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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2012年2月号

知り隊おしえ隊

高齢者も障害のある人も使える共用品

森川美和

「共用品」とは、“さりげない”、“ちょっとした”配慮を行うことで、高齢者や障害のある人たちを含むより多くの人が使いやすくなった製品のことを言います。

“さりげない”、“ちょっとした”配慮とは、どのようなことなのでしょうか。トランプの例を用いて説明してみたいと思います。

“さりげない”、“ちょっとした”配慮

図1を見てみましょう。これは一般に販売されているトランプですが、何かいつものカードと違いませんか? 実は右斜め上の数字やスート(ハートやダイヤなどのマーク)が、前のカードに隠れてしまって見えていないのです。

図1
図1

通常多くの方が使っているトランプは、右利きの人が使いやすいようにできています。そのため、左利きの人が開くと図1のようになってしまうのです。

図2のように、最初から四隅に数字やスートがついていたらどうでしょうか? 右利きでも左利きでも不便なく使えると思います。

図2
図2

図3のように数字が大きくなり点字をつけると、目が見えにくい人や見えない人も遊びやすいトランプとなります。高齢者にとっても使いやすくなります。

図3
図3

さらに、図4のようにトランプを置く台(ホルダー)を用意すると、手の自由が利きにくい人にとっても使いやすくなります。

図4
図4

このように一つのモノに、“さりげない”、“ちょっとした”配慮を加えていくと、多くの人に使えるものが生まれます。

この考え方が共用品の基本的な考え方です。ユニバーサルデザイン、バリアフリーやアクセシブルデザインなどさまざまな言葉があり混乱するかと思うのですが、これらの言葉はすべて今あるモノや、これから生まれるモノがより多くの人にとって使いやすくなることを目的に生まれた言葉だと思いますので、個人個人が使いやすいなじみやすい言葉を用いられるとよいかと思います。

共用品の例

さて、ここからは「共用品」という言葉を用いて、いくつか事例を挙げてご説明したいと思います。みなさんがすでにご承知のものもあるかと思いますが、生まれた背景についても説明しますので改めてご覧いただければと思います。

◎目を閉じていても分かるシャンプーボトルのギザギザ(図5)

図5
図5

「洗髪時、シャンプーとリンスが目をつぶっていても区別できるようにしてほしい」「目が不自由なので、シャンプーとリンスの容器の区別がつかない」。このような声が聞かれはじめたのは、今から十数年前のことです。件数こそ多くはなかったのですが、継続的にその不便さの声が聞かれたため、この問題を解決しようと最初に研究を始めたのが花王(株)です。

花王は、まず研究チームを編成し、改めて消費者の実態調査を開始。障害のあるなしにかかわらず、約6割の方がシャンプーとリンスを誤って使用した経験があることが分かりました。

さらに研究チームは、目の不自由な方の洗髪行動を把握するため、盲学校を訪問、生徒や先生などの話を聞きました。消費者の生の声を収集し、識別方法の考案を 繰り返し、試行錯誤の結果、完成したのが「ギザギザ」です。

完成したギザギザ入りシャンプーを実際に使用してもらうと、目の不自由な人たちから「持った瞬間に分かった」「安心して使えるようになった」など95%の支持を得、一般の人からは「手触りで確認できる」「消費者に対する心配りがあってよい」など約70%の支持を得ました。

花王はこうした一連の調査を通して、1991年8月に生産を決定し、同時に日本化粧品工業連合会にこのような配慮の業界への普及を提案しました。

日本化粧品工業連合会では、この提案を前向きに受け止めて討議を繰り返し、会員企業への周知を図りました。やがて、(株)資生堂、ライオン(株)、日本生活協同組合連合会、日本リーバ、牛乳石鹸、などの各社が付け始め、徐々にその一連の活動がマスコミにも取り上げられるようになると、報道が後押しとなって、多くの人々に知られるようになりました。

使い手の身になって考えられたシャンプーボトルの「ギザギザ」は、一人でも多くの人の不便さを解消するために誕生したものです。しかも、この「ギザギザ」の生みの親は、消費者という使い手の生の声だったのです。

◎触っただけで分かる牛乳パック(図6)

図6
図6拡大図・テキスト

牛乳パックの切り欠きは、平成7年頃に行われた「視覚障害者アンケート調査」や「飲み物容器に関する不便さ調査」、「飲料類紙容器にかかる視覚障害者・高齢者のアクセス改善の方法」の調査結果が大きく影響しています。

視覚障害者が日常の食生活で、特に不便を感じているものは、同じ形の紙パックの中身が何だか分からないというものでした。その調査で「牛乳とその他の飲料を区別したいか」という問いに対しては、約8割の人があればよいと言いました。

