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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2012年1月号

列島縦断ネットワーキング【東京】

“かっこよさへの挑戦”義肢装具学会でのファッションショー

松田靖史

2011年10月22~23日、東京ファッションタウンビルで第27回日本義肢装具学会学術大会が開催されました(大会長:国際医療福祉大学大学院 福祉援助工学分野・山本澄子先生)。この学会は福祉機器の中でも特に義肢装具を中心にした学術的な集まりです。この27回の学術大会は視点を変えた取り組みがいくつかありました。一つは3・11大震災の企画です。特に義肢装具のユーザーはほぼ全員が移動についての困る事があり、復興への道のりもまだ半ばである中、心に響く報告でした。二つ目がファッションショーです。

このファッションショーは「特別企画2 かっこよさへの挑戦―義肢装具福祉用具ユーザーのファッションショー―」として、10月23日(日)の15時50分~16時50分に東京ファッションタウンビルのホール300で開催されました。普通のファッションショーはデザイナーが考えて作った衣装を見てもらうのですが、義肢装具学会のショーは、義肢装具福祉用具ユーザーの方々にモデルさんになってもらって、自分が本当に着たい衣服をリフォームしたり新しく作って着てもらうことに意義があります。そのための工夫や服を選ぶ楽しさをショー形式に加えてスクリーンでも学会員に見てもらいました。

またデザイナーや衣服製作者だけからの発信ではなく、モデルさんからも義肢装具や福祉用具に望むことについて提言してもらいました。

そんないろいろな内容を全部、アカデミックな学会の中でありながらも、クールな選曲と凝ったライティングでショーアップしてのお披露目になるよう、企画者、スタッフ、裏方、モデル、学会参加者、etc、皆が笑顔でノリノリで楽しめるイベントにしたつもりです。そしてそうなりました!ショーの最後には参加したモデルさんやスタッフが、そしてフロアからも「感激しました」「学会で涙したのは初めてです」「私にももっともっとできることがあるんだと気付きました」という賛辞ばかりをいただいて、涙のウルウルで心が洗われた気持ちになりました。

またこのような企画がどこかでできたら…。いいえ、これがきっかけで日本中に「オシャレとかっこよさ」を気にする義肢装具+福祉用具の関係者が増えれば、別にショーなんかしなくても、そこら中の街のストリートのどこででも普通にオシャレさんになった機器ユーザーが見られますよ。ぜひ皆さんも何事もあきらめずに、まずはオシャレなジャケットを羽織って2012年の華やいだ街に出かけていきましょう!

では、ファッションショーの報告を簡単に…。当日は6つのシーン(テーマ)に分けてショーは進みました。シーンリストと説明です。

・Scene 1(Prologue);ハンプティアンプティ(HUMPTY-AMPUTY)

マザーグースの歌詞に出てくるハンプティダンプティ(HumptyDumpty)に切断者(Amputee)をかけたプロローグ「ハンプティアンプティ」は、4人の義足ユーザーがバンタンデザイン研究所のプロデュースで一点物のオートクチュールを身にまとい義足を見せる装いで、観客の目をひきつけて、まずはフロアを大盛り上がりさせました。

・Scene 2;オシャレ探求者たち(Fashion-Monger)

続くは3人の女性車いすユーザーです。車いすユーザーのオシャレで気になるのは、漕ぐ時の手首から肘までの汚れとジャケットのラインとスカートやパンツの前身頃と後ろ身頃の違いです。それぞれのユーザーの工夫とこだわりを損なうことなくデザインとリフォームの両方から「きれいにかわいく」仕上げました。せっかくのステージなのに初めに出たBさんはコメントも無しでさっさと降りてしまいました。みんなの「なぜ?」は最後に分かる仕掛けです。

・Scene 3;カジュアルボーイ(Casual-Boy)

20歳になったばっかりのかわいい系の男子がモデルさんです。若くて障害をもつ人は「良い人で居ないといけない」観念が強くて…。いつも金属支柱の短下肢装具を隠したCASUALな平均点狙いの服装で、時には短パンやB-BOY系も着てみたい!本当に悪いのはダメですが、ファッションはGOODとBADの絶妙なバランスがCOOLなんです。ラフな短パンのカジュアル系から小物の付け外しとライダーズジャケットだけでBAD系への早変わりをステージで演じてもらいました。

