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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2011年11月号

評価と期待

総合福祉法骨格提言の評価と期待
―自治体の立場から

川根紀夫

1 はじめに

これまで、社会福祉基礎構造改革を代表とする制度変更等は、国(厚生労働省)主導のもと進められてきた。しかし今回の骨格提言は、これまでとは違い、国による「基礎構造改革」から障害者による「基礎構造改革」への大転換といった性格を有している。当事者を出発点とし、障害者政策の思想形成を基本としたことに加え、大きくは次の3点からこの大転換を歓迎する立場である。

1.障害のない市民との公平、公正を基本とする障害者政策への転換。2.障害の概念の普遍化(未成熟な社会が障害を生み出すとの考え方)。3.障害者支援の最終責任を国とする点。

このような点から「まちづくり、財源、相談支援」の3点に絞り評価と期待をまとめてみたい。

2 まちづくりに繋(つな)がる貴重な視点

まちづくりは、市民が経験するさまざまな困難に対するセーフティーネットを基盤に据え、さまざまな形での社会参加を視点に進められることが求められる。骨格提言では、国の義務として、障害のある市民が「どの地域に居住しても等しく安心して生活することができる権利を保障する」としている。当然のことながらこのくだりは、障害のない市民との公平、公正を観点としたものであるが、障害のある市民の暮らしやすさは、社会の成熟度に関係することから、多くの市民の暮らしやすさに直結する。さらに、障害による暮らしにくさの原因が社会的障壁にあるとする考え方は、「暮らしと社会」の関係を理解することとなり、社会のあり方に大きな影響を与える。

特に強調しておきたいことは、暮らしと社会の関係を市民が理解することである。このことは、暮らしにくさ等生活課題を個人責任とする考え方から社会問題としての理解へと高め、共生社会への道のりを確かなものにすると、大いに評価・期待しているところである。

しかし、まだ細部にわたり検討が必要な点がある。医療や教育場面等福祉領域以外の分野で行うべき障害のある市民への配慮に対する社会的取り組みである。手話通訳の派遣を一例にすると現在、障害福祉分野から医療、労働、教育などさまざまな分野に手話通訳士(者)が派遣されている。このことは、各機関や団体、個人が行うべき手話通訳の確保を福祉分野で取りまとめて対応する方が合理的だからであろう。本来行うべき団体や機関、個人に代わって福祉分野が行う方が必要な領域もあるし、逆に行ってはいけないこともある。行政が関係団体や機関、個人などができうる配慮を取り上げてしまうことがないように、制度運営上考慮することも必要なことである。

3 財源の確保に係る視点

財源についての整理は、この提言を実行する上で欠かせない課題である。

佐倉市は、人口176,169人、身体障害児者4,113人、知的障害児者725人、自立支援医療(精神通院医療)1,865人、精神障害者保健福祉手帳所持者715人(いずれも平成23年3月末現在値)の市である。平成17年度支援費制度時の障害福祉課の決算額は、1,220,715,030円で一般会計の3.3%。22年度の決算額は1,819,437,031円で一般会計の4.4%で、17年度から22年度の伸び率は149%と一般会計に占める割合とともに大きな伸びを示している。提言にあるように現行の予算の倍額が必要だとしている点に加え、障害(者)の範囲が拡大されること等を考慮すると一般会計の1割を占めることになるだろう。特に税収減が大きくなっている状況なども踏まえると、財源問題は大きな課題である。財源確保がこの提言の成否のポイントであることは言うまでもない。

財源問題に関連して、市町村独自の施策展開がなかなか進まなかった地域生活支援事業について、市町村独自支援として再編し、多くの事業を国の義務的経費事業に移行させることは市町村の財源問題としては大きな意味があると評価している。一方、義務的経費(個別給付)とされている自立支援給付の市町村負担25%は、現在の市町村財政の仕組みを前提とするとかなりの負担となり、課題は大きいと言わざるを得ない。市町村の財源確保等実効性のある取り組みを期待している。

4 相談支援体制の視点

相談支援業務は障害のある市民の生活支援の最前線であり、生活実態を知りうる最も重要な機関である。提言では、国の義務として、市町村が実施する支援施策の実態把握、監視による障害者総合福祉法の推進を図るとしている。このことは国が障害者の置かれている現状を正確に把握することが前提である。障害のある市民の不利益や不平等の解消は、市町村単位の施策の展開だけでは困難である。相談・支援活動を通じて明らかにされる社会的障壁の解消策は市町村単位ではなく、国の政策課題として取り組むことが必要である。このような観点から、都道府県の役割として位置付けた総合相談支援センターに強い期待を寄せている。

5 最後に

国、都道府県、市町村の協同を前提としながらも、国の責任事業としての性格を明確にすることで、どこで暮らしても障害のない市民との公平・公正が保障され、地域格差が解消されると考えている。

私も提言をさらに深め、障害のある市民が、どの地域に居住しても等しく安心して生活できる環境づくりに向け、障害のある市民、関係者等と共に努力していきたい。

(かわねのりお 千葉県佐倉市福祉部長)