そこでバリアフリーを進める団体の人たちが集まって、紙パックの識別を検討する勉強会を設け、いくつかの試作品を製作して、実際に目の不自由な人たちに触ってもらって識別ができるか聞き取り調査をしました。その結果、触って分かる「切り欠き方式」が100%の確立で識別できるということが分かったのです。

牛乳パックの切り欠きを推奨していた団体は、行政や業界団体に「識別のためのマークをつけることの必要性」を説明しました。当時、担当行政窓口だった農林水産省畜産局は委員会を設置して、約3年間も慎重な検討を重ねました。提案から約7年の歳月を経て誕生したのが「牛乳パックの切り欠き」でした。JAS規格(日本農林規格)では、牛乳容器以外のものに切り欠きを施すことを禁止していて、切り欠きが入れられるものは100%の牛乳(種類別の欄に「牛乳」と書いてあるもの)だけです。切り欠きはJIS(日本工業規格)にもなっています。

◎足の不自由な人や高齢者にとっても履きやすいシューズ(図7)

図7
図7

私たちの右足と左足の大きさは微妙に違うことを知っていますか? 大きい方の足で靴を選ぶと、片方が合わなくなり、合わない方には、つま先に“つめもの”をすることが必要になってきます。それでは、小さい方の足で選ぶとどうなるでしょう? 大きい方の足のつま先が少し曲がった形になり痛くなります。

「靴はぴったりくるものがないので、ある程度我慢しなくちゃいけないもの」とあきらめ履き続けると、足指がゆがんでしまったり、靴擦れなどができたりして、歩くことが苦痛になってしまいます。
足の大きさが違うだけでも靴選びには苦労しますが、義足などの装具を使用している人や、はれやむくみのある人であればなお大変です。

主にお年寄りや足の不自由な方たち用として、はれやむくみだけでなく、装具着用にも対応した左右サイズ違いの組み合わせもできるようになっている靴があれば助かりますし、片方だけが傷んでしまった場合には片方のみ注文することができればなお、助かります。マジックテープで装着するタイプで操作が簡単、手の力の弱い人や細かい操作ができにくい人にも安心して使うことができる、そんな靴もお店や通信販売で見られるようになりました。

◎高齢者や手の力の弱い人に使いやすいオープナー(図8)

図8
図8

ペットボトルや缶のフタを開ける時に、“開けにくい”と思ったことはありますか? 普段、特に手の力に不自由を感じていなくても、いざ開けるとなると簡単には開かない時があります。これが、指先がうまく使えない人や、手の自由が利かない人たちにとっては、とても不便です。

しかし、簡単にフタが開けられるようになってしまうと、ペットボトルを工場などから輸送する時の振動や、飲み物の中身を確かめるためにちょっと触った時などに、簡単に開いてしまって中身が出てしまうことがあるかもしれません。そうなると安全面や衛生面でとても心配です。

ですから、しっかりとフタは閉まっていた方がいいのですが、「飲みたいのに飲めない」のでは、どうしようもありません。

そこで利用したいのが「オープナー」です。ペットボトルのフタや缶のプルタブを簡単に開けられるオープナーは、高齢者や手の力の弱い人にとっても大変使いやすく、軽くて手の平におさまる大きさなので、持ち運びにもとても便利です。

◎耳の不自由な人たちとコミュニケーションがとれる簡易筆談器(図9)

図9
図9拡大図・テキスト

交通機関(空港、鉄道等)、デパート、携帯電話ショップやホテル、銀行、役所など、筆談をしたい時に、書いてすぐ消せるような簡易筆談器があるととても便利 です。お客様と窓口の人の会話を円滑にするための製品の一つですし、手話はできないけど、耳の不自由な人とコミュニケーションをしたい人や、喋りたいけど話すことができないろう者や咽頭摘出者とも会話ができます。

共用品とは特別なものではなく身近に存在するものです。ご自宅の冷蔵庫の中や家電製品、お手持ちの筆記用具などにも見つけることができますし、コンビニエンスストアやスーパーでは、ビンやプラスチック容器に点字がついたモノもあります。駅校内では見やすい電光掲示板の表示や音声案内も増えてきました。

共用品が増えた背景には、障害のある人々や高齢者の声がきちんと製品作りに反映されたことにあります。決してネガティブではなく、ポジティブに社会を変えていこうとする声は強力な力があります。一つでも多くのモノが多くの人にとって使いやすいものになるよう、今後も皆さんとともに共用品の普及を進めていきたいと思っています。

(もりかわみわ (財)共用品推進機構)

(参考:共用品検索ページ http://www.kyoyohin.org/20_search/index.php