音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2012年2月号

世界の障害女性
―DPI世界会議南アフリカ会議に集まった女性の声―

臼井久実子

DPI(障害者インターナショナル)世界会議は大会を4年に1度開催している。第8回大会は「アフリカ障害者の十年」と並行して開催準備が進められ、2011年10月10日から13日まで南アフリカ共和国のダーバンで開催された。参加者は約1200人、ゲストの各国の大臣も女性で、ほとんどのゲストが複合差別および障害女性への課題に言及し、ダーバン宣言にも「すべてのプログラムにおいて、ジェンダー問題に鋭く反応し、障害をもつ若者や女性の能力の開発に重点的に取り組むことを保障すること(仮訳)」などが盛り込まれた。

障害女性について、日本からは筆者が参加し、国連の条約をてこに国内法を変えようとしてきている活動と障害女性の複合差別アンケートの報告をした。性的被害を経験している人が相当数いることはアフリカも日本も共通している。本稿は障害女性がとりわけ多数発言した性暴力の分科会と、障害女性の今後の活動をめぐるセッションからお伝えしたい。第8回大会の参加者の大半はアフリカ地域から来ていたが、カナダ先住民女性やオーストラリア・米国・英国・クロアチアからの参加者もいた。

性暴力の分科会は休む間もなく発言が続いた。「ケアセンターはあるが、ケアシステムに関わる人の障害女性に対応するための教育がない。また、ろう者が被害を受けても警察や弁護士に伝えられない。ワンストップで被害者の手当や法律相談や手話通訳の救援が必要(南ア)」「父親が娘をレイプしていても、父親がつかまると一家の稼ぎ手がいなくなって困るので、農村部では家族が隠蔽(いんぺい)してしまいがち。わが子ならどう扱ってもよいと考えている親もいる。法の執行機関や警察が機能しなければならない(南ア)」「親が貧困のため子どもを家において働いている留守中に、子どもが性暴力を受けがち。加害者にお金を積まれ警察への訴えを取り下げた例もある。親の経済的エンパワメントが必要(ケニア)」「性暴力の被害者は話したがらないが、エンパワメントによって発言するようになってきた。積極的に発言し問題を知らせたい。障害のある少女が教会に行くのに車いすを押してあげると言って近づいた近所の少年がレイプした事件があった。少年の側が警察に賄賂(わいろ)を積んで解決しようとしたが女性団体の働きかけで投獄となった。権利条約が障害女性の問題に効力を発揮することを祈っている(ジンバブエ)」など、困難の中で日々取り組んできていることが話された。

国連の障害者権利条約特別報告者のシュワイブさんは、懇談会で「報告書をまとめあげたところだが、女性が最も脆弱な状態にあり焦点を当てなければならない課題の一つと考えている」と話した。

大会で出会った障害女性は、それぞれが強いパワーと存在感をもっている人たちだった。しかし、アフリカでも日本と同じく、障害者団体の長はほとんどが男性だという。今大会の役員選挙で、5人のDPI評議員のうち女性は再選されたマラウィ共和国出身のレイチェル・カチャジェさん一人である。最終日に障害女性の今後の活動についてのセッションが、議員なども参加して開かれた。

参加者は「開発局の助成はあるが、障害女性が助成金申請書を書けるように支援が必要。障害者の代表を選ぶ時なぜか男性が選ばれているが、ジェンダーの観点を入れるべき(ケニア)」「多くのプログラムや障害者組織の活動が、障害女性のところまで届いていない。ヘルスケアに携わる人への教育や障害女性向けの少額融資を開始している(マラウィ:開発と女性)」「農村地域は特に資金と資源が乏しい。障害女性の声を発し、HIVや環境について教育している(南ア:障害女性リーダーシップ開発プログラム)」など多くの発言があった。それぞれから、障害女性が特に貧困で独自の活動を進める上で固有の困難を抱えていることが話され、大会全体を通じても、アフリカ農村部の女性の貧困とエンパワメントが特に大きな課題になっていると繰り返し語られた。

セッションでは、一つ一つの女性団体や個人は奮闘しているが、ネットワークが各地域でも世界でもまだ弱いという認識を共有し、今後の課題として「活動資金を獲得すること・役員に女性を入れること・女性団体との連携を強めること」を確認した。最後に、「各国・各地から、状況と課題、成果や提案を、文書にしてDPI事務局に送ってほしい。私たちの力はネットワークなのだから、それを強くしなければならない」いう呼びかけで締めくくられた。

世界のどこにおいても、女性のアンペイドワークと低賃金という性差別の構造と障害者差別との複合が、障害女性にとって大きな障壁になっていることが見えてきた。

今年2012年は、韓国インチョンでアジア太平洋障害者の十年最終年評価ハイレベル会議も予定されており、日本の障害者法制化は総合福祉法と差別禁止法が焦点となる。女性差別撤廃条約の履行状況の評価や、障害者権利条約の批准に向けても節目にあたり、それぞれの立場からの検証と今後への取り組み、そして連携が求められている。

(うすいくみこ DPI女性障害者ネットワーク、障害者欠格条項をなくす会)