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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2012年1月号

列島縦断ネットワーキング【神奈川】

スポーツ集団「TSA」

齋藤禎彦

私たち「TSA」がスポーツ活動を始めてから25年ほど経ちました。最初は障害者を含めた4人~5人が集まって年に数回のスキーを中心に活動していましたが、だんだんと参加する人が増え、企画するスポーツの種類も増え、今では障害者と健常者を合わせると50人を超える集団になりました。

「TSA」ってどういう意味ですか、と聞かれることがありますが、私たちの代表が義肢装具士の高橋(Takaha

shi)さん、スキーは雪(Snow)のスポーツ、滑る姿はまるで曲芸師(Acrobat)、ということでそれぞれの頭文字を取って「TSA」という名称にしました。

現在はスキーだけではなく、バドミントン、陸上、ハイキングなども企画し、最近始めたアンプティ・サッカーにも熱を入れて練習しています。どの企画に参加するかは自由で、一つのスポーツに集中して取り組んでいる人もいれば複数のスポーツに参加している人もいます。人にはそれぞれ苦手なスポーツや好き嫌いもあるので、興味のあるスポーツを可能な範囲で楽しむことを基本にしています。また、参加中はすべて個人の責任で行動することも約束事の一つです。

TSAの最初のスポーツであるスキーでは、全日本スキー連盟の正指導員資格を持つ片足のスキーヤーから、まだ思い通りに上手く滑ることができない初心者まで幅広い人がいます。毎年1月初旬にスキーツアーを企画し、健常者を含めて毎回30人~40人の参加者が新春のゲレンデを堪能しています。初心者向けの講習会も開いて安全に楽しく滑れるようレベルアップを図っています。これまでに国内スキーツアーとして北海道のスキー場、海外スキーツアーとしてアリエスカ(アラスカ州)、アスペン(コロラド州)、ニュージーランドなどの広大なスキー場でも滑りました。

バドミントンは夏場のトレーニングの目的で始めましたが、現在では、日本障害者バドミントン協会に登録している選手が全国で最も多いクラブに成長しました。国内の障害者大会や国際大会でメダルを獲得する選手から、ラケットをまだうまく振れない人までさまざまなレベルの人が参加しています。元オリンピック選手を講師として招き、初心者講習会を開催したり上級者向けの合宿を企画したり、参加者各自のレベルで技術的な向上が図れるよう活動をしています。神奈川県からの参加者が中心ですが、東京都や埼玉県、遠くは北海道からの参加者もいます。

活動が活発になってきたアンプティ・サッカーは、2011年12月に、日本で初めて行われた全国大会に神奈川県代表として出場しました。片足の選手がロフストランドクラッチを巧みに使いながらボールを追ってグラウンドを走り回る激しいスポーツです。日本では新しいスポーツですが、参加者を増やしながら全国優勝を目標にさらなる技術レベルの向上を目指して静岡や神奈川で練習しています。

こういった競技性の強いスポーツだけではなく、自然散策のハイキングや山登りなども不定期に企画しています。TSAの企画に参加する障害者は、上・下肢の切断やマヒなどさまざまな人がいますが、運動をしたいという気持ちやもっと上手くなりたいと思うことに健常者と大きな差があるわけではなく、実現までのハードルの「数」と「高さ」が人によって少しずつ違うだけです。身体に障害があっても少しの勇気と工夫があれば、スポーツを楽しむことは可能だと思っています。

最近では、障害者が利用できるスポーツ施設の数も増え、義肢や装具も改良され、まだまだ十分とは言えないまでもより多くの障害者がスポーツを楽しむことができるようになりました。選択の幅も広がり、自分の好きなスポーツを選ぶこともある程度可能になってきています。しかし、最初の一歩がなかなか踏み出せない障害者も多いのではないかと思います。やってみたいスポーツがあっても健常者中心の団体やスポーツクラブになかなか入れないのが実情ではないでしょうか。

TSAとして活動を始めた当初も、やってみたいと思うスポーツがあってもそれができる場所や機会が少なく、周囲には障害者を指導できる人もほとんどいませんでした。ならば自分たちで機会を作り、参加できる時に気軽に参加できるような活動をしたいと思ったことがTSAを作るきっかけでした。いろいろなスポーツに取り組んでいますが、仰々しい役割分担はなく、いたって簡単な組織になっています。

また、「ボランティア」という名札を付けた人もいませんし、教えるのは健常者で教わるのは障害者という図式もありません。上手い人や経験者、知識のある人が初心者を教えていますので、障害者が健常者を教える風景もよく見られます。他の似たような団体と比べるとちょっと変わっているかもしれませんが、長年続けることができているので今後もこの方針で良いと考えています。

私たちTSAの企画は、多くの方々の理解や協力があってはじめて成り立っています。スキーやサッカーなどで利用する施設関係者の方々、バドミントンや陸上でサポートしていただいている方々など、たくさんの人たちに支えられています。そういった人たちの理解や協力がなければ今のような活動はできていないと思います。

これからやってみたいことはまだまだたくさんあります。今後もより多くの障害者が気軽に参加できるよう、いろいろな方々の協力をいただきながら楽しい企画をしたいと思っています。しかし、たくさんの障害者が参加してくれるのはとてもうれしいことですが、TSAでしかスポーツをしないのは良いことだとは考えていません。TSAの企画以外でも友人や家族、会社の同僚や学校の仲間とも一緒にスポーツを楽しめるようになることが大切だと思います。企画に参加して自信がついたら、他のいろいろな人たちとも一緒にスポーツを楽しんでほしいと願っています。これもTSAが目指す目標の一つです。

私たちの活動に興味のある方、一緒にスポーツをやってみたいと思う方は様子を見に来てください。

(さいとうよしひこ TSAスキー班)

◎連絡先:koridan@hotmail.com