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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2012年2月号

ワールドナウ

カンボジア初の知的障害者の本人の会が誕生しました
―APCD共催・知的障害ワークショップ

磯部陽子

カンボジアに知的障害者本人の会を作ろう!

国際協力機構(JICA)は、2002年8月に開始したアジア太平洋障害者センタープロジェクト(以下、APCD)を通じて、アジア太平洋地域の障害者のエンパワメントと社会バリアフリー化の促進を目指し、障害分野の人材育成、関係団体間のネットワーク構築、情報支援などに取り組んできました。ここ数年は、従来の活動では相対的に裨益(ひえき)が少なかった知的障害者を重点的に支援することを掲げています。知的障害のある日本人JICA専門家をタイに派遣する等の結果、2009年3月にはタイ初の知的障害者本人の会「ダオルアン(タイ語でマリーゴールド)」が発足、2010年2月にミャンマー初の知的障害者本人の会「ユニティ」が立ち上がるなどの画期的な成果がありました。

そして昨年2011年9月、APCDの協力団体であるカンボジアのコマーピカー財団(Komar Pikar Foundation、クメール語で障害児のための財団の意味)のヴィチェトラ所長はタイ、ミャンマーに続いてカンボジアにも本人の会を設立したいとAPCDに要請、今回のワークショップ開催を協力する運びとなりました。

本人の会設立に向けたワークショップ準備

カンボジア初の本人の会設立に向け、タイのダオルアン、ミャンマーのユニティから選ばれた本人の会代表・家族代表・支援者代表、そしてAPCDで準備チームを立ち上げ、ワークショップのプログラムを検討しました。プログラムは3日間で、(1日目)本人の会について理解するためのセッション、(2日目)カンボジアならではの本人の会設立に向けたディスカッション、(3日目)本人の会の推進アクションプラン検討、としました。最も工夫したポイントは、本人の会の自立発展(サステナビリティ)をいかに促進するか。そのために今回は将来、本人の会を支えるカンボジア人サポーター候補20人をワークショップのファシリテーターとして参加してもらうことで、コミットメントの醸成・経験知の蓄積を通じ、サステナビリティを担保することとしました。

カンボジア初の知的障害者本人の会、「ローズ」発足!

会場であるプノンペンホテルには、カンボジアから知的障害者本人とその家族、NGO職員や政府関係者等、総勢110人が集まり、社会問題・退役軍人・青年更生省大臣の開会式スピーチの後、ワークショップをスタートしました(2011年12月15日~17日)。

初日は自己紹介から始まり、タイのダオルアンのリーダー、ソムさんがタイ版の本人の会についてのプレゼンテーション。午後は、カンボジアならではの本人の会設立の目標や夢のアイデア出しを行いました。2日目は前日のアイデアを踏まえ、いよいよ本人の会発足に向けた本格的な話し合いです。タイ、ミャンマーで本人の会を発足・運営している経験を兼ね備えた先人たちをリソースパーソンとして、また、将来サポーターとしてカンボジアの会を支えるNGO職員、APCD職員がファシリテーターの役割を担い、本人の会設立の意義や会の名称、コミティ、活動の場所や頻度等を話し合った結果、11人のメンバーからなるカンボジア初の本人の会「ローズ」が発足しました。初代リーダーには笑顔の素敵なサンボさんが選ばれました。

ワークショップの目玉:雇用創出活動のデモンストレーション

本人の会の具体的な活動の一つとして、知的障害者の雇用創出活動があります。すでに本人の会を発足しているタイ、ミャンマーで実践中の活動を紹介しました。今回のワークショップで最も盛り上がったプログラムの一つです。臨場感を出すため、会場の中心にテーブルを用意し、活動を披露しあいました。タイのダオルアンは自慢の食器洗い用洗剤の作り方を披露。興味を持ったカンボジアの参加者たちが後で作れるよう、カンボジア現地で購入できる代替の材料も紹介し、参加者を巻き込みながら、みんなでワイワイ洗剤を作りました。

次はミャンマーのユニティ。最近、売り上げが好調というシルクペインティングのやり方をリーダー、副リーダーが披露し、家族代表のお父さんとサポーターのイーマーティンさんが、傍らで応援。

最後は地元、カンボジアのローズ。リーダーのサンボさんと、メンバーのスレイスロさんが古新聞を利用し、買い物用バッグを作りました。その場にいた親たちからは、スーパーマーケット等で売れるよう、カンボジア知的障害親の会を中心にマーケティングの支援をしてはどうか、との発案がありました。

最終日の3日目は、カンボジアの本人の会ローズと家族たちが、今後の具体的なアクションプランを策定し発表しました。ローズは月1回、土曜日の8時~10時にミーティングを行うこと、家族はローズをサポーターと共に支えあって進んでいくことを宣言し、皆が一丸となって今後も継続的な活動を続けていこう!という非常に前向きな雰囲気の中、ワークショップを終えることができました。

3日間のワークショップを円滑に進める上で最も意識したのが、コミュニケーションのアクセシビリティです。知的障害者を含む参加者全員が自ら考え・アイデアを自由に表現できるよう、模造紙や色紙、シールや異なる大きさのペンを用意し、地元のファシリテーターが創り出す楽しい雰囲気の中、ワークショップを進めました。プレゼンテーションも可能な限り写真や絵を用いてもらうよう配慮し、通訳を使っていた3か国の参加者たち全員にとって、分かりやすいワークショップだったと大好評でした。

日本発のナレッジをタイへ、そしてアジア太平洋へ

これまでのAPCDの活動は、日本人の知的障害当事者やその家族を専門家として現地に派遣するなど、日本のリソースを活用する日本基点型の技術移転を行ってきました。一方今回は、日本を含むアジア各国間の縦横無尽型の技術移転である点で大きく異なります。具体的には、本人の会設立・運営を通じて知識と経験を磨いてきたタイのダオルアンがリソースパーソンとして大いに活躍し、それをミャンマーのユニティが支え、カンボジア初の知的障害者本人の会を立ち上げた、南南協力の好事例の一つといえるでしょう。

最後にダオルアンの成功要因を。実は、タイのダオルアンの発展は決して順調ではなく、サポーターが定着しない、関係者からの理解が得られない等、試行錯誤がありました。そんな中で発展を続けてきた成功要因は三つあると考えています。1.本人リーダーが食器洗い用洗剤の開発と販売を思いつき、サポーターがその案にポテンシャルを感じ、即座に作り方を勉強、実行に移した(当事者による発案と、即アクションに手を貸す身近な者の存在)。2. 売り上げが伸び悩んでいたところ、洗剤の質は高いが、デザインを変えれば売れるのではないか、と気づいた者がいたこと(ボトルネックに気づく第三者の存在)。3.長期的に彼らに寄り添い、力づけてきたAPCDの存在(長期的に応援する者の存在)。これらの成功要因をアジア太平洋の知的障害者と支援者たちと共有するため、APCDではワークショップのレポートを作成中です。近い将来、タイ・ミャンマー・カンボジアが手を取り合い、近隣のベトナムやラオスでも本人の会が設立され、知的障害のある本人たちが自ら住みやすい社会を作り上げていけるよう、今後も応援していきたいと思っています。

(いそべようこ アジア太平洋障害者センタープロジェクトフェーズ2 JICA専門家)