・Scene 4;クールレディ(Cool-Lady)

先天性欠損の方は義手を使わなくても日常生活をほとんどこなせます。しかし義足は移動に関わりますので不可欠です。手足の障害を隠すのではなく衣装と所作で美しく見せる(魅せる)ための工夫をしました。モデルさんは自らステージで歌いたいと見事なジャズを披露してくれました。

・Scene 5;ダンディユー(DANDY ”U”)

かっこいいオットコマエのおじさまが4人。皆さん対マヒや片マヒのある方です。マヒのある手足で脱ぎ履きとなると、ついゴムのズボンや面ファスナーで着るラフなラインで緩いシルエットの衣服になってしまいますが、フックやベルトを工夫することでスタイルを崩すこと無くトラッドでオシャレなファッションが実現します。ダンディユーの「ユー」はおじさま(UNCLE)のUとあなた方(ユー=YOU)のユー。障害の有る無しにかかわらずオシャレは誰でもが楽しめます。

・Scene 6(Epilogue);マリエ(”MARIE”)

最後のシーンは荘厳な音楽に変わって、ランウェイのピンライトの下に立つのは銀色の燕尾(えんび)服を着た新郎役…。ステージにはScene2で出たBさんが純白のウエディングドレスに着替えての登場です。このドレスにも座位に合った工夫がされていて車いすに乗っていても何の違和感もありません。ランウェイの真ん中で出会った二人、新郎からブーケが手渡され、スクリーンには「お二人は来週ご結婚されます」の文字が。本当に挙式のカップルをモデルにしたサプライズの演出でした。大拍手と歓声の中を二人が粛々とステージに戻ると他のモデルさんたちが出迎えてのお祝いでした。

被服は私たち誰もが生まれた時から一生お世話になるものです。誰でも自分の気に入ってる服を着ている時には気持ちが晴れやかになります。反対に、病気やけがによって身体に障害をもたれた方には、「以前の服が着られない」「好きな服が選べない」ということで落ち込んだり、外に出たくなくなることも多くあります。また、一般の医療福祉に従事される方々は確かに専門性は高くて社会に復帰するまではありがたいのですが、実際に目にする福祉用具や義肢装具の目的は分かっていても、それを使って実際に社会に出た街中での動きや日常生活の実情を知らない方が多いように思います。

せっかくがんばってリハビリして、福祉用具を利用しながら外出して人に会う時にオシャレできないのは残念です。仕事にも趣味にも季節の変わり目にも、いいえ近くへの買い物にだってオシャレしたいのは誰でも一緒ではないでしょうか?オシャレするのに年齢や性別や見た目は関係ありません。立ってても座わってても一緒ですし、ましてや障害の有る無しなんて関係ありません!

初めにも書きましたが、今回のショーはモデルさんが着たい服を着てステージに立ってもらうことが重要でした。洋服を見せるだけのショーとは違って、モデルさんのメッセージを伝えることが大事だったのです。そして、今回のショーはモデルの皆さんの笑顔も目的でした。自分が一番着たいと思った服を着て、胸を張って歩いてステージの上で輝くことで一歩前に踏み出せるきっかけになるのではないか?また今までと違う自分を見つけてもらえたらよいなと考えていました。

これにはもう一つの理由があります。オシャレを喜ぶモデルさんのステージを見たお客様(=学会参加者)に何かを感じてほしい。それが今後の福祉用具や義肢装具を利用するみんなへの素敵な支援に繋がっていくであろうということです。

ショーが終わって鳴りやまない拍手を裏で聞いていてボクは目頭と胸が熱くなりました。スタッフ全員がモデルの皆さんに教えられたことがたくさんありましたと言います。ボクもたくさん教わりました。ボクはそんなショーに関われたことを誇りに思っています。

(まつだやすし 川村義肢株式会社K-Tech)