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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2012年3月号

JDFみやぎ支援センターの支援活動と今後の課題

小野浩

1 いまだに不明な障害のある人の被災状況

震災発生から11か月を経た2012年2月6日現在、東日本大震災による死亡者数は15,846人、いまだ安否が確認されていない人は3,320人も残されている。宮城県は9,508人の人が亡くなり、1,778人の安否が確認できていない。しかし、この死亡・安否未確認者11,286人のうち、障害のある人の被災状況は、行政も把握できていない。

2011年10月に、岩手県、宮城県、福島県の3県の津波被害のあった沿岸部自治体に対して毎日新聞が行った調査によると、住民全体の死亡率に比べて、障害のある人の死亡率は2倍以上に及んだことが判明した。回答のあった市町村の住民の死亡率0.9%に対して、障害者手帳所持者76,568人のうち犠牲者は1,568人にのぼり、死亡率は2%に達していた。宮城県でもっとも死亡率が高かったのは女川町の14.2%、次いで南三陸町の8.2%、石巻市の7.4%、山元町の6.3%だった。

宮城県では、現在、障害者手帳の再発行者数の把握をすすめているが、2012年1月、ようやく身体障害者手帳の再発行者数が判明した(療育・精神障害者保健福祉手帳の再発行者数は調査中)。そのうち、沿岸部の自治体の再発行者数とその割合は、次のとおりである。

女川町の19.4%がもっとも高く、次いで南三陸町の15.0%、気仙沼市の7.9%である。これらの人たちは、地震と津波の被害に遭い、それによって身障者手帳を紛失した人たちである。毎日新聞調査の死亡率の高かった自治体と再発行率が同一傾向であったことからも、障害のある人の被災状況の大きさがうかがえる。

宮城県沿岸部の身障者手帳再発行者数の割合(2011年4月~12月末)
棒グラフ 宮城県沿岸部の身障者手帳再発行者数の割合(2011年4月~12月末)拡大図・テキスト

しかし、これら身障者手帳を再発行した人たちが、現在、自宅で暮らしているのか、はたまた仮設住宅もしくは見なし仮設住宅で暮らしているのかは定かではない。

2 障害者支援事業所の被災状況と現状

JDFみやぎ支援センターは、在宅の障害のある人の生活状況の把握と同時に、県内500か所の障害者支援事業所の被災・再開状況の調査を行ってきた。2011年6月15日現在では、500か所の事業所のうち、損壊のなかった235か所の事業所、ならびに軽微の損壊にとどまった227か所の事業所の多くは、震災後の一定の時期に再開していた。

また、流失・焼失・全壊・半壊してしまった事業所は38か所あり、そのうち、既存の建物を修繕して再開したところが15か所、他の建物やプレハブ等を利用して再開した事業所は13か所だった。

しかし、6月15日現在においてもなお、閉鎖し再開のめどが立っていないところが10か所あり、その事業内訳は、グループホーム・ケアホームが5か所、児童デイサービスが2か所、就労継続支援B型、就業・生活支援センター、地域活動支援センターが各1か所だった。

8月末では、6か所の事業所が未再開のままであったが、2012年2月現在においても、1か所の事業所が未再開のままである。

3 把握されていない被災障害者の生活状況

2011年12月中旬、女川町と気仙沼市の避難所生活者の仮設住宅への移行が完了して、ようやくすべての避難所が閉鎖された。そのなかには、障害のある人とその家族も存在した。

宮城県では、県内に約22,000戸の仮設住宅が整備され、そのうち高齢や障害福祉のグループホーム等を適用した「福祉仮設住宅」が290戸整備された。

当初、宮城県は3万戸の仮設住宅の整備を計画していたが、一般の借上げ住宅を希望する避難者が多かったため、そうした避難者に対しては、「見なし仮設住宅」として家賃補助を支給することとした(4人世帯で月60,000円)。宮城県は、この「見なし仮設住宅」希望者が26,000世帯に及んだため、仮設住宅の整備計画を縮小した。

仮設住宅の多くは、段差や手すりの未整備、寒冷対策・ユニットバス等の設備上の問題点などが指摘されているが、印象としては、阪神・淡路大震災の教訓が生かされなかったといわざるを得ない。

また、自宅を失った重い障害のある人とその家族の多くは、「見なし仮設住宅」に暮らしていると思われる。支援センターの訪問支援においても、重い障害のある人が暮らせる条件を確保するために「見なし仮設住宅」を希望した事例は多かった。たとえば、重度の身体障害のある娘さんとその家族は、入浴やトイレのスペース等の確保と、学校や病院へのアクセスのために、賃貸マンションを「見なし仮設住宅」として暮らし始めたが、支給される家賃補助では、到底暮らしていけないと訴えていた。

しかも「見なし仮設住宅」の要援護者の所在は、市町村が把握できる仕組みになっていないのである。なぜならば、仮設住宅の整備は国・県行政が担当するため、「見なし仮設住宅」居住者の把握と家賃支給は県行政が担当しており、市町村はその情報を入手していない。つまり「見なし仮設住宅」に暮らしている要援護者の実態把握を自主的にしている市町村以外の自治体の障害のある人たちとその家族の状況は、まったく把握されていないのである。

さらに重大な問題は、8,999人に及ぶ県外避難者である。県外避難者にも多くの障害のある人たちとその家族は含まれているはずであるが、その生活状況の把握はさらに困難なのである。7万人の県外避難者が存在する福島県は、もっと深刻な事態にある。

被災者の生活状況
円グラフ 被災者の生活状況拡大図・テキスト

4 おわりに

いま、宮城では、JDFみやぎ支援センターとともに連携してきた「被災障害者を支援するみやぎの会」を母体に、JDFみやぎ(仮称)結成の準備をすすめている。当面は、避難生活を余儀なくされている障害のある人とその家族の現状把握と改善に取り組む。実態を把握しなければ、復興計画の出発点を明らかにすることはできない。その上で、「障害のある人もない人も幸せに暮らせるインクルーシブな社会」づくりを目標に、復興計画への提言にも取り組む計画である。

(おのひろし JDFみやぎ支援センター事務局長)