障がい者に対する誤解や偏見、無理解によって生じている面があることから、障がいのある人もない人も共に交流できる機会の提供や拠点の整備など、障がい者に対する県民の理解を促進させる取り組みについて、規定を設けています(第21条)。

4 条例の施行に向けて

条例だけでは、障がい者が置かれている現状を一気に改善することはできないかもしれませんが、県民が互いに支え合い、安心して暮らすことができる共生社会へと進んでいく拠り所として、条例は大きな役割を果たすものと考えています。

今後、平成24年4月1日の全面施行に向け、条例の周知や相談体制・個別事案解決のための体制整備などを行い、共生社会の実現に向け、一歩ずつ、取り組みを進めて参ります。

「障害のある人もない人も共に生きる熊本づくり条例」の概要拡大図・テキスト