音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

  

「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2011年11月号

評価と期待

市町村から見た「障害者総合福祉法の骨格提言」

松本寛

はじめに

平成22年(2010年)4月、「障がい者制度改革推進会議」の下に、障害者、障害者の家族、事業者、自治体首長、学識経験者等、55人からなる「障がい者制度改革推進会議総合福祉部会」が設けられ、皆さんが障害者総合福祉法の制定に向けて熱心にご議論されてきたことに敬意を表したい。また、最後のまとめの部分では、お互いの主張がぶつかりあい、一本の提言としてまとまることができるのか、最後までハラハラの状態であったと聞き及んでいるが、最後には皆がまとまって一冊の提言書として出来上がったことは、非常に価値があることである。

今回の「障がい者制度改革推進会議」を基にした仕組みは、国版の「地域自立支援協議会」である。各市町村の地域自立支援協議会において「全体会」、「運営委員会」、「部会」で構成する形は全く同じであり、毎年協議した内容を提言や報告書としてまとめ、行政に提出している地域自立支援協議会もあることから、今回、提出された提言書を国はどのように施策に反映させていくのか、自治体としてはその手法に大いに注目している。

市町村として気になる点

ここでは、利用者への窓口となる市町村として、特に気になる「支給決定」と「財源問題」について考察したい。

「支給決定」については、提言書で新たに提案している支給決定の仕組みは「協議調整モデル」と言われている。この方法について、時間がかかる上に大変で実施できないと思われている向きもあるようだが、現状、各市町村が行っている方法と何ら変わることがないものである。市町村職員が、心身の状況の把握、ニーズ調査を行い、支援ガイドラインに照らして決定を行う方法は現状でも行っているのである。ただし、現行の自立支援法で定めることとなっている「支給決定基準(=支援ガイドライン)」は、ほとんどの市町村でクローズされている。

今後は、この基準の策定にあたっては、当事者と行政、相談支援事業者、サービス提供事業者等の関係者が参画し、地域のその時点での地域生活の水準を踏まえて協議して策定していこうというものであり、これは市町村職員のみならず、当事者や相談支援事業者等、策定に参画する者は市町村内の状況についてかなり熟知していることが求められ、これらの人材を養成、確保し、策定を進めていくことは大変な作業である。

また、提言では「障害程度区分」を使わずに支給決定をするとしている。知的障害者や精神障害者については、一次判定から二次判定の変更率が4割から5割以上であり、身体障害者を含めた三障害が、同じ区分として適切に認定できているのか、当初から疑問の声が出ていた。また、本来、地域間格差の縮小を目指すために導入されたものであるが、その目的が達成されているとは言いがたく、とにかく、現行の障害程度区分を使わないとしたことには賛同したい。

「財源問題」については、現行では、障害程度区分を用いた国庫負担基準が設けられ、事実上の国庫負担上限となっている。平成22年度中核市で行ったアンケートでは、半数以上の市において対象経費が基準額を上回っていた。負担金、補助金というやり方について、ここで是非を述べることは控えさせていただくが、市町村にとって、国庫負担額を超えて全額を負担していくというのは、心理的に支給量の抑制に働くのは仕方がないことである。

提言では、現行の国庫負担基準以上の負担は国の負担としている点は大いに評価したい。また、地域移行を先進的に進めてきた市町村に過剰な負担を強いらないよう居住地と出身地で折半する案が示されているが、現場を預かる市町村としては、どちらが援護の実施主体なのか責任の所在があいまいになり、管理を行っていく上でも不都合が生じてくると思われることから全面的に賛成はできない。

図 訪問系サービス拡大図・テキスト

長時間(8時間以上)のホームヘルプを使う場合の負担割合について、上図の案が示されているが、市町村が拠出した1%を県内で配分するのであれば、隣接する市町村間で、常に拠出する市と常に受け取っている市が生まれかねない。障害者権利条約第19条の「他の者と平等な選択の自由を有しつつ地域社会で生活する平等な権利」を実現するのであれば、一定時間以上のホームヘルプにかかる費用については国が負担するべきではないだろうか。

さいごに

我々、市町村もそうだが、利用者にとっても、これまでの度重なる法改正等に翻弄され、疲弊している感がある。新たに制定される「障害者総合福祉法」が、この提言を基にした、だれにでも分かりやすく安定した制度となることに期待したい。

(まつもとゆたか 兵庫県西宮市障害福祉課)