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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2011年11月号

評価と期待

障害女性の立場から
―総合福祉法骨格提言に寄せて

臼井久実子

「障害や病気があり、女性であるために受けたと感じた、あなたの経験、困ったこと、暮らしづらいと感じることをお書きください」

今夏、DPI女性障害者ネットワークは、この質問で始まる、障害女性の生きにくさに関するアンケートに協力を呼びかけた。それぞれ異なる生活史・環境・障害や病気の状況・ニーズをもつ障害女性70人の回答から、複合差別の様相が浮かび上がってきている。

障害女性は、障害を理由とする差別に加えて、女性を無収入または低賃金にとどめ置き、女性が家事や家族ケアをするのは当たり前と生き方を固定してきた、性差別の影響を受けている。“女性なのに何もできない”と冷遇を受けてきた人もいる。寄せられた声や大災害の経験を通して、障害女性が社会で女性ゆえに被(こうむ)っていることの大きさが見えてきた。

「谷間や空白の解消」「格差の是正」など骨格提言が掲げた6項目の目標は、障害女性の政策的課題から見ても必須の内容である。

「本人のニーズにあった支援サービス」の項目では「障害の種類や程度、年齢、性別等によって、個々のニーズや支援の水準は一様ではありません。個々の障害とニーズが尊重されるような新たな支援サービスの決定システムを開発していきます。また、支援サービスを決定するときに、本人の希望や意思が表明でき、それが尊重される仕組みにします。」と述べている。

障害女性もそれぞれ異なっているが、性別にかかわらず個人として生き方を選び取ることができ、何かができないことを理由におとしめられたりしない社会を望んでいる。そのようなだれもが生きやすい社会にしていくには、障害者差別と性差別などの複合差別の視点から障害女性に焦点を当てた法制度が不可欠であり、総合福祉法制定作業にも明確に位置づける必要がある。以下に、アンケートや制度調査から、骨格提言に肉付けを望むことを記載する。

■収入・労働の格差是正と子育て等の支援

地域調査や最新の年金統計において、障害女性の収入は障害男性の収入をも大きく下回っている。複数の人から、妊娠に伴い正職員からパートなどへの身分変更や働き方の変更を一方的に求められた、障害があって子育てしながら働くのは大変と決めつけられた、という回答が返ってきている。

■性的被害防止と安全・安心を確保した支援

アンケートで多くの女性が、地域生活や病院・施設で、入浴や排泄に異性介助を受けたり、性的被害もしくは類似した行為に悩まされた経験を述べている。同居家族から性暴力を受け、日々怯えながら生活してきた人もいる。女性の身辺介助や相談対応は同性による支援を徹底する態勢が必要である。

性暴力もセクハラも、社会的経済的な力関係の不平等と密室的な環境が背景にあり、それだけに、障害のある被害者が安心して相談窓口にアクセスし、緊急避難や支援を求められるようにすることが大きな課題である。国も自治体も相談窓口は音声電話が主だが、たとえば聴覚障害者自身が相談するには、手話や文字による通訳・電子メールなどをニーズに応じて利用できるようにすることが必要だ。

■教育・性と生殖と健康に関する権利の確立

性暴力事件の裁判を担当した弁護士の調査によれば、性教育は小学校と特別支援学校で極めて乏しい。性と生殖と健康に関する知識と権利の理解は、だれにとっても子どものときから必要だが、障害女性は情報からも遠ざけられ、不妊手術の7割は女性に行われてきた。妊娠した障害女性の多くが「産むんですか?」と問われた経験をしており、娘が生まれたときは周囲から「女の子でよかったね。将来世話してもらえる。面倒見てもらうために産んだんでしょ」といった言葉をかけられている。

回答者の一人は「障害のある親が子どもを育てていくとき、親の介助とは別に子どもに対する介助が保障されることが必要」と提案している。背後に、世帯単位でケアをまかなうこと・女性家族によるケアを基本としている日本の社会制度があり、性別や障害の有無の違いを越えて不合理なことで、根本的な見直しと転換が求められている。

■性別集計の全面実施、一般施設利用の想定

旧障害者基本法に「性別」という言葉さえなかったことは、障害者政策が障害女性を固有のニーズをもつ人と見ていなかった証左である。「障害者白書」の統計資料にも性別クロス集計がない。骨格提言は2章の「財政のあり方」で「積算の根拠となるデータの把握」を掲げているが、性別集計を必ず入れることを求めたい。第三次男女共同参画基本計画は、複合差別と障害女性について重ねて述べ、喫緊の課題に男女別統計の充実を挙げている。国・自治体をはじめあらゆる分野で障害者に関わる調査集計に性別を含めることが、政策の基礎データを得るためにも不可欠である。

全都道府県のDV防止基本計画を今年調べた結果、障害がない女性ならDVシェルターに保護するところを、障害女性に対しては社会福祉施設に送るよう想定していることが明らかになった。社会福祉施設にはDVシェルターのようなセキュリティーはなく、二次的被害の危険に晒(さら)してしまう。第一に必要なのは、一般施設において障害者の利用を正面から想定し、設備と情報の両面からバリアをなくすことであり、個々人の安心と安全を確保した相談や支援を提供する姿勢である。

総合福祉法は、ぜひ、骨格提言でまとめられたことを土台に、障害・性別などの属性も、ニーズも、それぞれ異なる多様な人が等しい権利をもって共に生きていける社会環境をつくる法律にしていきたい。

(うすいくみこ DPI女性障害者ネットワーク)