「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2011年12月号
1000字提言
文字盤教室と私
北谷好美
ALS(筋萎縮性側索硬化症)患者のコミュニケーション手段は限られています。気管切開後はほとんどの人が声を失うため多くの患者が文字盤を利用しています。私は口文字と文字盤を併用しています。
文字盤とは、五十音・数字などが書いてある縦横22×39センチメートル、厚さ1ミリ(高井式)の透明なアクリル板です。それを介護者が持ち、患者の顔の前で文字盤を挟んで向き合い、目と目が合ったところで患者が瞬(まばた)きします。介護者がそれを1文字ずつ読み取って単語や文章にし、患者とコミュニケーションを取る道具です。
しかし、このような素晴らしいコミュニケーション手段があるにもかかわらず、ほとんどの患者が病院で看護師や医師とコミュニケーションが取れない、取ってもらえないことを嘆いています。
2003年にALS患者・高井綾子さんが国立看護大学校で文字盤教室を始めました。生徒が二人一組で文字盤を使って読み取りの練習をし、最後に患者と文字盤で会話をするという授業です。娘の直子さんは文字盤のコツを分かりやすく説明したDVDを作り、生徒たちに見せています。年1回だけの授業ですが、看護師の卵たちは確実に言葉(声)や文字、手話や点字以外にもコミュニケーションツールがあることを学ぶのです。
何よりも当事者とその場で覚えたばかりの文字盤で会話ができるということが、学生にやる気と感動を与えていると思います。
ところが、2009年3月に綾子さんが他界。文字盤教室の灯を消してはならないという直子さんの固い信念のもと、その年の10月に3人のALS患者が文字盤教室を行い、その様子はTVニュースで放映されました。その中の一人が私で、それが文字盤教室と私の出会いです。
そして、今年は在宅介護概論の一部で文字盤教室。一人で乗り込みました。103人の真剣な眼差しを受けて緊張しました。
素晴らしいのは生徒たちの感性と呑み込みの早さです。感想文には、見たこともないコミュニケーション方法を学び感動した、目と目の会話は心と心を通わせる、看護師になったら文字盤と口文字を使って患者さんの可能性を広げるお手伝いをしたい、医療の現場で最も患者さんに近い存在であるナースにコミュニケーション能力が欠けていては良い看護を行うことはできない、等々、感慨深い言葉が並んでいました。
近い将来、文字盤と口文字が看護・医療・福祉系の学校の必須科目となるように文字盤教室を普及させていきたいと思っています。
(きたたによしみ 日本ALS協会運営委員、主婦)