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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2011年11月号

評価と期待

総合福祉法―総合福祉部会での討議を通して―

君塚葵

1 はじめに

肢体不自由児施設が70年に及ぶ療育の歴史を持ち、療育の理念のもとに次々と考え方やシステムを変更し、ニーズに応じた多機能を展開しているその内容についてはあまり知られていない。医療型施設として、入所は有期間を基本とし、母子入園・手術訓練入園・救命医療入園・母子入園などを展開し、短期入所・外来・通園などを併設し、肢体不自由の特別支援学校・通園施設・保育園・保健所などへの技術支援や巡回相談(離島巡り・山間地への訪問)、多数の実習生の受け入れ・見学視察・ボランテイアの受け入れなど、地域との連携の核となっている。

ちなみに、私の施設で平成22年度の1年間に入園あるいは退園された方は650人ほどであり、短期利用者数は約450人、これを98床の規模で行っている。

2 総合福祉部会の問題点

総合福祉部会が推進会議の下部の位置づけで、あまりにも障害当事者の考えが共通概念としてできあがった上で行われ、そして、厚労省のデータに基づいた責任ある現実的な行政の展開が少ないと考える。確かに、厚労省においては、常に財源が念頭にあり、公平さ・均衡に縛られすぎ、長年の間に生じた変化に対応しきれてはいないが、いわゆるシンクタンクであり、その提案を含めていないような危うさを抱えているといえる。

メンバーが多いため、会場も不適切で大きすぎ天井も高く、他チームからの騒音があり、集中して話し合いができないような所であった。少なくとも当事者メンバーがその障害をすべて代表しているのではないこともある点は銘記しておかなければならない。歴史の積み重ねの結果としての現状を支えている分野へのことを知らずに、理念倒れの机上の空論といえる考えが、声の大きな意見がまかり通りやすいと感じたことがしばしばである。また、現状の把握ができていない分野では、ご意見拝聴に終わらざるを得ないこともしばしばあった。

障害者基本法に時間をとられ、東日本大震災の影響もあり、給付法である総合福祉法の具体的な意見交換が不十分であった。合同作業チームに私が毎回提出したたくさんの資料は顧みられず、強く異議を申し立てて初めて2~3時間のみ1回、検討されたことがあったというのが実感である。これは入所を無くすという前提がすでになされていたためと思われる。このようなことが、いくつもの作業チームにおいてもあったものと考えられる。

財政負担のことは棚上げとするとあらかじめ決められており、考えを一つにするのは困難だと思うが、皆の要望を実現した場合の費用がどのくらいとなるのか、現場の市町村に対応する力を付けていく余裕があるのかは悲観的である。厳しい財政状況の中での費用の裏付け、世論の理解への配慮、行政・与党への批判で部会当初に挨拶に来ていた副大臣・政務官らの欠席、高齢少子多死社会での人口の減少などの基本的な側面を考えると、高負担高福祉にならなければ絵に描いた餅に終わる懸念があるといえる。

3 重症心身障害児に関する具体的な内容について

今の障害児の重度化をみると、今後ますます重度重複化が進み、家族の中にはそれに耐えられなくなってくる例が増えると思われる。

東京多摩地区の在宅の重症心身障害児で、濃厚な医療を日々要するいわゆる超重症児の研究調査では、平均年齢17歳の150人の家族の平均睡眠時間は5時間ほどでご家族の疲労は極度に達し、ショートステイなどの充実を要望されている。そして、9割近くの方が、自宅でケアしていきたいと報告している。愛情を持って、生後より大変な覚悟をもって家族ぐるみで取り組んでいて、子どもの状況を十分に知っているので里親とかグループホームに預ける気はない、と考える人たちが大勢いることはあまり知られていない。

地域移行が大きく取り上げられているが、専門性を求めて自分の子どもが少しでも発達するようにとご家族は少しでも遠くまで出かけている。

地域に福祉の受け入れがあっても専門性が無ければ見捨てられるのは明白である。障害児の発達を促すのに、愛情があれば済むと思っているのは誤りである。障害の一元化と専門性の保障の両立が言われ、専門職の育成が謳われているが、現場での個々の場面を通しての現任教育が核とならないと身に付かないものであり、その現任教育をどのようにどこでやるかについては、今まで取り組んできている部署を顧みることなく、頭の中で進めているとの危惧を抱かざるを得ない。

社会的な入所の解消は必要であるが、現状はそれどころではないし、社会的入所先を探すのに児相が難渋している。この中には重度で濃厚な医療を常時要する方も多く、里親・グループホームでは生命の危険を生じると言わざるを得ない。児者一本化や支える医療はどの分野の障害にも不可欠であるが、重症心身障害児でも、有期間とすべきであり、成長が終わってからの発達には児の時とは明らかに違いがある。発達よりも二次障害の予防に主眼が移るべきであると考える。現在、東京都内にある1200床ほどの重症心身障害児施設のベッドは満床であり、都外にもベッドを設けているが、年間入退園者数が毎年10人以下で大変狭き門で、親亡き後を考えてとりあえず、入所手続きを取っておこうとされる方が多い。

4 終わりに

問題点を指摘したが、障害者本人の声が反映され、谷間にいると言われた方々の多くが対象となり、障害の一元化という目標ができた。なるべく家庭でという考えの基に、権利条約の批准に向けて、国内法の整備が一歩進んだといえる。

(きみづかまもり 心身障害児総合医療療育センター長)