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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2012年3月号

いわて支援センターの活動
~岩手の未来へ少しだけ~

小山貴

岩手県に「JDF東日本大震災被災障がい者支援いわて本部」が開設されたのは昨年の9月、支援センターに関しては、2月下旬開設の予定で準備中である。

宮城・福島より遅れての開設になったのには理由があり、岩手県では民間団体が岩手県社会福祉協議会の下に集結し、細やかな情報交換や連携を取りながら活動ができていたことによる。

これは、岩手県社協にある「障がい者福祉協議会」と「知的障害者福祉協会」が震災後に合同支援プロジェクトを立ち上げたことに始まった。そのミーティングの場にさまざまな団体が参加し、途中「東日本大震災障がい者支援活動推進プラットフォーム会議」と名称変更し、現在も団体間で連携を密に取りながら活動を行っている。

今、震災から1年が経過しようという中で徐々に緊急支援は一段落をしてきた。しかし、災害を機に顕在化した「震災前から地域が抱えている障がいのある方を取り巻く問題」を解決するには時間が足らず、「今後の地域復興の中で共に考える」といった長期の視点での活動の必要性を感じ、JDFでは陸前高田市に拠点を構え、当面2年間の活動を行うこととした。

この陸前高田市であるが、報道等でもご存知の通り、この震災により甚大な被害を被った所の一つであり、現在も岩手県で唯一、障がいのある方の被災状況が明らかになっていない街でもある。

震災後の岩手県での障がいのある方の安否確認を含む状況把握についてだが、全国からの応援を含む保健師チームのローラー作戦と、岩手県が4月当初から相談支援専門員を中心に沿岸部に設置した3か所の「被災地障がい者相談センター」のスタッフが自治体と連携を取りながら安否確認を行っている。

自治体でも地域住民の安否確認を、全国の自治体からの応援を得ながら行っているが、壊滅的な被害を受けた状況下では「その方は障がいをお持ちの方か否か…」といった観点で全住民の安否確認を行う余裕はなかったようである。

このように、関係機関が連携を取りながら安否確認を行ったのにもかかわらず、なぜ障がいのある方の被災状況がいまだはっきりしないのだろうか。

陸前高田市は市役所本庁舎は津波により全壊、市職員295人中68人が犠牲になっている。ただし、この犠牲者は正職員の数であり、非常勤の嘱託職員が多かった陸前高田市では、その数を合わせると429人の職員中113人の方が犠牲になっている(行方不明を含む)。そういった状況の中で、震災前から社会福祉課に属していた職員は4人(うち正職員は2人)しか残っておらず、非常に困難な中での業務を強いられている。

県が設置した「被災地障がい者相談センター」も6月には終結、手帳保持者のデータが市に復旧したのは6月であったが、最終的に全容が明らかになるまでのフォローアップはなされていないため、マンパワー不足に悩まされている被災自治体に残された課題はそのままになっている。

国でも分からず、県も市町村から報告が上がってこなければ分からないという。

ここで、自ら声を発することができない障がいのある方の状況を、今回のような大規模災害時に、だれが責任を持って確認をし必要な支援に繋げなければならないのか。また、行政機能が完全にマヒした状況下でのフォローアップをだれが行うのか。それが国なのか県なのか、それとも壊滅状態にある被災自治体が行わなければならないのか。この部分での責任主体をはっきりさせなければならない。それを行わないことには、今後どこかで必ず起こり得る大規模自然災害が発生した際に、災害弱者は同じ状況に置かれてしまうであろう。

私たちは今後、障がいのある方の支援をする活動の中で「発災直後から障がいのある方々がどのような状況に置かれ、どのような問題があったのか」といった問題を、さまざまな側面から明らかにし、今後に繋げる必要がある。

今回、このような問題を抱えた地域に入るに当たり、陸前高田市と協議や懇談を行ってきたが、その中で「障がいのある方の未来」へ一筋の明るい光が見えてきた。

陸前高田市は、今後の街の復興の中で「共生社会」を目指すとし、戸羽市長は復興計画の中で「陸前高田市から『ノーマライゼーション』という言葉を無くしたい」と話された。また福祉課の方々も「街が0(ゼロ)になってしまったので、復興の中でユニバーサルデザインを導入しやすい状況にあり、逆にこれは最大のチャンス」と考えている。

これは地域の障がいのある方のみならず、インクルーシブな社会の実現を目指す我々にとっても非常にうれしい考え方である。

今後、この陸前高田を中心とした活動の中で、当事者の方々の声を拾いながら「復興へ向かう街づくりの中に、障がいのある方々の声を反映する」ためのお手伝いをさせていただく。

ただし、最終的に地元の方々に力を発揮していただくのが目的で、我々はあくまでも「ただの黒子に徹するのみ」である。

(おやまたかし JDFいわて支援センター事務局長)