音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

  

「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2012年1月号

障害者政策委員会に期待すること

障害者政策委員会・合議制の機関の公開とトータルな当事者の参加

大矢暹

障がい者制度改革推進会議(推進会議)は、「政策決定過程をはじめとする障害者の参加」の本来的なありようを大変分かりやすい形で示してくれました。何が分かりやすいかといえば、「公開性による当事者・国民との結びつき」です。その理由などは後で述べるとして、私たちの望む参加とは、政策決定過程に限らず、実施過程も含めたトータルなものでなければなりません。

障害者政策委員会という名称にもかかわらず、第二次意見の「基本的な政策」(障害当事者が過半数を占める構成)が削られたのは気になります。しかし、基本計画の見直し、新法の制定をはじめ実施状況の監視、内閣総理大臣又は内閣総理大臣を通じて関係各大臣への勧告権限発揮に期待が高まります。都道府県に置き、市町村に置くことができるとされた合議制の機関もそれが、ただの条文にとどまるか、権利の実質を保障する制度的具体化に貢献するかは、もう一つの決め手が必要です。競争原理と自己責任の論理が浸透させられているなかだけに、私は、その決め手とは「当事者主体の運動」、「運動への参加」だと思うのです。障害者政策委員会・合議制の機関と結びついた幅広い当事者・関係者・国民の「運動への参加」です。

運動への参加と切り離された場合を知る格好の材料があります。2009年の本誌7月号の特集「政策決定過程における当事者の役割」の一つ「中央障害者施策推進協議会の委員に尋ねる」とした記事です。29人の委員全員に郵送アンケートを実施し、うち22人から得た回答では、「同協議会は障害者政策の発展にあまり貢献できていない」との回答が「貢献できている」と回答したよりも2倍を占め、さらに「あまり貢献できていない」と回答した委員の大半が障害当事者の委員で占められていたとあります。

もう一つは、ある県の知人からの意見です。「障害者の意見交換会を年1回県が主催しています。意見などの案は事前に県や市町村が出しており違う意見は取りあってもらえません。一日仕事を休んで出席しても形ばかり。交通費の要望にも今のところ考えていないとの回答。弱小地域ほど抱えている問題は大きいのに意見を取り上げてもらえる仕組みになっていないのが実情です」

このたびの、推進会議・総合福祉部会のあり方、「公開性」による当事者の運動への参加の広がり、国民との運動的結合は、こうした中央・地方の実情を改革していく大きな風になったと思われます。

推進会議と事務局の努力・英断により、会議資料や議事録、推進会議の終始の映像公開が毎回行われました。私たち聴覚障害者にとって画期的だったのは、CS障害者放送統一機構『目で聴くテレビ』による手話や字幕を付けた映像配信でした。その製作費の公的負担の程度が気になりますが、ここでは問題提起にとどめます。

さて、障害者・関係者は茶の間で、あるいは『ひろば』である拠点施設・作業所等に集い、感想や意見を交わし合いました。公開された情報は、ホームページやメールなどでコメント付きで駆け巡り関心を広げました。障害者権利条約について、その批准について、合理的配慮と差別について意見を交わし合う、全国規模のフォーラムが幾重も展開されました。それは、地方でも同様で、地方自治体での差別禁止条例の制定や、障害者総合福祉法制定に向けて障害当事者の声をとの意見書採択につながっていきました。

推進会議・総合福祉部会が映像も含め公開された最大の効果・成果は、推進会議とつながる、広範な当事者・関係者・国民の行動、「運動への参加」です。これは、意識的・目的的であったのかもしれません。

要求の主体は要求実現の主体です。要求実現の主体は運動主体であり、そうあってこそ、権利主体としての実質を得ることにつながるのです。権利主体とは、変革主体を通じて確立していきます。改革への行動・運動を積み上げ、さらに積み上げる過程を通じて、個人と集団と社会がエンパワメントされ、実質的な権利保障の具体的制度を練り上げて行くのです。

私の所属してきたろうあ団体は、1966年、ろう学校における差別・ろう教育の民主の闘いを通じて3・3声明という行動指針を明らかにしました。機能差を恥じたり、従属的で、差別に耐える生き方は決して自立ではない、自らの人生を権利主体・変革主体として生きることが社会的自立でないか。我らの精神的・社会的孤立を社会連帯に転化発展させていこう。そのなかで豊かな人格的発達を勝ちとろうという宣言決意です。今日、圧倒的多くの当事者団体・個人は、このような、「自立・発達・連帯」を自らの行動指針としているのですから、障害者政策委員会との響き合いが大きくなるのは当然です。

したがって、大切なことは、これからの障害者政策委員会や地方の合議制の機関のいっそう充実の図られた情報「公開」です。それが、さらなる「自立・発達・連帯」の運動参加の渦を巻き起こし、国民への理解と合意、その延長線上での財政支出に裏付けられた改革を、前に進めていくのです。

(おおやすすむ 特別養護老人ホーム淡路ふくろうの郷施設長)